45.「体育祭は会議室から」
梅雨ということもあり、本日――26日は雨。
空とは本当に気分屋で困る。
だが、空にとって梅雨の時期は泣きたい時期なのだろう。
一年の間に涙腺が緩くなる時期があってもいい気がする。
そんな時期になぜか行われる学校行事がある。
そう、体育祭だ。
梅雨の時期にやるものじゃないと思うのだが、恐らく一年の学校行事を通して入れられる場所が一回目のテストから二回目のテストの間しかなかったのだろう。
実に可哀想な学校行事である。
で、そんな体育祭の準備をしなければいけない学級委員長の僕と橘はもっと可哀想。
はぁ……クラスの生徒が半分いない上にその半分が虐めっ子。
桜木先生が言うには、体育祭までに戻ってくるらしいから適当にその虐めっ子たちの出場競技も決めろとのことだった。
絶対に文句を言われる未来しか見えない。
何を選んでも文句を言ってくるはずだ。
そんなことは今は良くて現在昼休み。
昼食を軽く済ませ、僕と橘は会議室にいた。
理由は体育祭の説明を学級委員長として受けているからだ。
体育祭の準備は生徒会と体育委員(僕のクラスの体育委員は停学中)、学級委員長が中心となって行う。
保健委員や放送委員、広告委員も準備をするが今回の説明にはいない。
説明内容が別だからだろう。
その代わりではないが、今ここに運動部の部長がいる。
理由は体育祭前日準備を運動部の皆さんに手伝ってもらうからだ。
運動部も大変である。
まぁでも、一番大変なのは初めて参加する一年生の学級委員長だろう。
しっかりしている人もいるが緊張が伺える。
あまり人には興味ないが、こういう時だけは念のために顔は覚えるように決めた。
去年も学級委員長だったので体育祭の準備をやったのだが、その時にとても大変な思いをしたからな。
正直、嫌な思い出だ、否、過去だ。
けど、その経験があったからこそ、今年は慣れてる分少しは楽になるに違いない。
「これで説明は終わりとなります。本日の六時間目から本格的に体育祭の準備を初めて行きますが、くれぐれも問題を起こさないようにお願いします。それと何かあれば生徒会もしくは体育委員長に相談してください」
生徒会長がそう言い終えると、一度姿勢を正してもう一度口を開く。
「最後に生徒会長のボクから一言。
今年の体育祭は良いものにしましょう。
以上です。ありがとうございました」
僕たちはそれを聞き、一斉に拍手をする。
それと同時に席を立ち、動き始める。
「楠君、今からどうしますか?」
「今日はもう教室に戻ろうか」
「そうですね」
屋上に行くか迷っていたのだが、少し説明が長引いたので今日は止めておくことにした。
それに……
「楠さんですか?」
三年生の女子先輩から話しかけられたからな。
「楠君に何の用ですか?」
橘は僕のマネージャーか!
楠君と話す時は私を通せといった感じだ。
警戒心むき出しのライオンの母親のようである。
そこまでされると恥ずかしいが、橘は僕に危険がないようにこのような対応をしてくれているのだろう。
「あたしは女子ホッケー部の部長をしている
「それで女子ホッケー部の部長さんが楠君に何の用ですか?」
「あ、あの……本当にごめんなさい」
橘の少し強い口調に怯えながら、日向先輩は頭を下げてそう言った。
それには帰ろうとしていた人たちも片付けをしていた生徒会関係者も驚いた表情でこちらを見ている。
だが、一番驚いているのは僕と橘だ。
「あたしの後輩が楠さんに酷いことをしてしまい本当に申し訳ございませんでした。女子ホッケー部の部長であるあたしの教育がしっかりしてなかったせいです」
頭をあげないまま、そう続ける日向先輩。
何のことを言っているのかはその言葉でやっと理解した。
恐らく虐めっ子の中に女子ホッケー部の生徒がいたのだろう。
それを部長である日向先輩が謝っているということだ。
僕はその光景に感心していた。
こんな良い人もいるのだなぁーと。
後輩の失敗を先輩が責任を取るのは社会では当たり前だ。
しかし、高校生でこれが出来ることは凄い。
部長としての責任感のある素晴らしい人だと言える。
だからか、僕は優しい声でこう言った。
「大丈夫です。だから、頭をあげてください」
「楠君いいのですか?」
「ああ、いいんだよ」
それを聞いてやっと頭をあげた日向先輩の目は潤んでいた。
橘もそれを目にして許そうと思ったのか、それ以上は何も言わなかった。
「日向先輩の気持ちは伝わりました。なので、今はまだ一緒に部活できないと思いますが、後輩が戻ってきた時はもう怒らずに楽しくホッケーしてください」
「楠さん……」
「では、僕たちは失礼します」
僕はそれだけ言い残し、周りで見ていた人たちの間を抜けて会議室を後にする。
「楠君はやはり優しいです」
「いや、全然だよ。日向先輩という人の方が優しいと思うぞ」
「それは私よりも?」
急に張り合うなよ。
はぁ……その表情は求めてる表情だな。
「それはないさ。橘が一番優しいよ」
「そうですか、ふふっ」
そんな会話をしながら僕たちは教室に向かった。
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