43.「相合傘?」

 その日の放課後。

 昼は天気予報通り晴れていたが夕方から一変。

 空は厚い雲に覆われ薄暗く、軽く雨が降っていた。


「天気予報もあてにならないな」

「夕方から雨が降るって言っていましたよ?」

「そうなのか? でも、晴れマークじゃなかったか?」

「表示は晴れマークでしたが、夕方に軽く降るかもしれないと気象予報士の方が口頭で言っていたという感じです」

「なるほど」


 僕はそれを完全に聞き逃していたというわけだ。

 しかし、昼食の時は綺麗な青空だったのに、いつの間にこんな大量の雲が流れて来たのだろうか。

 けど、仕方ないか。

 もう梅雨。

 雨が多い時期だ。


「それでこの雨は一時的なものなのか?」

「分からないです」

「そうか」


 はぁ……少し学校で雨宿りしてから帰ろうと思ったが、逆に激しくなっても困るしな。

 どうしたものかな。

 雨の中を帰るという選択肢しか思いつかないが、もしそんなことを橘に言えば「風邪を引くのでダメです」と怒られるのがオチ。


 そう思っていると、僕と橘の横を男子二人が通り過ぎ、靴を履き替える。


「雨かよ」

「部活オフの日は降るなよ~!」

「それな」

「どうする?」

「傘パクるか」

「そうだな。また返せばいいし」


 そんな会話をしながら誰の傘か知らない傘を二本パクって帰っていった。


「酷いですね」

「ああ、今日必要だから持って来たのにな」

「あのような人たちは見つかって怒られればいいのです」

「まぁいつかバレるよ」


 次はカップルと思われる男女が靴を履き替えている。

 吐き替え終わると同時に雨に気付いた。


「うわぁー、雨降ってるじゃん! 傘忘れたんだけど、俺」

「また? もう梅雨だよ? しっかりしてよ!」

「わりー、わりー!」

「幸いウチは持ってきてるから一緒に入って帰ろう」

「マジでありがとうな! 愛してるよ、みのりん!」

「ウチも好きだよ、いっくん!」


 そんなラブラブな姿を見せ、二人で一つの傘で帰っていった。

 一体、何を見せられたのだろうか。

 アレがカップルというものなのか。

 普通に「愛してる」とか「好き」とか言うんだな。

 しかも、あだ名呼びだったし。

 見ているこっちが恥ずかしくなったわ。


「凄い光景だったな」

「そ、そうですね……」


 弱々しい口調でそう言う橘。

 僕はそんな橘の顔を見てみると、何故か頬を赤く染めていた。


「どうした?」

「いえ、何もないです」

「ならいいが、それよりどうする?」

「あ、あの……」

「ん?」


 いつもとは少し違う感じだ。

 下を向き、もじもじしている。

 トイレに行きたいのだろうか?

 雨も降って気温が下がったしな。


「実は私……折りたたみ傘を持って来たのですが」


 その言葉、耳まで赤くした表情に思わず息を呑む僕。

 何だか雰囲気がおかしい。

 周りには誰もいない。

 もうみんな帰ったか、室内部活だろうか。


「そ、そうなのか。でも折りたたみ傘は二人では無理だろ?」

「大丈夫ですよ。近付けば」

「じゃあそれで帰るか?」

「は、はい。そうしましょう。では、靴を履き替えてきます」


 それだけ言うと橘は小走りで靴を履き替えにいった。

 僕もそれを見てから靴を履き替える。


 ところで、今のは何だったのだろうか。

 変な雰囲気というか、おかしな雰囲気というか。

 分からない。分からないぞ。


 そんなまだ頭が混乱している中、履き替え終わった橘が僕のもとへ。

 僕も丁度履き替え終わる。


「それでは一緒に帰りましょうか」

「あ、ああ」


 橘は傘を開き、下駄箱から外へ。


「楠君の方が身長が高いので傘を持ってもらっていいですか?」

「あ、うん。もちろん」


 そう言い、僕は橘から傘を受け取る。

 折りたたみ傘ということもあって、やはり小さい。

 二人で入ろうと思えば入れるだろうが、かなり近寄らなければいけない。

 絶対に肩と肩が当たったり、手が触れれたりするはずだ。

 それにこれってカップルがするっていうやつだよな。

 友達同士でいいのか? いいのか!?


「それじゃあ帰りましょうか」

「だな……って何してるんだ?」

「何してるって傘に入っているのです」

「それは見れば分かるが、何で……前?」

「えっ? 横だと鞄とか肩とか濡れるじゃないですか」

「確かに」

「というわけで、私が前で楠君が後ろです!」


 橘は軽く振り向きながら笑みを浮かべてそう言う。

 僕はそれにただ納得することしか出来なかった。


「しかし、先ほどは緊張しました」

「え、何で?」

「だって、折りたたみ傘を持ってきていることを言うタイミングが分からなかったので。自然に出せてましたか?」

「あー、そういうことね。超自然だったよ」

「良かったです。友達いないと難しいですね」


 さっき変な雰囲気だったのってこれが理由!?

 おい、マジかよ。

 超不自然に折りたたみ傘を出すなよ。

 普通に出してくれ。

 もじもじとかいらないから本当に。


 それにしても、これ歩きにくいな。

 なんか幼稚園の電車ごっこみたいになってるし。

 周りからも注目されてるし。


 ――はぁ……雨やまないかな。

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