42.「テスト返却」

 5月25日(月曜日)。

 いつも通り制服を身に纏い、橘と通学路を歩き登校。

 少しどんよりとした天気だが、天気予報によると昼から晴れるとか。

 青空が一切見えないこの雲の空を見ていると信じられないが、どうなるかは昼になれば分かるだろう。


 教室に到着してから僕たちは別れ、一時間目の準備。

 今日の午前中の授業は全て先週やったテスト返し。

 しかも、特別に今日だけ午前五時間授業となっており、午後は全校集会が行われるという感じだ。

 昼休みには廊下に五教科の順位と総合点数が張り出される。

 そういうこともあり、今日の教室はいつもより緊張感があった。


 赤点は学年平均点の半分。

 それで赤点者は補習及び再テストだ。

 僕は受けたことないが、なかなか面倒くさいらしい。


 まぁそんなことはどうでも良くて、やはり僕が気になるのは橘との勝負の結果。

 もちろんそれは橘も気にしているだろう。

 今朝は平常に振舞っていたが、それは逆に緊張の現れ。

 緊張していることを隠すために違いない。


 一時間目は数学。

 さぁ結果はどうなるのだろうか?


        ⚀


 ――キーンコーンカーンコーン……


 今のチャイムで午前の授業が終了。

 テスト返却も全て終了した。

 まだ僕と橘はテストの点数を見せ合っていない。

 分かっているのは自分の点数のみ。


「楠君、テストの順位を見に行きましょうか」

「そうだな」


 僕はプリント類を机の中に入れ、ゆっくりと立ち上がる。

 他の生徒はもう廊下に出て行っているようで、教室を最後に出たのは僕たち二人だった。


「ニコニコしているが結果が楽しみか?」

「はい。とても楽しみです!」


 表情を見る限り、テストの点は相当良かったのだろう。

 英語の気にしていた部分も大丈夫だったと思われる。

 これは案外イイ勝負になりそうだ。

 まぁそれも橘が必死に勉強していたからだけどな。


「人が多いですね」

「毎回のことだろ。僕はいつも放課後に見に来ていたがな」

「そうなのですね。すぐに見たいとかならなかったのですか?」

「別にならないな。誰とも競ってなかったし」


 そう、誰とも競ってなかった。

 テストなんて所詮成績の一部でしかない。

 前までそう考えていた。

 だけど、今回は違う。

 橘との勝負。

 結果を早く知りたい。


「私は毎回一位なのか気になっていたので、すぐに見に行ってました」

「そうなんだな」


 そんな会話をしながら廊下を歩くこと数分。

 徐々に僕たちと逆方向に進む生徒が増えて来た頃。

 僕たちは目的地に到着。


「いよいよですね」

「ああ、楽しみだ」


 僕たちは下からゆっくりと見ていく。

 順位・名前・点数という感じだ。

 二年生になり、受験が近づいてきたこともあって、順位が低くても点数がそこそこ高い。


 そう思いなら見ているともうトップ十位。

 ここからは僅差。

 四百九点台が連発。

 だが、まだ僕たち二人の名前はない。

 もうトップ五位……トップ三位。

 まだない。

 ここまで来れば分かる通りどちらかが一位でどちらかが二位。


「楠君、残念ですが私の勝ちです! だって、私は五百点中の五百点なのですからね!」


 結果を見る前に明るい声でそんなことを言う橘。

 僕はそれを聞き、結果を見る。


 『一位:楠凪――502点

  二位:橘亜夢――500点……』


「えっ……どどど、どういうことですか?」


 そのあり得ない結果に橘は僕の制服を掴み、説明を求めてくる。

 まぁ当たり前だ。

 僕は満点の五百点を越えているのだから。


「そう焦るな。周りに注目されるだろ」

「ご、ごめんなさい。でも、これは……」

「場所を移そうか」


 僕はそう言い、来た道を引き返して教室へ。

 橘は無言でそんな僕についてくる。

 すぐに教室に着き、僕の席で会話を再開する。


「それで説明してもらえるでしょうか?」

「ああ、もちろん」


 僕は英語の問題用紙と解答用紙を取り出す。

 そして口を開いた。


「まずこの英語の点数を見てくれ」

「はい……って、えっ? 百点を超えてますよ?」

「そう百点を超えている。つまり、この英語のテストは百点満点のテストではない」

「どこにもそんなことは――」

「書いていない……ように見える」

「えっと、それはどういうことでしょうか?」

「簡単に言えば、追加点というかボーナス点なんだよ。この二点は」


 橘はその言葉に口を開こうとしたが、その前に僕は説明を続ける。


「で、この二点の正体は


 僕はそう言いながら自分の英語の解答用紙に指を差す。

 その指差す解答用紙の問題は橘が苦戦していた場所。

 英語の読解問題。

 その最終問題。

 そこに二点の正体はあった。


「日本語解答で二点。英語解答で四点!?」

「そう言うことだ」


 問題用紙ではなく、配点は解答用紙に書かれている。

 だから、これに気付く者は少ない。

 加えて日本語で解答するのも困難な最終問題。

 それを英語で答えるのは更に困難だったと言える。


「はぁ……でも、もしこれが分かっていても私には無理でした」

「なかなか性格の悪い問題だったからな」

「そう言いながら正解しているじゃないですか、ふんっ!」


 僕の言葉に鼻を鳴らして怒る仕草を見せる橘。

 確かに正解しておいてそう言うのはあまり良く無いか。

 でも、こんな問題を作る桜木先生も悪いと思う。

 ちょっとしたサプライズ問題のつもりだったんだと思うが。


「とにかくテスト勝負は僕の勝ちということで」

「わ、分かってますよ」

「じゃあ約束通りな」

「はい……って約束って何でしたっけ?」


 橘は思い出せないのか難しい表情で首を傾げる。

 まさか忘れているなんてな。

 全然、気にしてないじゃん!

 ずっと気にするとか言っておいて、もう忘れちゃってるよ。

 まぁそっちの方がこちらとしては都合がいいけど。


「大したことじゃないし、大丈夫だ」

「そ、そうですか……」

「それより晴れて来たことだし、久しぶりに屋上で昼ご飯でも食べないか?」

「いいですね! そうしましょう!」


 というわけで、僕たちはテストのことを忘れて昼食を取るのであった。


 それにしても、今回の勝負ってやる意味あったのか?

 なかったよな?

 ただ僕が勝っただけというか何というか。

 まぁ別にいいけどさ。


 桜木先生の最終問題で久しぶりにテストも楽しめたし、初めてテストの点で競い合って面白かったし。

 なんか青春って感じがしたしな。

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