39.「本屋【3】」
最大級の本屋ということでレジは少し混んでいた。
一応、レジは二ヶ所あるのだが、ブックカバーをする手間などがあり時間がかかっている。
というか、ブックカバーをしてくれることに驚きだ。
なんて親切な国なんだと感心した。
日本は幸せな国である。
僕は日本人だが、外国人が日本に驚く理由が分かった気がした。
「次のお客様どうぞ」
ついに僕たちの番が来たのですぐにレジへ。
「あ、亜夢ちゃんじゃない!」
「いつもお世話になってます、
「そっちの男の子は彼氏かい?」
「いえいえ、友達ですよ」
普通に否定された。
別にいいんだよ、事実だし。
けどさ、なんか照れながら「ち、違いますよ」とか言ってほしかった。
いや、違うな。
そういう場面だったと思う。
何で平然とした表情なんだ。
こっちは少し彼氏という言葉に心臓が跳ねたのに!
「そうかいそうかい。でも、友達とは珍しいね」
「え、ええ、そうですね……」
おい、影石さん。
それは触れたらダメなとこ。
橘の表情が分かりやすく変わったから。
笑顔から苦笑に変わったから。
てか、その反応はさっきするものだ。
「しかし、今日は普段より買うね」
「はい、楠君……彼の漫画です」
「なるほどねぇ~」
影石さん、何ですか、その反応は。
とても不愉快です。
絶対に変な想像してるじゃん。
「あ、ブックカバーはなしでいいよね?」
「はい」
「橘いいのか?」
「この量ですからね」
「まぁそうか」
確かにこの量を全てブックカバーするとなると日が暮れる。
後ろの客にも迷惑だし、店員さんも大変だ。
と思っていると、後ろから男子三人の声が聞こえてくる。
「エッチな女子とその男がいるぜぇー」
「おっ、本当だね。アレはどういう関係かな?」
「友達とか聞こえたけど、友達に対してあんなに本買うか?」
「買うわけねぇーだろ。誕生日プレゼントでもありえねぇーわ」
「確かにね。弱味を握ってるとか、女子の方が貢いでいるか。そこらへんかな?」
「だろうな」
チラっと見たら、声の主は先ほどの男子中学生三人。
聞こえてないと思って散々言ってくれるな。
弱味を握ってるとかは別に許すよ。
だが、貢いでいるは少し許せない。
橘をそういう目で見るのは許せない。
傍から見れば確かにそうかもしれない。
けど、橘は僕にとって命の恩人であり、唯一の友達。
勝手に汚されて黙ってられるか。
「高校生でヒモとか羨ましいーぜ!」
「漫画だね」
「本当にな」
「俺も貢ぎ女が欲しいぜ。何でも言うこと聞きそうじゃね?」
「メンヘラの可能性があるかもよ?」
「いや、ダメ男製造機だろ」
「ダメ男製造機メンヘラとクソヒモ高校生。マジおもろすぎっ!」
――プチっ。
何か僕の中で切れた。
ずっと我慢していた。
けど、もう耐えられない。
許さない。許せない。
喧嘩は好きじゃないが、橘を汚すなら話は別だ。
僕は振り返り、ゆっくりと中学生三人のもとへ歩く。
だが、その瞬間、橘に腕を掴まれて止められた。
「我慢の限界だ」
「大丈夫ですよ。私が注意しますので、楠君は本をお願いします」
「でも――」
「任せてください。私も我慢の限界なので!」
そう目が笑ってない笑みを向けられ、僕の体に寒気が走る。
思わず息を呑み、橘の歩みを止めることはできなかった。
――また僕は橘に救われるのか?
「お客様、袋詰めが終わるまでこちらでお待ちください」
「わ、分かりました」
「次のお客様どうぞ」
中学生が来ると思い気や違う人がレジへ。
理由は橘と喋ってるからだ。
何か喋っているようだが、一体どのように注意をしているのだろうか。
こちらには全く聞こえない。
と数秒後、橘がこちらに来る。
「橘、大丈夫だったか?」
「はい。あのー、もう少しかかりそうなので、楠君は本を持って近くのベンチに座っておいてもらってもいいですか?」
「え、ああ、大丈夫だが」
「ありがとうございます。では、ちょっとだけ待っていてくださいね」
それだけ言い残し、橘は中学生三人の元へ戻っていった。
もう少しかかるとはどういうことか気になったが、僕は橘の言葉に従って店員さんから本を受け取り、近くのベンチへ(本を持って行くのに二周した)。
それにしても、結構買ったな。
外国人の爆買い並みの爆買いだ。
買ったはいいものの読み切れるかどうか。
後、持って帰る時に袋が破れないか心配だ。
少し眠たくなり、僕が船を漕ぎ始めた頃、橘は戻って来た。
「遅くなってすみません」
「別に大丈夫だよ。で、何してたんだ?」
「彼らに本を買ってました」
「は!?」
眠気が吹き飛び大きな声が出た。
周りからの視線が痛い。
一応、軽く頭を下げる。
「それよりどういうことだ? 注意は?」
「ちゃんとしました。本を買う代わりにこれからは人の悪口を言わないようにって!」
橘のやつ優しすぎかよ。
中学生三人とも惚れただろ。
悪口を言ったのに、本を買ってもらったんだぞ。
意味分からないじゃん。
中学生三人は超ラッキーじゃん。
「そんなので良かったのか?」
「はい、いいのです」
ならいいか。
と思ったら、そのまま橘が口を動かす。
「だって、彼らはこれで私のような貢ぎ女しか好きになれなくなったのですから、ふふっ」
その笑顔でその言葉、怖い。
というか理由が……。
貢ぎ女という言葉を根に持っていたのか。
「相当怒ってるみたいだな」
「はい激おこです。楠君は確かにヒモでダメ男ですけど唯一の友達ですからね」
えっと、あの中学生三人の言葉は肯定するのね。
僕は悲しいよ。
橘にヒモでダメ男って思われていたのかよ。
間違いではないけど。
「ヒモでダメ男でごめんな」
「いえいえ、それは大丈夫です」
あ、大丈夫なのね。
まぁ大丈夫じゃなければ養ってないか。
「でも、僕も少しは変わるように努力するよ」
「それも大丈夫です。だって、ずっとずーっと私がダメダメな楠君を養いますから!」
「えー、あ、うん。あ、ありがとうな」
「いえいえ! 感謝されるほどのことではありません!」
胸を張ってそう言い、柔らかな笑みを見せる橘。
なんか嬉しそうだ。
しかーし!
おもーい!
超おもーい!
ずっとずーっとっていつまで?
一体、僕はいつもで養われるのだろうか?
ところで、何で僕は「ありがとう」なんて言ったんだ。
はぁ……。
とにかくダメダメ人間から普通の人間へ進化するしかないな。
まぁ何を持ってダメダメなのか分からないから進化する方法も分からないのだが。
それにしても、男子中学生のメンヘラという発言。
意外と的を射ていたかもな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます