40.「姉妹の取引」

 テスト終了後、金曜日の夜。

 五教科を担当する教師たちは採点に追われていた。

 その中の一人に巫女もいる。

 巫女の担当科目は英語。

 英語教師は二人いるが、一人はテスト制作。

 もう一人――巫女がテスト採点となっている。


「はぁ……バカだ。この量はバカになる」

「姉さん、大変そうだねぇ~」

「いいなー、学生は。テストやるだけだし」

「テストも大変だよぉ~。姉さんも経験してるんだし分かるでしょ?」

「分かるけど」


 巫女は一旦手を止め、眠気覚ましにコーヒーを入れる。


「楓もいる?」

「うん、お願いするぅ~」

「そう言えば、話題になってたよ」

「何がぁ~?」


 楓はスマホから巫女に視線を移動させ、首を傾げる。

 身に覚えがないようだ。


「何がってあの解答用紙の裏に書かれた謎の言語の式? みたいな?」

「あー、アレねぇ~。今受けている仕事のやつだよぉ~」

「えっ、仕事受けてるの?」

「あ、うん。サウジアラビアの方から仕事があってぇ〜、かなりお金を弾んでくれるって言うからぁ~」

「楓がお金で動くとは珍しいね」


 そう、楓はお金で動く女ではない。

 自分が一番であり、その他はほぼ同率。

 それを知っているからこそ、巫女は心の中でかなり驚いていた。


「少しお金を貯めようと思ったのとぉ~、簡単な仕事でお金がたくさん出るって言われたからだよぉ~」

「へー、欲しい物でもあるの?」

「まぁあるけど、まだ買えないかなぁ~」

「そうなのね」


 ――貯金の約2億円でも買えないものって一体何?


 そんな疑問が頭を過ったが巫女は口には出さず、出来たコーヒーをティーカップに入れてトレイに砂糖とミルク、そしてコーヒーを置いて持って行く。


「ありがとう~、姉さん」

「いえいえ」


 そう言い、巫女は椅子に腰を下ろしてコーヒーをブラックのまま飲む。

 一方、楓は砂糖とミルクを入れる。

 楓が言うには、ブラックコーヒーは目を覚ますために朝だけとか。

 夜は砂糖とコーヒーを入れて甘さが欲しいらしい。


「姉さん、いつそれ終わるのぉ~?」

「見ての通りまだまだだけど、何か用でもあるの?」

「特にないけどぉ~、手伝おうかなぁ~って」

「生徒に採点はさせられないよ」

「違う違うぅ~。採点用アプリ作ったからそれで採点できるんだよぉ~」

「マジ?」

「マジマジ~」


 柔らかな笑みでそう言いながら頷く楓。

 巫女もこれには笑みがこぼれる。

 一年生から三年生まで。

 しかも、全学年八クラス分。

 土日を合わせても、採点はギリギリ。

 だから、こんなに有難いことはなかった。

 本当に美味すぎる話である。


「じゃあ早速――」

「でもぉ~、その代わりに頼みごとがあるんだけどぉ~」

「な、何?」


 その楓の言葉で一瞬にして巫女から笑みが消え去る。

 まるで、ブラックホールに吸い込まれたように。


「えっとねぇ~、姉さんのクラスの――」


 楓の言葉を聞き終わり、巫女は少しホッとする。


「それなら任せておいて!」

「お願いねぇ~。遅くても七月前半ぐらいまでには頼むからぁ~」

「七月前半までね。でも、一ヶ月も期間をくれるとは意外だわ」

「そうかなぁ~? まぁとにかく頼んだからぁ~」

「はいはーい! じゃあ採点アプリの方を!」


 テストの解答用紙をまとめる巫女。

 すぐにでも採点アプリを使いたくて仕方ないという感じである。

 その姿に楓は変わらない笑みで立ち上がり、口を開いた。


「わたしの部屋についてきてぇ~」

「はーい!」


 採点アプリは優秀で全ての採点はその日に終わった。

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