38.「本屋【2】」
強制的に始まった漫画オタクへの道。
――漫画オタクに僕はなる!
ということで、僕は人生初の漫画選びを始めていた。
参考程度に橘にオススメの漫画を聞いたのだが、早く口言葉みたいにタイトルを言い出したので聞くことを断念。
現在、僕は一人で選び中。
橘は教官のように後ろで手を組んでいる。
謎の圧を感じて選びづらい。
何しているのか先ほど聞いたら「楠君の漫画センスを見ているのです」と言われた。
はぁ……何だよ、漫画センスって。
「なぁ橘」
「何でしょうか? またオススメですか?」
「いや、違う」
僕は即答し、言葉を続ける。
「漫画初心者としてこの日本で一番売れてる漫画は買うことにしたんだが、それだけでもう百巻近いだろ?」
「そうですね」
「で、今日はこれだけにしようと思うんだよ」
「んー、足りますか?」
足りるよ!
九十七巻の量は半端ないよ!
そんな心配いらないよ!
「足りると思うが、橘は月に何冊ぐらい買うんだ?」
「私は月百冊から二百冊ほどでしょうか」
平然とおかしな桁を言いあがって。
一日に何冊読む気だ。
軽く計算して三冊から六冊だぞ。
そんな時間があるとは思えない。
「なるほど。でも、そんなに読む時間あるのか?」
「ありますよ。私は基本十分ほどで一巻読めるので」
「十分!?」
「そんなに驚くことではありません。そこそこ早い程度です」
漫画は読みやすいというがこの厚さを十分とはな。
指で厚さを感じる限り、そこそこ厚さがある気がする。
軽く二百ページはありそうだ。
「僕もそれぐらいで読めると思うか?」
「最初は無理ですね。読んでいるうちに早くなりますよ」
「慣れって感じか」
「はい、そういうことです」
まぁそれはいいとして問題は何冊買うかだ。
この九十七巻だけではなんか橘に言われそう。
だが、無暗に多く買っていいというわけでもない。
センスを見られているからな。
よし、ここは反則技を使うか。
先ほどから見る限り、アニメ化という文字が帯に見られる。
アニメ化されたということはそれだけ売れているということ。
つまり、センスが悪くならない。
国民が認めた漫画なのだから間違いない。
そういうことで、僕は帯にアニメ化と書かれた漫画を選らんでいく。
数分かけてカゴを数個使い、やっと全部カゴの中に入れ終わった。
「橘ちょっと多くなったが大丈夫か?」
「想定内の多さですよ。しかし、流行りものが多いですね」
「うっ……それはセンスがいいのか?」
「普通ですかね。これから売れていくであろうまだ数巻しか出てない作品などが全くないので」
なかなか厳しい。
だがしかし、そんなのは想定内。
今、橘はセンスがある選び方を言ってしまった。
となると、ここから追加すればセンスがあることになる。
僕はすぐさまインパクトのある作品をカゴの中へ。
「じゃあ、この作品とこの作品も買うよ」
「ふふっ、面白い作品を選びましたね」
「だろ? センスがいいからな!」
胸を張って自慢気にそう言う僕。
予想以上に橘の反応はいい。
これは作戦成功と言っていいだろう。
「センスがいいかは別として、今話題のラッキースケベ主人公作品とマニアックな痴女争奪作品を選ぶとは驚きです」
「えっ……?」
ラッキースケベ主人公作品?
痴女争奪作品?
どっちともエロくないか?
少年漫画ってエロいの?
えー、てかそれは橘的にありなの?
さっきなんかエッチな本はダメとか言われたけど。
「楠君も男の子ですね」
「いや、これは……」
クソっ、センスを求めて無駄な追加などしなければ良かった。
これは失敗だ。
「これは?」
「な、何でもない。それより橘はこういう系は大丈夫なのか?」
「エッチな作品ですか?」
だから、オブラートに包め!
「ああ」
「大丈夫ですよ!」
「でも、さっきエッチな本はダメとか何とか……」
「リアルのエッチな本はダメですが、漫画などのエッチな本はセーフなのです」
「一緒じゃ――」
「違います! 漫画はあくまでも漫画です。エッチでもそれは必要なエッチなのです!」
大きな声でエッチを連呼しないでくれ。
頼むから。
中学生男子三人がこっち見てるから。
ガン見してるから。
って、こいつら寄り道してるぞ。
悪い中学生だ。
「分かった分かった。それより買いに行こう」
「分かりました。では、半分カゴを持ちますね」
「悪いな。重いから気を付けろよ」
「大丈夫です! もう慣れっこです!」
そう言い笑顔でカゴ半分(二個)を持ってくれるのであった。
意外と力あるんだな。
「エッチな漫画はですね。この世に――」
「その話はもういいから!」
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