34.「電車で二人」
平日の昼前ということもあり、電車に乗っている人は少ない。
前の休日に行った時に見た人の量が嘘のようだ。
椅子にも座れ、静かで心地良い。
だというのに……
「あのー、先ほどの言葉はどういう意味なのですか?」
何でそれを聞いてくるんだ、橘。
でもまぁ、気になるよな。
僕だって自分が言われれば気になる。
超気になる。
だが、ここは察して聞かないでほしかった。
はぁ……。
「さっきも言ったが、間違えたんだ」
「あのようなことを間違えとは言いません」
ごもっともです。
あそこまで言っておいて間違えはあり得ないよな。
僕自身もそう思う。
けど、言い訳が思いつかなかったんだよ。
急だったしさ。
僕が急に言ったんだけどね。
何も返す言葉が見つからず黙っていると、橘が僕の顔を覗き込むように見ながらゆっくりと口を開く。
「もしかして本当に寂しかったのですか?」
「うっ……」
「その反応はやはりそうなのですか?」
僕がストレートな言葉に肯定するような反応したせいで、すぐさま橘が追い打ちをかけてくる。
それに僕はどうしようか頭を悩ました結果、とにかく否定してみることに。
「ち、違う……ような違わないような。さぁーどうだろうなぁ~」
僕は視線を逸らしながらそう言うと、橘は「ふふっ」と笑い「目が泳いでますよ楠君」と一言。
完全に否定できていない。
しかも、目が泳いでいたらしいく笑われてしまった。
は、恥ずかしい……。
と、体温の上昇を感じていると橘が急に申し訳なさそうに話し出す。
「でも、ごめんなさい」
「……え? な、何で謝るんだ?」
「だって、私がずっと勉強するあまり楠君をほったらかしにしてしまったので」
「それは仕方ないよ。テストだったしさ」
「ですが、とても、とーっても、楠君に寂しい思いをさせてしまいました」
「……」
言い方と態度に悪意を感じる。
その目は何だ?
まるで、「楠君、寂しかったのですね。お可愛い、ふふっ」みたいな目をしてやがる。
「でも、もう心配ありません! 私は学びました!」
「な、何をだよ」
「楠君は寂しがり屋さんということをです!」
満面の笑みでそう言いながら、僕の腕に腕を絡める橘。
それと同時に目を閉じながら小さく整った顔を肩に乗せてくる。
久しぶりに感じる橘の体温とフローラルな香り。
心臓はドキドキ言っているが、脳はそれに安心感を覚えている。
不思議な感覚だ。
「ど、どうしたんだ?」
「えっと、こうすれば楠君が数日間感じていた寂しさを補えると思いまして」
「思いましてじゃない。ここは公共の場だぞ?」
「それが何か問題なのですか? 公共の場で寂しさを補う行為は犯罪ではありませんよ?」
橘は上目遣いで囁くような口調でそう言ってくる。
それには僕も思わず息を呑み、こう思った。
――その上目遣いが犯罪だ!
だが、そんなことはもちろん言えず、しかし黙っているのも変なので口だけ開く。
「た、確かにな」
で、開いた結果、上目遣いのインパクトの強さについ肯定してしまった。
そのおかげで……じゃなくて、そのせいで橘に「そうですよね」と言われ、目的の駅に着くまでずっとそのままに。
けど、別にそれが嫌と思うことはなかった。
うん、なかったけど、近くにいたおばあちゃんに微笑ましい目で見られていたのが、とにかく恥ずかしくて仕方なかった。
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