33.「テスト後」
あの日曜日以来、僕と橘が前のように話すことはなくなった。
月曜日、火曜日ともに橘は家では自室に引きこもり勉強。
食事中も僕に話しかけることなく、英単語の暗記。
学校では休憩時間、休み時間は休むことなく勉強。
そういうこともあり、昼食は一人だった。
水曜日。
テスト初日は国数の二教科を行い午前で帰宅。
一緒には帰ったものの橘はブツブツ呟きながらずっと勉強。
人にぶつかりそうで僕的にはその姿を見ていて冷や冷やだった。
で、そのまま家に帰ってきた瞬間、自室に引きこもり勉強。
昼食、夕食はいつも通り作ってくれたが、いつもよりクオリティは低かった。
木曜日。
社理の二教科を行い午前で帰宅。
水曜日同様にずっと橘は勉強していた。
家事することさえも忘れているぐらい勉強していたので、その日の家事は全て僕が担当(洗濯は今朝橘がやっていたのでやっていない)。
勝手にやったにも関わらず、橘は「ありがとうございます」とだけ僕に言い、それ以上は何も言わなかった。
その反応には流石の僕も驚いたが、集中する橘の姿に僕の方も何も言えなかった。
そんな日々が続き、今日はテスト最終日の金曜日。
教科は英語のみ。
そんな英語も後三秒後に終わる。
――キーンコーンカーンコーン……
学校お馴染みのチャイムの音が鳴り響き、これにて中間テスト全教科終了。
周りの生徒は上がった肩を下ろし、ホッとしている。
僕も周りに合わせて「ふぅ~」とため息を一つ。
同時に帰りの支度を始める。
この学校は珍しく、中間テストが三日間かけて行われる。
だから、最終日は一教科のみで帰ることが出来る。
正直、僕は二日間で五教科でも良いと思うが、学校側が『一日三教科の日があると生徒が自身の力を発揮できない』とか何とか。
集中力が持たないとかも言っていた気がする。
そういうわけで、三日間で五教科なのだ。
テスト後はホームルームもない。
教師の方も採点で忙しいからな。
それより橘はというと……
「うぅ……」
机の上にある英語の問題用紙を見ながら唸っていた。
非常に怖い。
周りの人たちも見ないようにしている。
僕は帰宅準備を終えると橘のもとへ。
いつもは橘から来るのだが、僕から行く日があってもいいだろう。
「橘、どうしたんだ?」
「最後の問題が正解しているか分からないのです……」
弱々しい、否、今にも泣きそうな声をそう言う橘。
僕からしたら終わったことなのだからどうしようもないとしか思わないのだが、橘は意外と引きずるタイプらしい。
「月曜日には結果が分かるだろ?」
「でも、間違っていたら……」
「正解でも不正解でも、もう結果は同じだろ?」
「そ、そうですけど……」
そんな会話をしていると、いつの間にか教室から生徒は消えていた。
恐らくテストが完全に終わり、これだけ早く帰れるということで遊びに行ったのだろう。
あ、そうだ!
「なぁ橘」
「はい?」
僕の呼ぶ声でやっと顔をあげる橘。
顔から不安と心配が溢れている。
助けを求める奴隷兵みたいな感じ。
そんな苦しむことではないのにな。
僕は少し頬を緩めて口を開く。
「今から本を買いに行かないか?」
「本ですか?」
「ああ、前に買いに行くって約束してただろ?」
「そ、そうでしたね。ですが、なぜ今日なのですか?」
「理由はない! でも、今日が良いんだ!」
「何ですか、それ。ふふっ」
僕の言葉に橘が久しぶりに笑みを見せる。
それを見るのは数日振りだというのに、とても久しぶり感じた。
同時にホッとした。
なんか心が温まったような、そんな気分。
もしかして僕は……
「橘が勉強ばかりしていて寂しかったのかもな」
「えっ?」
「あ、いや、今のはその……なし! なしだ! 間違えた!」
「そ、そうですか」
「それより早く本を買いに行くぞ!」
それだけ言い、僕は橘を待たずに先に教室を後にした。
口に出すつもりはなかったのにな。
しかし、なんて恥ずかしいことを口走ってしまったんだ、僕は!
変に思われてないかな?
キモいとか思われてないかな?
――マジで恥ずかしい……。
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