30.「第一回 中間テスト勉強会【1】」

 自室に戻って一時間は経っただろうか。

 やることもなく、僕はベッドに寝転んでいる。

 そして瞼を閉じ、ずっと先ほどの橘の言葉を考えていた。


 ――乙女の秘密。


 一体、何なのか分からないが少し気になる。

 橘が僕に隠し事をあまりしないからむしろ気になる。

 スリーサイズまで教えると言った口が拒んだんだぞ。

 理解に苦しむ。


 と言っても、別に死ぬほど答えが知りたいわけでもない。

 ただこの暇な時間を潰す一つの話題として考えていただけ。

 何も考えないよりかは時間が進むと思うしな。


「はぁ……乙女には秘密の一つや二つあるって言うしな」


 瞼をあげ、真っ白な天井を見上げてそう呟く。

 乙女じゃない僕にも秘密はあるぐらいだからな。

 まず秘密がない人間などいない。


「少女漫画でもいいから借りてこようかな」


 そろそろ考えるのも飽きた。

 少女漫画というものを読んだ方が暇を潰せるかもしれない。


 時刻は午後三時。

 橘がどこで何してるか分からないが、一旦部屋から出て探すか。

 そう思い、ベッドから体を起こして伸びをする。


「ふわぁ~」


 ついで欠伸も出た。

 少し眠たかったのかもな。

 僕は「よいしょ」と言いながらベッドから降り立ち上がる。

 とその瞬間、僕の部屋の扉が開いた。


「お邪魔しま~す」

「ノックぐらいしたらどうだ?」

「さっき楠君もしなかったじゃないですか」

「いやいや、僕はしたから。しっかり二回したからな」

「そ、そうだったのですね。それはすみません」


 橘の服装は先ほどと変わっていた。

 髪も整っていてイイ匂いがする。


「別にいいが。それよりもうお風呂に入ったのか?」

「あ、はい」

「珍しいな」

「そういう気分の時もあるのです」

「そうか」


 お風呂に入ってパジャマということはもう今日は外に出ないのか。

 買い物に行かないのも珍しいな。

 恐らく昨日のうちに必要なものは買っていたんだと思うが。


「そんなことより楠君は何してたのですか?」

「んー、今から少女漫画を借りに行こうかと」

「えっ、急にどうしてですか?」

「シンプルに暇だから?」

「まさか私がいない間ずっとダラダラしてたのですか?」

「やることないしな」


 僕がそう言うと、橘はアホの子のように口を開けていた。

 急にどうしたのだろうか?

 僕ってダラダラしたらダメなの?


 そんなことを思っていると、橘が「ごほん」と咳払いをしてポケットから眼鏡を取り出してかける。

 橘の眼鏡姿は初めてだ。

 というか目が悪かったとは意外。


「いつもコンタクトだったんだな」

「いえ、これは伊達メガネです」


 眼鏡をクイっとしながら堂々とそう言う橘。

 そんな『ドヤぁ~』みたいな感じで言うこともないと思うが。

 まぁそれはいいか。


 ところで、なぜ伊達メガネ?

 ファッション?

 家の中で急に?

 それはないか。


「で、何で伊達メガネなんかしてるんだ?」

「今から中間テストの勉強会を始めるからです」

「もうそんな時期か」


 ゴールデンウイークも過ぎ、もう五月の中旬。

 一回目のテストの時期。

 つい最近、春休み明けテストをしたばかりだというのに早いな。

 って、僕の春休み明けテストはどうなったのだろうか?

 無断欠席していたから返却されていない。

 まぁいいか。

 点数はしっかり記録されてると思うし。


「はい。水曜日から金曜日までの三日間ですよ」

「えっと……今週?」

「えっ、今知ったのですか?」

「だって、何も知らされてないし」

「桜木先生が何度も言ってましたよ?」

「マジか」


 全く聞いてなかった。

 ずっと青空と流れる雲を眺めていたわ、多分。

 基本、授業は聞いてるフリしかしてないからな。

 もちろん当てられたら答えるけど。


「マジです。ということは勉強もしてないのですね」

「まぁそうなるな」

「でも、安心してください! この私! 橘先生がしっかりじっくり詳しく教えてあげます!」

「橘先生?」

「はい、橘先生です!」


 ない胸を張りそう言う橘……先生。

 無駄に眼鏡をクイクイしている。

 伊達メガネは先生になりきるためのものだったようだ。


「では、早速! テスト勉強始めますよ!」

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