25.「バスタオル? バスローブ?」

 夕食も食べ終わり、お風呂にも入り、時刻は午後九時。

 まだ寝るのには早いが、特にやることがないこの時間。

 僕は革製の高級ソファーでボーっとしていた。

 テレビを付けてみたが面白いものはなく、すぐに消した。

 橘の方は現在お風呂で疲れと汚れを落とし中。


「暇だぁ……」


 そんなことを最近はよく思う。

 前は勉強と家事に追われ、忙しかったというのに、この家に来てからは暇な時間が多い。

 家事全てを橘がしてくれているからだろう。

 僕は養われている身、個人的には家事は分担、もしくは僕が全て担当したいぐらいなのだが、橘はそれを許してはくれない。

 いつも橘は「私が好んでやっているので気にしないでください」と言う。

 だから、何と言うか無理に手伝いにくい。

 困ったものだ。


「ふわぁ~、上がりましたよ~」


 聞きなれた声が聞こえ、僕はそちらを振り返るとそこにはバスタオル姿の橘が。

 しっかりとした生地なのか体のラインはあまり見えないが、ツルっとした綺麗な脚と首と胸元の間にある鎖骨を露になっており、謎の色気を漂わせている。

 加えて、体から湯気が上がり、綺麗な銀髪が輝いていた。

 手にはミニタオルを持っており、平然とした表情で髪を乾かしている。


 って、何ていう格好で出て来てるんだ!

 誘ってるのか? 誘っているよな?

 いやいや、待てよ僕。

 何度こんな感じで誘われることがあった?

 しかも、勘違いだったことが何度あった?

 そろそろ気付けよ僕!

 落ち着け僕! 慣れろ僕!


「ちゃ、ちゃんと服着ろよ。風邪引くぞ?」

「心配してくれてありがとうございます。ですが、大丈夫です」

「で、でも、バスタオル一枚じゃ寒いだろ?」

「えっと、これバスタオルではないですよ」

「どう見てもバスタオルだろ!」


 橘の奴、何を言っているのだ。

 どこからどう見てもバスタオル。

 てか、僕は今日この白色の布のバスタオルを使ったしな。

 間違いない。

 何でそんな嘘をわざわざ……。

 まさか今日は誘ってる!?


「いえいえ、これはバスローブというものです。入浴後に着るものですよ」

「ば、バスローブ?」


 少し耳にしたことはあるな。

 でも、ほとんどバスタオルの気がする。


 と思っていると、橘が僕の隣に腰を下ろす。


「はい、バスローブです。バスタオルの服と思ってもらえれば分かりやすいかと。それか浴衣の生地がバスタオルの生地になったと思ってください」


 遠くから見ていたらバスタオル一枚に見えていたが、この距離だと普通の服に見える。

 本当に浴衣みたいな感じだ。


「初めて見るものだから驚いたよ」

「なるほど。その反応の理由が分かりました、ふふっ」

「わ、笑うな」

「ごめんなさい。つい、ふふっ」


 そう言っておかしいそうにまた笑う。

 橘に養われてからというもの僕は知らないものとよく出会う。

 育ってきた環境が全く違うからだろう。


 それよりさ、お風呂上りって体を拭いてパジャマに着替えるものじゃないのか?

 もしかして、これがパジャマの代わりとか?

 でも、前はパジャマを来てたぞ?

 んー、分からない。


「でも、いつもパジャマなのに珍しいな」

「あー、それはいつもは髪を乾かしたらすぐにパジャマに着替えるので」

「じゃあ今日は何でその姿のままここに?」

「気分です」

「そ、そうか」

「はい」


 気分と言われたら、何も言い返せない。

 後、その笑顔をされても何も言い返せない。


「そう言えば、ドライヤー使わないんだな」

「そうですね。私の髪は色素が薄いということもあり、ドライヤーを使うと髪にダメージを与えてしまうので、ずっとタオルか自然乾燥です」

「へー、大変なんだな」

「もう慣れました。それに髪も短いのでそれほど時間はかかりません」


 慣れた手付きで髪を乾かしながらそう言う橘。

 橘が髪をバサバサッと乾かす度に、シャンプーのイイ匂いが僕の鼻孔をくすぐる。

 とても柔らかで甘い花の香り。

 これがフローラルの香りというものなのだろうか。

 一生嗅いでいられる……い、今のはキモいぞ僕。


「ずっとこちらを見ていますが、バスローブが気になりますか?」

「あ、いや、まぁそうだな」


 イイ匂いのせいで僕は自然と橘のことを眺めていたようだ。

 そんなことを無意識にやっていたとは言えないので、橘の言葉に乗る。

 それにバスローブには興味はあったので、嘘ではないしな。


「楠君用のも買いましょうか?」

「え、いいのか?」

「はい、もちろんです。それと楠君用のドライヤーも購入しておきます」

「それは助かる」


 僕はドライヤー使う系男子だったからそれは有難い。

 まぁドライヤー使う系男子って何だよって感じだけど。


「髪も乾いたのでそろそろパジャマに着替えてきます」

「あ、うん」


 橘は軽く手櫛で髪を整え、ゆっくりと立ち上がる。

 その瞬間、バスローブの隙間から胸元がチラリ。


 ――えっ、下着……付けてなかった?

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