28.「ワイドショー」
5月17日(日曜日)。
僕は朝食を食べた後、ソファーでワイドショーを見ていた。
特別面白いこともないが、ニュースや芸能事情などはなぜか見ていられる。
それに一週間のニュースが一気に取り上げられるから有難い。
隣には橘もいる。
先ほど家事をある程度終わらして、今は一段落している感じだ。
「やはり芸能人の不倫は絶えませんね」
「別に芸能人の不倫は今に始まったことじゃないだろ」
「といいますと?」
「昔からあったけど、あのゲスゲス不倫から記者たちがネタになると思い出したから増えたように見えたんだと思うぞ」
「懐かしいですね。ゲスゲス不倫。あの後、なぜか不倫ドラマが流行りました」
「流行するべきものじゃないけどなぁ~」
僕がそう言うと橘は笑みを浮かべ「ですね」と言う。
本当に不倫の何が面白いのか分からない。
犯罪でもないのに、まるで犯罪を犯したように取り上げられる。
そのせいで芸能界から姿を消した芸能人がここ数年で何十人いたか。
妻や夫に上手いことバレずに不倫しているのだから、ほっといてあげたらいいのに。
全く、人の不幸を見て楽しむとは性格が悪いな。
「く、楠君は不倫してませんよね?」
「は?」
橘にいきなり変な質問をされて声が裏返る。
同時に体がピクリと動き、橘に視線を向けた。
「不倫してませんよね?」
だから、その笑顔は止めろ!
怖い、怖いから。
「いやいや、僕は誰とも付き合ってないし、結婚してないから不倫できないよ」
「あ、そうでした」
「一体、僕が誰と付き合ってる、もしくは結婚している前提だったんだ?」
「んー、私?」
頬に右手の人差し指を当て、上を向きながらそう言う橘。
その言葉に一瞬ドクンと心臓が跳ねる。
理由は不明。
勝手に彼氏、夫にされていて怖かったのか。
それとも嬉しかったのか。
「僕たちは友達だろ?」
「そうでした」
そうでした?
寒気がしたぞ!
「僕を勝手に彼氏か夫にしていたのか?」
「んー、そうですね」
「えっ!?」
そんなにハッキリ言っちゃうの?
なにそれ、どういう感情なの?
「もぉー、冗談ですよ! そんなに驚かないでください」
じょ、冗談か。
僕は自然と「はぁ……」と謎のため息が出る。
それを見て橘は苦笑い。
本当に苦笑いしている顔を摘まんでやりたい。
こっちは色々と冷や冷やしたんだぞ。
って、そう言えば、どこからどこまでが冗談か全く分からない。
というか橘の冗談が分かりにくい。
いつもと同じテンションだったしな。
また冗談を言われても見破れる気がしない。
『今年もドリーム宝くじの季節がやってきました。
一等は去年同様10億円。
本日は去年ドリーム宝くじで一等が当選した人の中のお二人とお電話が繋がっていますので、人生がどう変わったのか聞いていこうと思います』
ワイドショーは不倫の話題から宝くじへ。
僕は宝くじを買ったことがない。
宝くじは夢に過ぎなくて、僕の家は貧乏だったので宝くじを買うぐらいなら安いお肉を買っていた。
貧乏は今を生きるのも大変なのだ。
「こんなの買う人いるのでしょうか?」
「いるから毎年やってるんじゃないか?」
「なるほど。楠君は――」
「ない」
聞かれる前にそう即答する。
「私もないです。所詮10億円ですからね」
――所詮10億円!
パワーワードすぎる。
10億円というものの認識がおかしくなりそうだ。
まぁ常識としてここは修正しておくか。
「橘」
「はい?」
「10億円は大金だぞ。それもかなり」
「えっ、そうなのですか?」
「ああ。てか、橘にとって大金はいくらぐらいからなんだ?」
「私の大金ですか。考えたこともなかったですね」
僕の質問に少し悩み、何かブツブツと言いながら計算を始める。
一体、何をしているのやら。
全く分からない。
と待つこと一分。
一分も回答に困る質問をしたつもりはないのだがな。
まぁ橘は特殊だから仕方ない。
橘がゆっくりと口を開いた。
「えっと、約7800億円ほどでしょうか」
「お、おー、そうか」
何だ、その具体的な数字は。
反応に困る。
ざっと5000億円とか1兆円とか言ってくれた方が反応しやすかったぞ。
「楠君の大金は10億円ぐらいですか?」
「いやいや、僕の大金は1万円ぐらいだよ」
「け、桁を間違えてませんか?」
僕の回答が想定外だったのか驚きのあまり橘が混乱している。
瞳が「大丈夫?」って聞いて来てるもん。
そんな目で見ないでくれ。
「間違ってないよ」
「そうですか。じゃあ私と出会って楠君は宝くじに当たった感じですね」
「なんか言い方はあんまり良くない気がするがそうかもな」
当たったというよりかは宝くじが僕を選らんだという方が正しい気がするが。
まぁそこはどうでもいいか。
「一等おめでとうございます!」
「おいおい、止めてくれ」
「ふふっ、一等が当選して嬉しいですか?」
「べ、別に一等は嬉しくない。けど、今この瞬間、橘と一緒にいれてるってことは嬉しいかな」
正直言えば、お金面も嬉しいというか有難い。
けど、一等が、僕を救ってくれたのが橘で良かったと思っている。
本当に橘で良かった。
もし宝くじを買って当たっても、僕は一人だったと思う。
もしお金があってもここまでしてくれる人は少なかったと思う。
そう思えば、今の僕を作った橘は本当に大きな存在だ。
「……」
橘は頬を茹でタコのように真っ赤にして無言。
いや、固まっている。
「んー、ツンツン」
少し頬をツンツンしてみたが反応なし。
てか、頬柔らかいな。
「……心臓がもたない……」
「えっ?」
橘は小さく何か口走り、心臓を抑えて自分の部屋に走っていってしまった。
「一体、何があったんだ?」
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