15.「眼鏡の少女」
「はっ、はぁ……大丈夫ですかぁ~?」
ふわふわぁ~!
ぷにぷにぃ~!
もふもふぅ~!
な、ななな、何だ、この感触は!?
謎の柔らかさとゆったりとした口調に僕はパッと瞼を開ける。
すると、僕は黒縁眼鏡をかけたお姉さんにお姫様抱っこされていた。
ここは天国だろうか?
とても柔らかな表情の眼鏡お姉さんはホッとした表情でこちらを見ている。
「僕は……死んだのか?」
「あ、いえ、わたしが受け止めました?」
「なぜ疑問形?」
「あ、その……わたしも人が空から落ちてくるのは初めての出来事で、びっくり? してますぅ~」
僕はそれを聞き、周りを確認する。
地面はコンクリート、それを囲むように校舎。
校舎の間を吹く心地良い風、草木の匂い、真っ青な空。
ここは間違いなく現実。
もしかして、僕はこの眼鏡お姉さんに救われたのか?
こんな小さな体で三階から落ちてきた僕を受け止めたのか?
正直、信じ難いが今の状況を見る限り信じるしかない。
「あ、あの、そろそろ離れていただけますかぁ~?」
「そ、そうだな。悪い」
慌てて離れると、眼鏡お姉さんは立ち上がりお尻を両手を払う。
座り込んでいたということは、本当に間一髪で受け止めたと考えるべきだろう。
ところで、この眼鏡お姉さんをよく見るとかなりの巨乳だ。
制服を着ていてもはっきりと分かる大きさ。
今にも弾けそうな制服のボタンが悲鳴をあげている。
これを見るに、先ほどの柔らかな感触の正体はこれだったと思われる。
恐らくこの巨乳がクッションになったに違いない。
「そんなにこちらを見てどうかされましたかぁ~?」
「あ、いや、何でもない。先ほどはありがとうな」
胸を見ていたなどとは言えるはずがなく、感謝を伝える僕。
それに対し眼鏡お姉さんは「いえいえぇ~」と手を振って答える。
眼鏡お姉さんと隣に立ってみて分かったことは身長は160センチほどということ。
大きくも小さくもない女子の平均ぐらいだ。
見た感じあまり同い年には見えない。
黒のストッキングや背中まで伸びた長い艶やかな黒い髪が、何故か不思議と母性と色気を醸し出している。
三年生の先輩だろうか?
「それではわたしは用事があるので失礼しますねぇ~」
「あ、はい」
僕が返事すると、癒されるような綺麗な笑みを浮かべ、丁寧に一礼して去って行った。
一体、あの人は何だったのだろうか?
人が落ちて来たというのにあの冷静さ。
人生五回目なのか?
そんな想像が頭を駆け巡る中、大きな足音と荒々しい吐息が近寄ってくることに気付いた。
僕はすぐに体をその音がする方へ向けると、そこには橘の姿があった。
「はぁ、はぁ……」
「大丈夫か?」
「そ、それはこっちのセリフです!」
そんなツッコミを入れ、息を整える橘。
凄い汗だ。
相当心配して来てくれたのが分かる。
「まぁ僕は見ての通り大丈夫だ。怪我もしていない」
平然とした表情でそう言う僕。
だが、その瞬間……
――パチンっ!
僕の頬に痛みが走った。
「へ……?」
僕は変な声と共に、ビンタした橘を見る。
すると、橘は涙目で僕を睨みつけていた。
見たことのない表情。
いつも平然とした表情と笑顔しか見せない橘が初めて見せた表情。
それに僕は驚きを隠せなかった。
「目はっ! 目は覚めましたか!」
「あ、ああ」
「本当に何であんな危険なことをするのですか! 私の楠君を失ってしまうかと思いましたよ!」
「わ、悪い」
てか、今自然に「私の楠君」とか言わなかった?
いつから俺は橘のものになったの?
「もうあのようなことはしないでください!」
「わ、分かったよ」
そう答えると、橘は「ふんっ!」と言い、僕を抱きしめた。
怒っていると思っていたのだが、急にどうしたのだろうか?
情緒不安定を極めているのか?
「今回はこれで許してあげます」
それだけ言うと、僕から離れて涙を制服の袖で拭き、いつもの笑顔を見せる。
そして続けて口を開いた。
「念の為、今から保健室にいきます」
「怪我はないけど――」
「行くのです!」
僕の言葉を遮り、橘は僕の手を引っ張って歩き出した。
なんか急に強引になった気が……いや、最初から強引だったか。
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