13.「虐め再開? 虐め再会?」

 橘が職員室に用事があるということで、僕は一人教室へ。

 そう言えば、やはり下駄箱に上靴はなかった。

 だがしかし、橘が持ってきていたので今はその新品の上靴を履いている。

 まぁ周りが汚い上靴ということもあり、場違い感は凄いがな。


 僕が二年生になってから教室に行くのはこれで恐らく六回目。

 記憶によると教室は二年二組だったはずだ。

 席は覚えている。

 窓側の一番後ろ。

 楠は「く」なので、この位置を最初に取りやすい。

 個人的に一番好きな席でもある。


 一ヶ月前の記憶を思い出しながら、昇降口から歩くこと数分。

 やっと三階にある教室の前に着いた。

 この学校の校舎は四階建て。

 一階が職員室や図書室など。

 二階が一年生のフロア。

 三階が僕たち二年生のフロア。

 四階が三年生のフロアとなっている。


 そんなことはよくて、今から扉を開ける。

 謎の緊張感が体を走る中、教室からは懐かしい嫌な声が耳に入る。

 虐めっ子の声。あの声は間違いない。


「ふぅ……」


 一度深呼吸して扉を開ける。

 同時に教室中の視線が飛んでき、先ほどまで騒がしかった教室中が沈黙に包まれた。

 そらそうだろう。

 一ヶ月も休んでいた虐めのターゲットが教室に入ってきたのだ。

 こういう反応になるのは当然。

 僕はとにかく無言で自分の席まで歩く。


「……机が……」


 僕の席はかなり酷い虐めを受けていたようだ。

 机には『死ね』や『バカ』、『キモい』『ゴミ』などと油性ペンで書かれている。

 椅子の方には絵の具で赤や青、緑、黄色などで汚されていた。


 僕はそれを確認して無言で机に鞄を置く。

 そして椅子に座った。

 新しい制服が汚れる心配もないぐらい乾いていたから問題ない。


 鞄から筆記用具を出し、机の中に入れようとすると、中はゴミだらけ。

 僕がいない間にこの机はゴミ箱にされていたようだ。

 色んなゴミが入っており、少し不快な臭いもする。

 落書きなどは良かったが、これは困った。

 流石の僕でも気分が悪くなる。


 とそんな時、一人の男子を先頭に男子数名がこちらへ。


「おぉ~久しぶりぃ~! く・す・の・き・くぅ~ん!」

「……」


 朝からどんなテンションしてやがる。

 超絶ぶりっ子並みの話し方だぞ。


「無視とは酷いねぇ~。なーに、俺らと久しぶりに会えて嬉しすぎて声が出ないとか?」


 煽り口調でそう言い、鼻で笑う男子。

 どこからどう見て嬉しそうに見えたんだよ。

 てか、こいつの名前知らないし、興味ないんだが。

 身長が高く、ガタイが良いだけで顔はなんか微妙。

 これが僕のクラスのカースト上位とは笑える。


「で、何で休んでたの? 病気? もしかして不登校?」

「……」


 こんな奴らを相手にする気はない。

 無視より強い会話術はないからそれを多用する。

 こいつらはとにかく構ってもらいたいのだ。

 そして構われたら興味を持つ。

 一種のストーカーだ。

 それを僕に一年もしているのだからしつこい奴らだ。


「あ、親が死んじゃったとか? 自殺だったけ?」


 そんな言葉が吐かれ、思わず肩がピクリと動く。

 最初から僕が休んでいた理由を知っていたようだ。


 周りの男子たちはその男子の言葉と同時に笑い出す。

 人の不幸がそんなに面白いのだろうか。

 僕には理解しかねる。


「楠もさ、親のもとに行かなくていいのか? ほら、立てよ!」


 男子はそう言い、僕の胸倉を掴んで無理矢理席を立たす。

 このニヤケ面を正面から見ていると吐き気がするな。


「無視とか止めようぜ? な? で、今から楠は親のもとへ旅立ってもらいます! おい、お前ら楠のエデンロードを作ってやれ」

「「「「うぃーす」」」」


 周りの男子は適当に返事をし、そのエデンロードを作っていく。

 で、出来たのが窓から飛び降りるための道。

 椅子、机を登れば、そこはもう窓の外。


「ここから飛び降りたら親に会えるぜ! 優しいだろ、俺ら」


 胸倉を離され、肩を組まれる。

 それから耳元で高身長男子は「こっちは一ヶ月もストレス解消できなかったんだ、どうするべきか分かるよな?」と満面の笑みで呟いた。


 僕に飛び降りてほしいのだろう。

 ここは三階。下手すると本当に死ぬ。

 だが、僕は死んでも構わない。

 一度死を覚悟したのだ。

 二度目の覚悟ほど簡単なものはない。

 それに僕が死のうが誰も悲しまない。

 むしろ、自殺に追い込んだことでこいつらが罰を受けるなら、こちらとしても最高だ。


 僕は高身長男子の手を払い、ゆっくと窓際へ歩いて行く。

 まずは汚れた椅子に右足。

 それから落書きされた机に左足。で、右足。

 窓際には落下防止の銀の棒があるが、机の上に立てばそんなものは役には立たない。

 上から一度、下を見下ろす。

 なかなか高い。下はコンクリートのようだ。

 頭を打てば死ぬだろう。


 周りからは「チキンチキン!」や「チビるなよ!」「ビビりかよ、ゴミ野郎が!」などという声が飛んでくる。

 だが、そんな言葉は全て僕には当てはまらない。

 なぜなら……。


 最後に一度、教室を見渡し、無言で口角を上げる。

 そして僕は躊躇することなく、落下防止の銀の棒に足をかけ……


 ――飛び降りた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る