11.「出発」
5月11日(月曜日)。
今日から学校に行く。
約一ヶ月振りの登校だが、凄く眠い。
別に学校へ行くことにワクワクして寝れなかったわけではない。
ただ昨晩は買った物の片付けや学校の準備に時間がかかり、寝る時間が午前三時頃になったのだ。
「今朝は眠そうですね」
「ん、まぁな。ふわぁ~」
大きな欠伸が出る。
現在の時刻は午前八時。
ホームルーム開始は確か午前八時四十分。
橘は午前八時ニ十分に出れば間に合うと言っていた。
僕は朝食のサンドイッチを食べ終え、歯磨きと顔を洗う。
それと五万円の電気シェーバーで髭も剃る。
こんなにも伸ばしたのは初めてだ。
まぁ伸ばしたくて伸ばしていたわけではないけど。
そんなことをしているとあっという間に時刻は午前八時十分。
「そろそろ出ますけど、用意はできましたか?」
「あ、ああ」
僕は顔を拭き、洗面所から橘の声がした玄関へ。
「え? 全然用意出来てないじゃないですか」
「えっと、何言っているんだ?」
「せ、制服はどうしたのですか!?」
「いや、僕は制服とかないし、この服で行くしかないだろ」
そう、僕は制服もない。
全て取られたからな。
鞄は昨日買ったのがあるので問題はない。
教科書はなくても大丈夫だ。
一応、僕の成績は学年六位だからな。
「新しい制服を楠君の部屋に置いていたのですが――」
「そ、そんなこと聞いてないぞ?」
「はい、言ってません」
平然とした顔でよくも「言ってません」と言えたな。
言ってないならそら気付かないのも当然だ。
部屋に何か白色で高級感のある袋があるとは気付いていたが、僕はそんなものを買った覚えがなかったので橘の物かと思っていた。
というか普通に自分の物じゃない袋は漁らないだろ。
「じゃあ今から着替えてくる」
「一人で大丈夫ですか?」
「当たり前だ」
僕を一体何だと思っているんだ。
幼稚園か、保育園か、それともペットか!
とにかく早く着替えないとな。
僕は急いで自分の部屋へ行き、袋を開けて制服に着替え始める。
「懐かしいな」
この制服を最後に着ていたの一ヶ月前。
だというのに、なぜかもっと昔のことのように感じる。
てか、何で僕は真面目に学校なんて行こうとしているのだろうか。
橘に拾われ、家ができ、部屋ができ、生きていける環境ができた。
それは母が死ぬ前と同じ環境。
もちろん多少は違う。家事などは橘が行っているからな。
そんな環境に戻ったせいで、自然と無意識のうちに学校に行こうと思ったのかもしれない。
学校行かずに働くと言ってた口はどこの口だろうか。
まさかもう一度学校に行く日が来るとは、な。
「遅いです!」
その声と同時に扉が開いた。
「お、おい! ノックぐらいしろよ」
「女子の私でもそんなに時間はかかりません」
「久しぶりなんだ、そこは甘めに見てくれ。というか、ノックもせずに開けて、僕がもしパンツ一枚だったらどうしてたんだ?」
「恐らくパンツ一枚の楠君を見る羽目になっていましたね」
見る羽目って言い方だろ。
まぁいい。丁度着替え終わった。
「先に橘が出てくれ」
「え? 一緒に行かないのですか?」
「一緒に登校していたら、変に思われるだろ?」
「もう既に私たちは変に思われてると思いますが」
た、確かに。
虐められているからな。
「でも、一緒の家に暮らしていることがバレたらヤバくないか?」
「いえ、大丈夫です。何かあれば、これでどうにかします」
いつも通りの表情で、右手の親指と人差し指で円を作る橘。
これの破壊力と安心感が凄い。
「もうどうなっても知らないからな」
「楠君は気にしすぎですよ。あ、ネクタイが曲がってます」
橘はそう言い、自然と僕のネクタイを直す。
なんか新婚夫婦みたいだ。
ちょっと恥ずかしい。
「あ、ありがとう」
「いえ、これぐらいは普通です。では、そろそろ行きましょうか」
「ああ、そうだな」
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