7.「朝食」
「これは手作りか?」
「はい、そうですよ。私、料理は得意なんです」
今日の朝食は橘の手作りサンドイッチ。
飲み物にコーヒー。
貧乏だった僕は基本朝食なんて食べてこなかったので新鮮だ。
でも……こんなにたくさん食べられるだろうか?
「ん? 食べないのですか?」
「あーいや、食べるよ」
二人で手を合わせ、「いただきます」と言って朝食がスタート。
まず僕は三種類あるサンドイッチの中からたまごサンドから手に取り口へ運ぶ。
「うん、美味い!」
「ほ、本当ですか!? そう言っていただけて嬉しいです」
上がっていた肩がゆっくりと下がり、ふわふわとした柔らかい笑顔でそう言う橘。
料理が得意とは言え、他人には食べさせたことがなかったに違いない。
だから、僕の口に合うか気になって少し緊張していたのだろう。
正直、そんな緊張もいらなかったと僕は思うがな。
こんなにも美味いのだ。
自信を持ってもいいと思う。
ドヤ顔で胸を張って「でしょ! 美味しいでしょ!」と言っても良かったぐらいだ。
続けて僕はサラダサンドを食べる。
個人的に生野菜は苦手だが、このサンドイッチのサラダは意外といけた。
味付けがされているおかげだろう。
まぁたまごサンド以上に食べたいとは流石に思わないが。
たまごサンド、サラダサンドと食べ、残りの一種類のカツサンドへ。
カツサンドはあまり食べない。
他のサンドイッチに比べて、カツを使っているということで値段が高いからな。
そんなことを思いながら、いつ振りか分からないカツサンドを口の中に。
「……んっ?」
「どうかされましたか?」
「あ、いや、これは何の肉だ?」
「牛肉ですが……苦手でしたか?」
牛肉だと……。
僕の家で牛肉のカツなど出たことがない。
豚肉のトンカツが普通。
鶏肉が安い時はチキンカツもあった気がする。だが、牛肉はない。
カツだけではなく、料理として牛肉はなかった。
まぁ僕が節約のために買わなかっただけだけど。
「そんなことはないけど……」
牛肉を久しぶりに食べたとは言えない。
小学校時代の給食振りなんて絶対に言えない。
「あ、もしかして、兎肉や鹿肉、ワニ肉の方が良かったですか?」
「それはない」
それには無表情で即否定。
てか、そんなものが普通の家庭にあるのか?
どこから取り寄せる気だ。
まず兎肉とワニ肉とか聞いたこともないぞ。
アレは動物園で可愛がったり、眺めるものだろ。
食べるなど想像できない。
「では、先ほどなぜ渋い顔を?」
「美味すぎて驚いただけだ」
「馬すぎましたか? このお肉」
「え、違う違う。美味で驚いたんだよ」
「あ、なるほど! それは嬉しいお言葉ですね」
び、びっくりした……。
美味すぎるが、馬すぎると聞き間違い、否、捉え間違いされるとは。
どういう脳みそなんだ、橘の奴。
時々、思うけど少しずれているよな。
あっ、もしかして、アレか!
賢い奴ほど変な奴が多いみたいな。
学年一位の学力の持ち主だからか少し変なのか?
まぁその理論だと学年六位の学力の持ち主の僕も変な奴になるのだが。
はぁ……普通に橘は変わった奴ということでいいか。
「そう言えば、今日学校は?」
「今日は日曜日なので休みです」
今日は日曜日か。
曜日なんてもう忘れていた。
僕も引きニートと変わらないな。
と思っていると、橘が少し間を置いてから口を開いた。
「なので、楠君の服や日用品を買いに行きませんか?」
「昨日も言ったが、僕にはお金がない」
「構いません。養うと言ったじゃないですか!」
「確かに言ったが、それってつまり……」
「はい! 全て私が買わせてもらいます!」
無い胸を張り、元気良くそう言う橘。
それに内心「マジか」と思いながら、「お願いします」と自然に口から漏れる僕であった。
って、これって完全にヒモだよな?
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