3.「強制連行」

 僕は橘に手を引っ張られるまま、首が折れそうなほど高い高級マンションに着いた。

 あの橘の「養います」という言葉を聞いてから、僕はずっと何が起こっているのか分からずパニック状態。

 完全に夢の中をウロウロしている感覚。

 非常に気持ち悪くて、気持ち良いという矛盾するぐらい不思議な感じだ。


 そんな感覚に脳が襲われていると、いつの間にか橘の家についたらしい。

 橘はポケットから鍵を取り出し、「よいしょ」と呟きながら鍵を開ける。


「どうぞ」

「は、ははは、入っていいのか?」

「はい、もちろんです」

「親御さんは何も言わないのか?」

「一人暮らしなので大丈夫です」


 一人暮らしとは珍しいな。

 え、今から僕は女子が一人暮らしをしている家に入るのか?

 いや、もう玄関に入ってしまったのだが。

 そして扉が閉まり、鍵をかけられたのだが。


 何で橘の奴、何も警戒してないんだよ。

 一応、僕は同い年の男子だぞ。

 もしかして、男と見られてない?

 それとも……いや、普通に優しさだろうな。


「このままだと濡れるがいいのか?」

「あ、ちょっと待ってくださいね」


 そう言い、一番近くの扉に入り、真っ白なタオルを地面に敷く橘。


「そのまま今、私が入った場所に入ってください」

「あ、ああ」


 僕はそう言われるがまま進み、扉を開けて中へ。

 扉の先にあったのは……お風呂。


「あ、あの……」

「風邪を引くので入ってください」

「でも、橘も濡れてるし、先に入るのは――」

「いえ、後で入るので大丈夫です。それに少し部屋の整理とかもあるので」


 手をモジモジさせながらそう言う橘。

 橘の性格からして物が散らばっているということはないと思うが、そうなると下着関係を片付けるためだろう。

 ここは言われた通りにしておくか。

 それに寒いし。


「わ、分かった。じゃあ先に入らせてもらうよ」


 僕はそれだけ言い、扉をゆっくりと閉めた。

 そして濡れた服、ズボンを脱ぎ、それからパンツを脱いでいく。

 一体、これはどこに?

 洗濯機の中か?

 困った末、綺麗に畳んで置いておいた。


 シャワーを浴び、先に頭と体を洗う。

 もう一週間ほどお風呂には入っていないからな。

 ネットカフェで動かなければ大丈夫かなーと、それにこの辺りには銭湯がない。

 そういう理由で入ってなかったのだが、今思えば入っておけば良かった。


 だって、一週間もお風呂に入っていない僕に橘を抱きつかせることになったのだから。

 絶対に「臭い」と思われてるに違いない。

 だから、お風呂を進めて来たのか?

 いや、考えすぎか。


 泡立たなかったのでシャンプーを二回し、コンディショナーも一応使う。

 体は何で洗うか分からず、結局手で洗った。


「ふぅ……」


 久しぶりの湯船に思わず声が出る。

 気持ち良すぎてとろけそうだ。

 体の芯まで温まって、一気に疲れが癒えていく。


 そんな油断をしている時だった。


「楠君、は、入りますよ?」

「は、入りますよ?」


 その言葉に変な声でオウム返し。

 一気に油断していた心が警戒態勢に入り、視線が扉へいく。


「後で入ると言ったじゃないですか」

「いや、一緒に入るとは思ってもいなかったと言うか何と言うか……それに流石に一緒に入るのはダメだろ? 普通に考えて」

「そ、そうですか。ごめんなさい」

「あ、いや、気にするな」

「では、着替えだけここに置ておきますね」

「あ、ああ。ありがとう」


 ふぅ……。

 湯船に入った時とは違う息が出た。


 いきなりこんなことになるとは予想外も予想外。

 一緒に入るとか何を考えているだ。

 やっぱり男子と見られてない?

 いや、橘のことだ。

 恐らくあのような行動をとった原因はだろう。


 数分、湯船でゆっくりし、シャワーで体を流して脱衣所へ。

 そう言えば、着替えを用意してくれたとか言ってたな。

 ジャージやスエットだろうか。


「……女性用、パンツだと……」


 しかも、水色の花柄。

 加えてブラジャーまで。

 服はモフモフのパーカーと短パン。


「ぼ、僕は……いつから女になったんだ?」

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