2.「救いの手」
「僕はこんなところで何をしているのだろうか?」
ふと口からそんな言葉が出た。
あの日から丁度一週間が経ち、現在僕は公園の濡れたベンチに腰を下ろしている。
時刻は何時だろうか。
空にはどんよりとした雲がかかり、とにかく暗い。
街灯だけが僕を照らす。
「はぁ……」
重々しいため息がもれる。
その瞬間、鼻に雫がかかった。
「あ、雨か」
顔を天に向けると大粒の雨が顔を襲う。
思っていた以上に激しい雨だ。
このままでは風邪を引いてしまうが、今はこのままでいい。
雨に打たれて頭を冷やしたい。
それに僕以外に濡れるものもないしな。
そう、鞄も何もかもない。
実は昨夜、ネットカフェで寝ている間に全てパクられてしまった。
たまたまポケットにあったお金で何とかネットカフェからは出れたが、着替えや日常品、あの1000万円は鞄に入っていたのでもう手元にはない。
普通は警察に言うべきなんだろうが、今の僕が警察に行ったら、身元を聞かれて保護され、どこかの施設に入れられることは間違いないだろう。
はっきり言ってそんなのは嫌だ。
人と関わるのは苦手だからな。
バイトをしようにも服も日用品もなければ、面接には受からない。
まぁ服や日用品があっても受かっていないんだが。
はぁ……これからどうしようか。
所持金ゼロ、服は今着ている物のみ、日用品もない。
加えて家もなければ、頼れる人もいない。
ホームレスより酷い状況じゃないか。
「約一ヶ月で母のもとに行くことになるとは、な」
僕自身そんなつもりはなかっただけに笑える。
本当に笑える。
流石、あの母の子供だ。
こうなったのは天性の素質か。
「本当に……ぐやじぃ、ぐやじぃよ……」
目頭と目端から涙が溢れ、雨と一緒となり頬を流れる。
悔しい、苦しい、情けない。
自分が嫌いになる。
まだ死にたくないのに……死にたい。
矛盾しているよな。
だけど、それぐらい僕はどうしようもない状況なんだ。
「これから……どう、すれば……」
雨に打たれ、頭を抱えていると、僕の場所だけ急に雨が止んだ。
不思議に思い、顔を上げるとそこには女の人がいた。
涙で視界が歪み、はっきりと顔は見えない。
「……ん?」
「
「な、なぜ僕の名前を」
「なぜってずっとあなたを探していましたから」
「答えになってない」
「そうですね。私のこと分かりますか?」
聞き覚えのある声。
手の甲で涙を拭き、顔を声の方へ。
「君は……
「はい。正解です」
僕の唯一の女友達、否、友達。
と言っても、話すのは学級委員長として一緒にいる時のみ。
正直、友達と言いながら友達なのか難しい関係性の人物。
「それよりも何でここに?」
「だから、私はずっとあなたを探していたのです。同じ学級委員長として」
「相変わらず真面目だな。だが、僕はもう学校には戻れない」
「なぜですか?」
「何もないんだ。全てを失った。服や日常品、お金、そして家族も」
「……」
僕の言葉に黙り込む橘。
そらそうだろう。
こんなこと言われても、橘にはどうすることもできない。
ただ迷惑に思っただけだ。
「そういうわけだから、学校にはそう言っておいてくれ」
それだけ言い、僕は立ち上がる。
そして傘から抜け、静かに歩き出す。
これ以上、橘に迷惑をかけたくはない。
橘は学級委員長という役だから、僕を探していたのだ。
別に僕が『必要だから』『大切に思っているから』そういうことじゃない。
真面目だから使命感でやった、それだけのこと。
何日も探してくれていたのは、心から有難いと思っている。
だが、見つけられたところで現状は変わりはしない。
世界はそんなに優しくは出来ていない。
それに橘は唯一の女友達だけど、頼れるほどの甘えられるほどの友達でもない。
いや、僕にはそんな人間なんてこの世にもどの世にもいないんだけどな。
僕はもうすぐ死ぬ。
だから、もうほっておいてほしい。
最後ぐらい僕を自由にしてくれ。
無にしてくれ。
「ま、待ってっ! 待ってください!」
橘が聞いたこともないぐらい大きな声で叫び、僕を後ろから包み込む。
体は柔らかく、温かい。
けど、その優しさは僕には棘でしかなかった。
痛くて、痛くて、痛くて。
辛くて、しんどい。
「止めれくれないか? もうほっとい――」
「ほっとけません!」
僕の言葉を遮ってそう言い、更に強く抱きしめてくる橘。
続けて橘は口を開く。
「私が、私が! 楠君を養います! 養いますから!」
「……え?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます