四
尾根村の村人が瀕死の麻太郎を見付けたのは、その翌朝のことであった。朝の炊き出しの準備に出て来た女が、井戸端に倒れている男を発見した。女はそれが行き倒れた死体だと思い込み、慌てて家に走って帰って家長を叩き起こしたわけだが、それは生死の境を彷徨っている麻太郎であったのだ。女の悲鳴を聞いた村人がぞろぞろと出てきて、尾根村は騒然となった。
「こいつぁ麻太郎だ! おい、誰か佐兵衛を呼んで来いっ!」
駆け付けた麻太郎の母、千代は息子の惨たらしい姿を見て、その場で気を失った。
「麻太郎でねぇか? 大丈夫かっ! しっかりしろっ!」
麻太郎の父、佐兵衛が駆け寄って叫んだ。
「誰にやられただ!? 誰がやっただ!?」
麻太郎一家を取り囲んでいる群衆の中の一人が叫んだ。
「谷村の奴らに決まってるっ! 昨日の山狩りは麻太郎を探していたんだ!」
「この前だってあいつらがやったんだっ! 伊之助がやったんだっ! 違ぇねぇっ!」と別の男が引き継いだ。
「昨日の山狩りは、お前を狩っていたのか、麻太郎っ!? まさかお前、華と駆け落ちしようとしたんじゃあるめぇなっ!?」
佐兵衛は麻太郎を抱き起しながら問い詰めた。しかし麻太郎は「うう・・・」と呻くだけで、その問いに答えたものかどうか誰にも判らなかった。
取り巻きの中には、ひそひそと話す奴らも居た。
「見ろ。麻太郎の左手を。ぐちゃぐちゃに火傷して・・・ 酷ぇことしやがる」
「だから谷村の娘になんか、手を出すもんじゃねぇって言ったのによ」
「ありゃぁ、助からねぇかもしれねぇな。南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏・・・」
佐兵衛が叫んだ。
「荷車を用意してくろっ! 麓の病院さ連れて行く!」
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