第28話・ドラゴンの国

「火の消えた宮殿跡で、ドラゴンたちのなきがらは崩れ落ちた。噴火口のようだった穴がふさがり、黒煙の一掃された上空には青空が開いてた。オレとジュビーがそこにいくと、街中の民衆が・・・ものすごい数の人々が、ぞろぞろと集まりはじめた。そして、ふたりの周りを取り囲んだんだ。オレたちはまるで、すり鉢状の大きな劇場の中央舞台に立たされてるみたいだった。誰もが、発せられるべき声を待ってた。オレは緊張で震えそうになった。ところがジュビーは、まったく臆することがなかった。それが器ってものなんだろう。彼女はそこで、英雄の剣を、くの字に曲がった剣を、天高く掲げてみせたんだ。すると、地面を揺るがす拍手と喝采がわき起こった。新しい国家の指導者は、こうして生まれたんだ」

「わあ・・・それで、その宮殿跡はどうなったのですか?」

 シスター・プランが、ザルにひろげたマメを選別しながら訊いてくる。ポカポカ陽気の芝生のその隣で、オレはカマを砥石にあてながら答える。

「ヌートンの樹が植えられたのさ。ドラゴンの灰には栄養がたっぷりとあるし、垂れ流しだった糞尿も肥料になる。すると、たちまちヌートンは実って、今じゃその地は、大陸でたぶんいちばんの農園になってる。それを目の当たりにした都の人々は、デンキとバギーに頼った快適な暮らしを捨てて、昔のように汗水を流してクワを振るうようになったんだ。それはしんどいことだけど、なぜだか誰もが笑顔になった。あのドラゴーネの街・・・カンピオネから改名したんだ、あの街を歩けば、それはほんとに実感できるんだ。誰も彼もが、ほんとにしあわせな顔をしてるんだ。全部、ドラゴンのおかげさ」

 眼鏡を鼻先におろしたシスター・プランは、こちらを見て、可憐な笑みをこぼしてくる。

「わたくしもしあわせです。あなたがいらしてから、子供たちが本当によく笑うようになりました」

 シスターは、マメをひとつ、オレの手の平によこす。オレはそれをつまみ食いする。穏やかな時間だ。シスターもひとつ頬張る。そして、笑い合った。

「こらっ!」

 コーン・・・

 激痛!木のオタマが、脳天に打ち下ろされたのだ。もう少し手加減はできないものなのか、この年増女ときたら。

「痛・・・ってーなっ。その力にその急所だと、ヘタしたらオレ、死んでますよ、シスター・ソレイユ」

「うるさいっ。下男のくせに、つまみ食いなんかするんじゃないよ。とっとと働きな」

「わかってますよ。毒見です。ど、く、み」

「味見だろっ。あたしにもよこしな」

 シスター・ソレイユは、オレとシスター・プランとの間に、大きな尻をねじ込んでくる。

「今年のマメは、いい出来だねえ」

「これも、ジュビー様が国中に種や苗を配給してくださるおかげです」

「いい国になったもんだ」

 空を見上げる。ドラゴンは絶滅した、と言われている。全土各地のどこにも姿が見られなくなった。しかし、この新しい国は、ドラゴンの上に建てられた。そしてあの知性のかけらが、国中に配られ、人々の血肉となっている。そのことを、いっこのマメの中に噛みしめる。

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