第4話 コブ先。
「ぐおぇ……!!」
コブ先の頬に思い切り蹴りがめり込んだ。
俺は昔から喧嘩や格闘技ばかりやっていた為、ハッキリ言って常人よりも強い。
コブ先は派手にスッ飛ぶと、机を巻き込み転がっていく。
ーーやっちまった……。
けど、仕方ないわな……。
「な、何をしてるの、貴方は!」
声は思いがけない方からした。
……綾瀬美波だ。
「何をしてるってのは、こっちの台詞だ! お前こそコブ先に脅迫されて服を……!」
俺の言葉に、ポカンッとした顔をしてくる綾瀬。
ーーえ、俺何か間違ってる?
「…………あっ!」
何かを思い出したように委員長が声を上げる。
「もしかして……演劇部の練習……?」
委員長からとんでもない言葉が発せられる。 なんだそれ、聞いてないぞ!?
「貴方は知らないかもしれないわね。授業もホームルームも上の空。 いつも空ばかり眺めているもの……。演劇部の演目で、10月に発表会があるからって話した筈よ。」
綾瀬はコブ先を抱え起こすと、ハンカチをスカートのポケットから取り出し、俺に蹴られたコブ先の顔を押さえていた。
「今回の演目は野獣と薄幸の少女。野獣役はコブ先生こと、野中先生。 そして、薄幸の少女役は私。」
キッと睨みつけてくる綾瀬に俺は思わず後退る。
「そういえば、野中先生は演劇部の顧問の他に、生徒指導も兼任してらっしゃるから、時間があまり作れないって言ってた様な……。」
委員長は顎に人差し指を当てながら思い出したように話し出す。
「そうだ。だから空いた時間に今はあまり使われていない部室棟で演目の練習をしていたんだ。」
「演目の練習すんなら、こんな部室棟でやる必要無いだろ!」
俺の言葉にコブ先の眉がピクリと動く。
「ばっかもーん!人目につく場所で練習しようものなら、要らぬ疑いをかけられ、綾瀬に迷惑が掛かるだろう! 先にも聞いているように、私にもあまり時間が無い!だからまだ先だが、演目の練習はしなければならないんだ!」
コブ先の怒号が部室内に響き渡る。
「ちょ、ちょっと待てよ!なら演劇部の部室でやればいいじゃねぇか!何でわざわざこんな使われていない部室棟でやるんだよ! それこそ俺達みたいに見かけた奴等に噂されるぞ!?」
演劇部の部室は校舎の直ぐ隣の新しい部室棟にある。
わざわざこんな部室棟でやらなくてもいい筈だ……。
「確かに私も当初は猛反対した。だが、綾瀬の本気で演劇をしたい、本気で薄幸の少女になりたいという気持ちを伝えられた。その熱意に負けて今はここで別に指導している。 こんなお色気シーンは実際にはしない。だが、その気持ちになってこそ本気の演劇だと彼女に言われてな……。」
で、引き受けたと……。引き受けんなよ……。
「じゃ、じゃあ、今日も手伝ってくれってのは……。」
「あれは綾瀬から言ったら不自然だろ。だから教師の私から言った方が安全だからだよ。」
じゃあ、あの綾瀬のビクつきも演劇部のことがバレたくないからで……つまり、俺が一方的にコブ先をボコったって事か……。
ーー鳳星院、俺は謹慎だ……。
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