第5話 早とちりの結果。
「ちょっと整理させてくれ。綾瀬は演劇部で、十月にある舞台の演目の『薄幸の少女』になりきる為に、人目につかない旧部室棟を選んだ。 コブ先は演劇部顧問として、熱い気持ちを持った綾瀬の期待に応えるべくこうして演劇の練習をしている、と。」
俺は一つ一つ順を追って二人の話を組み立てていく。
「まぁ、そういう事になるわ。確かに役になりきる為に野中先生に迷惑を掛けてしまった事は大変申し訳ありませんでした。」
そう言うと綾瀬はコブ先に深々と頭を下げた。
「コブ、いや、野中先生。俺もそうとは知らずにボコッちまって申し訳なかった。 綾瀬が襲われてると思ってつい……。」
「いや、私は構わんよ。実際、しっかりと周知していればこのような事にならずに済んだし、教師として軽はずみな行動だったと反省している。」
俺のケリを食らったにも関わらず、コブ先は俺にも綾瀬にも頭を下げてきた。
「で、君の処分なんだが……。」
ーーん?
あれ、さっきの流れって完全にめでたしめでたしの流れじゃなかったかい?
「処分は、綾瀬に決めてもらおうか。」
コブ先は綾瀬に俺の処分を選択させるつもりらしい。
完全に根に持ってんじゃねぇか、このタヌキジジィ!!
「わ、私は…………。ま、まぁ、仮にも助けるつもりの行動だったみたいだし……あれよ、そう! えっと……不問。そう、不問よ!」
はだけた制服をそそくさと直しながら、綾瀬は俺の処分を不問とした。
そんなに顔を真っ赤にする程恥ずかしいならやるなよ………。
「ありがとな、綾瀬!コブ先もわりーな! カツラ取れかけてるぞ!」
俺はいつも通り悪態をつきながら、委員長と部室棟を後にする。
『結城ーー!またんかーー!!』
遥か遠くから聞こえてくるコブ先の声も気にせず、委員長の手を引き、教室に戻った。
ーー教訓。
『誤解される事はやらない。』
これが特大ブーメランだという事も知らずに。
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