第5話

寝込んだヴィオレをじっと見守るロート。

さながら姉の病気を看病している弟のようだった。


(ヴィオレさん…大丈夫だよね…)


(…)


ただ静かな時間が流れてゆく。

聞こえてくるのは波の音と風で木々が揺れる音だけだ。


「あ…あのヴィオレさん…ボク、ヴィオレさんに謝りたいことが…」


「う…うぅ…」


「!?」


ロートが小声でヴィオレに伝えなければいけない事があったが、ヴィオレがうなされているのに気付き、手を握ってあげた。


「ぅ…めんなさい…ごめん…なさい…」


ヴィオレはうなされた状態で泣いていた。

ずっと気の強かった彼女が無意識ながらに初めて弱い姿を見せたのだ。


「…うぅ…私の…せいで…みんな…」


もしかすると、彼女は…

彼女はオール社に反抗して以来、既に親しい仲間を失っていったのではなかろうか。

ロートはそう感じた。


「ヴィオレさん…、大丈夫だよ…。もう1人で抱え込まないで…」


ロートも泣きながら優しく手を握った。


人一倍責任感の強い彼女は全ての責を1人で背負い込み、若干25歳にしては耐えられぬストレスを感じていた。

自身がしてしまった行為を何度も後悔した。

ストレスに耐えきれず、生を諦めようともした。


しかし、これまでに犠牲になった人は?

今まで自身を応援してくれた人は?

彼らの事を考えると前に進むしか出来なくなっていった。


「…ヴィ…ヴィオレさ…ん…」


ロートはヴィオレの何かを自分と重ねたのか、涙が止まらなかった。



「なんだ?なんでこんな島に人間なんかいるんだ」


ロートの後方から人の声が聞こえ、涙を拭いながら後ろを向いた。


そこにはボロボロになった服を着て、緑髪の筋肉質な老人が立っていた。


「だ…誰…?」


ロートは振り絞りながら、戦い慣れていない体勢で声をかけた。


「?病人がいるじゃないか。どけ」


老人は軽くロートを突き飛ばし、ヴィオレに近付いた。


「うん…。回復はしてるようだが、寝床が悪いようだな」


「…あの!!ヴィオレさんに触れたら…!!」


ロートは強めに老人に言ったが、老人は無視しコードを唱えた。


『コード0634:緑のゆりかご』


すると植物が生えてる地面から長い蔦が生えてゆき、ゆっくりとヴィオレを包み込んでゆく。


「ちょっ…!おじいさん!ヴィオレさんに…!」


ロートは老人がヴィオレに何かしたと思い、パンチを繰り出そうとしたが、老人に片手で頭を掴まれ止まってしまった。


そうしている間にも、ヴィオレの寝床は草できたふわふわしたゆりかごが完成されていた。


「うぬ、これで上々だな」


ようやく解放されたロートもヴィオレの寝床を見て、この老人は悪い人間ではなかったと認識した。


「お、おじいさんは…能力者…?」


「ところで子ども、お前はなぜルージュのリングをしているんだ?」


(!?)


どうやら老人はルージュの事を知っていたようだ。

しかも呼び捨てで呼ぶような仲の…。


ロートは疑われないよう、先ほどと同じようにメールを見せ、なんとか疑いを晴らせた。


「…なるほどな。とうとうアイツも死んだか…」


「あ、あの…おじいさんって…誰…なんですか…?」


琴線に触れぬよう、恐る恐るロートは聞いた。


「あ?儂は元アルコバレーノの緑、アフダルだ。今は島暮らしを楽しんでいる只のジジイだ」


元アルコバレーノ。

となると、ルージュの戦友である事が分かる。


「え…、なんでそんな人が今こんな島で…」


「儂はあの都市が嫌いだ。なんならあの世界の人間が嫌いだ。だからこの島にいる」


淡々と話していたが、何か風格や只ならぬオーラがある。

よく見るとアフダルの体には歴戦の古傷がいくつも残っていた。


「しかしなぁ、ルージュ…。あいつ嫁さんも子どもも残して何先に逝ってやがんだ…」


ルージュが妻子持ちというのは初めて知った。

彼は色々背負うものがあったが、妻子に最期は何も言えず亡くなってしまった事は1番悔やまれるだろう。


しばらくすると、ナランハの声が勿論ここまで響いてきた。

2人はすぐに耳を塞いだ。


(うっ…なにこれ…この島に怪物でもいるの…!?)


(これは…橙色のリングの力か…)


そして10秒ほど経ち、声は止んだ。


「おい、子ども。お前たち以外に誰かいるのか?」


「…ボクはロートです…。ボクたち以外にも6人がこの島を探索しています…」


ロートがアフダルという男に事情を説明しようとした時…


「うぅ…何?さっきの…」


ヴィオレが目を覚ました。

ロートはそれにすぐ気付き、涙目になりながらヴィオレ元へ抱きついた。


「…なんなの、ただ寝てただけなのに大袈裟ね」


そんな事を言いつつも少しヴィオレは嬉しそうであった。

ロートはヴィオレの気持ちを知り、より一層支えてあげたくなったのだが、むしろ支えられてるようだった。



そして丁度、カルコス達もヴィオレのいる場所に戻ってきたのであった。

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