第四章 アフダル島

〜世界を背負った男は島に1人〜

第1話

「やっほー!!海風が気持ちいいー!!」


シーニーの運転する船、ブラウ号はネロ一行を乗せてネグロ火山を目指していた。

ヴィオレの願い通り、船は順調に加速していき、既にネグロ火山まで5000kmを切っていた。


「グヌゥ…、船酔いしてしまった…」


「だから酔い止め持ってこいって言ったでしょ」


ネロやロートはこの快適な運転、気持ちの良い日差し、綺麗な海でテンションが上がっていた。


「おーい!カルコス!!何弱ってんだよー!」


「ヌゥ…若いっていいのぉ…。ヌ?お前さんはサブロー!ワシを助けてくれるのか??」


シーニーのペンギンの1匹であるサブローはカルコスの背中をさすってあげていた。


「いやぁ〜気持ちが良い!…そういえば思ったんだけど、シーニーさんの魔法のペンギンさん達はいつまで経っても魔法が切れて消える事ないよね?」


「うん!そうだよー!シィの魔法はね、特別なの!!」


「そうじゃないでしょ、前にリングの能力は三種類あるって言ったでしょ」


ヴィオレは雑なボケにツッコミつつ、説明し始めた。


「魔法系、精神系、召喚系。この3つの中で大半を占めるのが魔法系って言ったわよね」


「うん、ボクの能力も魔法系なんだよね?」


「そうね、魔法系には作動に制限時間があるの。コードを唱えてからおよそ10秒。その間は他の能力も使えないわ」


「代わって精神系と召喚系。シンザって男は精神系だったわね。そしてシーニーが召喚系。これら2つに関してはリングの中でもなかなか稀に存在するの」


「希少であるが為か分からないけど、この二つの能力に関しては作動に制限時間がないわ。そして同時にコードを発動することも出来る」


「なんだそれ!?なんかズルっこいなぁ!!」


「でも考えてみて。戦闘向きは圧倒的に魔法系なのよ。そういう意味でバランスは取れてると思うわ」


「どうでもいいが、ワシはこのサブロー達が大好きだぞ!!」


カルコスはペンギン達を抱きついていた。

厳つい男が可愛い動物にハグをしている…。

とても微笑ましい光景だ。


「わぁ!カルくん可愛い!!ね!ね!みんなで動画撮ろうよ!」


と聞く前にシーニーは既に小型のカメラを飛ばし、動画を流していた。


「うぉー!いぇーい!お前ら見てるかー!」


「ガッハッハ!!なかなか幸せな光景だぞ!!」


「ちょっ…ボク…そういうのは…」


(やばい…)


羽虫の小型カメラを華麗に避け、ヴィオレはシーニーにチョップをかました。


「いったぁー!ヴィー姉どうしたの!?」


「あなたのその変な呼び方は許してあげるけど、カメラはすぐに止めなさい」


そんな事を言いつつも、羽虫カメラはしっかりヴィオレを画角に収めていた。


「ギャー!やめなさい!!」


ヴィオレは幾度もシーニーにチョップをかまして、ようやく撮影は終わった。


「痛いよ…ヴィー姉…。なんでこんなこと…」


涙目になるシーニーにヴィオレは大人しく事情を話した。


「私達は今、政府とオール社に追われているの…。だからこのカメラにあなたと私達が映ってしまった以上、あなたも追われる羽目になるのよ…」


「え?なーんだそんなことかぁ!」


シーニーは全く驚いてなく、むしろ喜んでいた。


「ヴィー姉が撮られるの嫌いだと思ってたー!」


シーニーは甘えるようにヴィオレに抱き付いた。


「と、とりあえずまだ投稿してないならセーフよ…」


「え?さっきのライブ配信だよ?」


終わった。

それでなく今追われている一行がまさにこの場所に居ますよという煽りにもなってしまった。



「ま、まぁでもこんな大海原でボク達を特定なんて…」


「現代の技術なめないで…」


「特定の機関なら写真の一部や瞳に映った光景だけですら特定できるのよ…」


ヴィオレは終わったと顔を手で覆い隠した。

つまり…、彼らの技術ならここまで辿り着くのに30分とない。


「よーし!シーニー!!今から全力前進だぁあ!!」


「ヨーソロー!!!」


元気組3人は焦りも後悔もなく勢いを増していく。

しかし残り2人は下を向き落ち込んでいた。



案の定、30分程度に後方から特急の船が勢いよくやってきた。

ヴィオレはリングの視力調整機能で乗船員を確認し始めた。


「あれは…」


「最悪だわ!よりにもよってアルコバレーノの2人が来た!」


後方からの船に乗っているのはヴェルデと…青色のリング所有者のアズラクであった。


「!!自分もいるのであります!!」


しかもその船の操縦士は政府の3番隊ナランハである。


「なんだぁ!?またお前ら来たのかっ!!」


「…」


相変わらず無言無表情のヴェルデである。


「あ!アズラクお兄ちゃんだぁ!」


「シーニーちゃん!こんにちは〜」


アズラク、アルコバレーノNo.4にして水の使い手。

綺麗な青い髪を靡かせ、高身長であり優しそうな目をしている好青年。

いわゆるこの世界でのイケメンである。

ネロには全く似ていない。


「ヌ!?シーニーの兄なのか?この男は?」


「違うよー!お母さんのお弟子さんでお母さんが亡くなった後もよく家に遊びに来たんだよー」


お隣さんのお兄さんみたいな感じで2人は古くからの顔見知りであった。


「…そんなことを話に来たんじゃない」


ヴェルデは重い口を開き始めた。


「確かにね…、アルコバレーノ2人で私達を捕まえに来たって事はオール社や政府でもかなり厄介な相手って認識され始めたってことよ」


ヴィオレも続けて今の状況を説明した。


「えー!お兄ちゃん、シィ達を捕まえにきたのー??」


「あっいやいや!そんな酷いことはしないよ!ただ君達がかなり要注意されててね…。特にその赤い髪をした子」


アズラクは優しそうに答えたが、手を指す先にはロートがいた。


「え!?」


「ルージュ殿が消息不明でもう1ヶ月以上経つのであります!!その為!政府、オール社ではその少年が怪しいと思われてるのであります!!」


ナランハはルージュが消息不明になった容疑はロートにかかっていると説明した。


「ちょっと待ておっさん!!ルージュって奴が殺されたのはロートのせいじゃねぇ!!」



時が止まった。

ネロはルージュが殺されたという事実を誤って口にしてしまった。


「…、…、………ッッ」


ヴェルデは徐々に大きな竜巻を帯び寄せて来た。


「その黒い髪の君っ!まさか本当にあのルージュさんがっ…」


アズラクもかなりショックを受けていた。


この世界でのルージュという存在がどれだけ大きいのか、今ネロは知った。


「やばいわよ!みんな!船の手すりにしがみついて!」


ヴェルデの出す竜巻が嵐雲を呼び起こし海は荒れ始めた。


「ヴェ、ヴェルデ!!落ち着いて!!」


「ヴェルデ殿!!このままだと自分たちも死ぬのであります!!」


ヴェルデの船に乗る2人も彼女を落ち着かせようと必死だったが、もはや遅かった。


大きな波が船を襲い、その後渦潮で船は徐々に傾いていった。


「あー!!お父さんの船がっ!!」


「グォォ!!ワシ…落ちる!!」


ネロ側の船もアズラク側の船ももはや傾き転覆寸前で、みな船にしがみついていた。

ヴェルデのみ宙に浮きながらコードを唱えている。


「くっそぉぉぉ!!あのガキ!!いい加減にしろ!!」


ネロは船にしがみつくのを止め、ヴェルデに近付けるよう傾いた船をよじ登った。


「オラァァ!!」


ネロは飛びかかり構えていた木刀を勢いよくヴェルデの頭上に振り落とした。

ヴェルデはそのまま気絶してしまい、風も制御不能になり、船を完全に破壊して去っていった。


海に落ちた一同だったが、


『コード0424:およげ!ペンギンさん!』!


『コード0467:水絨毯(みずじゅうたん)』


幸いにも水に強い青色のリング所有者が2人いた。


彼らに助けられ、ひとまず一同は近くの島へ避難する事にした。

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