第5話

シンザは見事ヴィオレに能力を見破られた。

ここからはイカサマなしの単純な心理戦勝負になってしまう。


「まだ何か隠してるのかしら?イカサマバレたのに随分余裕そうね」


「いやいや!もうオレは追い込まれて仕方ねぇよー!」


余裕そうなシンザはこの状況である提案をした。


「イカサマってのはバレたら負ける事になる。だが、今回に関してはお姉さんもオレのイカサマを利用したんだ。これで一回チャラにしてくれねーかな」


「だが、ここからは真剣勝負といこうぜ。一回でもイカサマやゲームを妨げる行為をしたら負け。そういう条件を提案したいと思う」


「あなたからイカサマを仕掛けておいて随分な態度ね。まぁいいわ、ここからはイカサマなしの真剣勝負といきましょう」


シンザは一瞬、ニヤリとした。


そしてゲームは再開した。

次のゲームはヴィオレが武器商人側、シンザが家族側である。


シンザはゆっくりと家族カードを場に出す。


そして、ヴィオレが家族の誰かを聞こうとした時…


台の上に1匹フナムシが乗ってきた。


「…」


ヴィオレが止まった。


「?どうしたお姉さん?」


「ゲームを妨げる行為は負けになっちまうぜ?」


シンザはニヤニヤとしている。

おそらく彼の能力は人間限定でなく、生物全体にかけられるのだろう。

しかしそんな思考を巡らせる余裕もないくらいヴィオレは虫が苦手であった。


「…あ、あなたは…誰ですか?」


(ヤバイヤバイヤバイ死ぬ…)


フナムシは台に1匹だけでなく3匹に増えていた。

それだけでなくヴィオレ達の周りに複数匹湧いてきている。


しかし幸いにもヴィオレ以外は皆虫は平気なようで、特に何も違和感に気付いていなかった。


「そうだなぁ…、オレは息子だぜ?」


シンザがニヤニヤしていると、そこでネロが台にいるフナムシが邪魔くさく感じ始めた。


「おいおい、ゲームしている最中にお前ら邪魔すんなよ」


ネロは何も悪気なくフナムシを払った。

しかし不幸にもその払った1匹がヴィオレの膝上に乗っかってしまった。


「…ッッ!!!?!?」


ヴィオレはすぐさま持っているカードを投げ捨て、ゲーム場から50mも離れて逃げてしまった。


遠くで離れながら服をバタバタ払い、大きなリアクションをしている。


「ヌゥ…??何してるんだヴィオレは…」


「おいおい!!お姉さん!!これはゲームを妨げる行為だぜ!!今回はお姉さんの負けだな!!」


なんと呆気ない。

心理戦もクソもない、力技でシンザはヴィオレを倒したのだ。

いや、ゲームを妨げる行為を負けと条件付けたのはそういう意味も込めていたのだ。


「ヴィオレさん!?な、なんで!?」


ヴィオレはゲーム場に戻ってきた頃にはフナムシは消えていた。


「…ハァハァ。これは…仕方ない…」


虫を味方に付けられたら勝つ術がもうない。

ヴィオレは既に諦めていた。


「あ、そうそう。ちなみにオレの能力はもう既に解いてあるからお前らは心配しないでゲームを観戦してていいぜ!」


シンザはニヤニヤしている。

もうこいつは何も信用できない、ヴィオレは睨みつけていた。


「あ!!じゃあ次はシィだね!!やったー!やっと順番きたぁー!」


とうとう4回戦目、もう一行に後がなくなってきた。

どうかここで、ここで終わらせて欲しい。

そうロートはずっと祈っていた。


「おー、次は元気なお嬢さんか。じゃあ今回のゲームはお嬢さんに提案してもらうぜ」


「んー」


シーニーはゲーム道具の入った箱を漁った。


「あ!これなんか面白そう!!」


((!?))


シーニーが取り出したのは、今までの小サイズのゲーム道具ではなく、大サイズのゲーム道具を出した。


「ほ〜、ジェンガか。これまた大きく勝負方法が変わるなぁ」


ーーーーーー

ジェンガ。

54本あるブロックが積み重なったブロックタワー。

そのブロックタワーの中から、片手でブロックを一つ抜き取る。

抜き取ったブロックはタワーの1番上に置き、ここまでの行程が終わったら相手の番に代わる。

これを順々に繰り返していき、ブロックタワーを崩していった相手の負け。


今までの数字や心理など頭を使うゲームではない。

しかし、どのブロックを抜き取ればタワーは崩れないのか。

そういう意味で思考力を巡らせる必要がある。

ーーーーーー


「なんだ!このゲームの方が面白そうだな!俺これやりたかった!」


ネロが無邪気そうにワクワクしていたが、そこにヴィオレが口を挟んだ。


「シンザ、この時点でまずあなたが能力を使用していない証明をしてもらうわ」


冷静を取り戻したヴィオレはシンザのリングの内部など身の周りのチェックしたが、特に能力を使用している様子はなかった。


「疑り深いねぇ〜」


「ガッハッハ!!当たり前だ!もうワシらはお前の変な能力にかかりたくないからな!!」


そしてチェックは終わり、ここからシーニーとシンザのジェンガ対決、4回戦が始まった。


まずはシーニーの番からである。


「うーんと、じゃあここ!」


いきなり1番下の角のブロックを狙い始めた。


「ちょっ、ちょっとシーニーさん!?そこはまずいんじゃ…!!」


しかしシーニーは絶妙なバランスでブロックを取り上段にブロックを置いた。


「おいおい、お嬢さん。いきなり勝負を終わらせに来たのかよ…」


シンザは苦笑いしつつ、次は自分の番が回ってくることを危惧した。


「やっぱりみんなが面白く感じるには最初っから攻めないとねっ」


今この状況でそのスリルはいらないよ…と思ったロートだったが、むしろ次の相手に大きなプレッシャーを与えられた。


「まぁオレが抜き取るのは下の逆側のブロックで、安定を…!?」


シンザは下のブロックを抜き取ろうとした時手の違和感に気付いた。

手が震えている。

しかし、幾千も勝負を渡り歩いた自分自身がこんなところで緊張している筈がない。

何かおかしい…そう感じたシンザは周りを見渡した。


(…!?、もしやあの女か!?)


そう、シンザの勘の通り、ヴィオレは先ほどのシンザをチェックする際に能力をかけていた。


「コード1089:毒手痺(どくしゅひ)」。

この能力をヴィオレは小声で唱え、シンザに触れていた。

その為、彼の動きにブレを生じさせていた。


しかしシンザにとっては、未確認の情報。

証拠もなく追い詰めたとて、シラを切らされるだけである。


(ク、クソォ…。あいつ…やり返しやがった…)


シンザは震える手を抑えながらもなんとか下のブロックを抜き取った。


「ガァー!ガァー!」


「…ッヒ!?」


「あ!タロー!ダメだよ!静かにしてなきゃ!」


シーニーのペンギンである。

このペンギンによっても自身の集中力が削られていく。

もはやさっきまでの余裕はなくなりシンザは汗を流しながら追い込まれていった。


(…や、やったぜ…)


シンザはブロックを上に置き、タワーは揺れながらもなんとか自身のターンは終えた。

しかし、この状況がまだ続くのかと思うと次第に精神は消耗され始めてきた。


「??あれー?まだ1ターン目だけどすごーい汗だしてるねー?」


シーニーは皮肉ではないような笑顔で問いかけてきた。


「…ッ。はやくやれ…」


シンザは舌打ちをしながらシーニーのターンを急かした。


「じゃあ次はここ!!」


シーニーはまた攻めたところのブロックを抜き取った。

3段目の角ブロックである。

まだ3巡目にも関わらず今にもタワーは倒れそうである。


「お、おい!女ぁ!なんでそんな…!!」


「えー??やっぱりみんなが楽しそうなのがシィは好きだし!」


意味が分からなかった。

大金を賭けた勝負なのにこんなに楽しそうに攻めた勝負をする奴がいるなんて…。

シンザは今にも倒れそうになっていた。


「ぬー!はいっ!次はお兄さんだよっ!」


はたまた絶妙なバランスでブロックは上に重なっていた。

少しの風でタワーは倒れそうである。


ちなみに今この状況を楽しんでいるのはネロとカルコスの元気組だけである。


「おー!!シーニー!!よくやってんな!」


「ガッハッハ!!こいつぁはワシらの勝ちだ!!」


シンザはまだ策を考えていきたい、なのに完全に相手のペースに呑まれている。

シーニーのおかしな雰囲気で考えることができないのだ。


「おにーさん??早くぅ!!」


「…あっ…オ、オレか…」


まさかこんなに早く自分の番が来るなんて、頭を整理する前に自分の番が来るなんて、おかしい、おかしい、おかしい…。


シンザにはもう余裕というよりこのゲームから逃げ出しくなってきていた。

震える手、おかしな女、考える余裕がない…。


シンザは震える手をもう抑えることが出来ない状態で三段目の逆側ブロックを狙おうとした…


「グェー!」


「あ!ジロー!!変なポーズしてる!!アッハッハ!!」


その瞬間シンザの意識は飛んでしまい、タワーに頭をぶち込んでしまった。


タワーは見事に崩れていき、今回の勝負はシーニーに軍配が上がった。


「「…!?や、やったー!!勝ったぞぉー!!」」


男連中は喜んでいた。

特に自分の番が回ることがないと知ったロートが喜んでいた。


シンザはゆっくりとヴィオレに顔を向けた。


「て、てめぇ…何をしやがった…」


「あら?私は何もしていないわ。それよりも彼女の力が異常をきたしたんじゃないの?」


間違いではない。

確かにヴィオレの能力のみだったら、まだなんとかなっていたはずだ。

しかしこのシーニーという少女。

負ける恐れよりも勝負の1発を狙う楽しさを優先。

いきなりおかしな所を攻めるぶっ飛んだ思考。

緊張感を全く感じない彼女に最初から勝てる気がしなかった。


「やったね!みんな!楽しかったー??」


「「おうよ!」」


シーニーは早速一行の雰囲気に馴染み、その間にヴィオレはシンザの持ち金を全て奪っていった。


3億5千。

長い勝負だが、無事ネグロ火山まで向かう為のお金は揃った。


一行はシーニーを率いれ、またブラウ漁港組合へ向かうのであった。

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