第4話

3回戦。

大金を賭けたゲームも中盤を回り、ネロ一行に敗北という文字が近づいてくる。

そんな中、ヴィオレは何かに気付き始め、ゆっくりシンザの対面に座る。


「ようお姉さん、今までの2人とはまた系統違う感じだな」


「あら、あの2人はここまでの前座よ。ここからが本番」


「おい!ヴィオレ!俺らが前座ってなんだ!!」


「ンヌゥ!!そうだ!ワシらだって良い勝負してたんだぞ!!」


正直ヴィオレは2人には期待していなかった。

それよりも2人と勝負している時のシンザの特徴を探っていた。


そう、彼の戦いの中では少しずつ違和感があった。

「最初の中年の男2人」

「2戦目以降のカルコスの様子、そしてシンザの余裕な振る舞い」

「カルコス、ネロの敗北直後の動作」

この3つとまた新たな情報が入る事でヴィオレは確信に近付ける。


「ねぇ、少し提案があるの。いいかしら?」


「?なんだ」


「今回の勝負において、あなたにゲームを提案してもらえないかしら」


「その代わり、次の勝負では私たちにゲームの決定権を持たせてもらう」


「え!お姉さん、シィにゲーム選ばせてくれるの…??」


(この女…、自分の勝負で勝ちは掴まず次に託すってのか)


「まぁいいぜ、その提案呑んだ。じゃあ今回のゲームはオレが選ばせてもらうぜ」


ヴィオレはここで彼が心理戦を持ち込めば、考えていた事が確信に変わる。


「じゃあこれでいこうぜ、家族ゲーム」


そう言ってシンザは8枚のカードを出した。

カードの表面には家族と武器が描かれていた。

家族は父親、母親、息子、娘、つまり家族カード。

武器には、銃、包丁、バット、人形、つまり武器カードである。



家族ゲーム。

ーーーー

4人の仲の良い家族が山奥で住んでいました。

しかし、家族はある日大喧嘩をしました。

その時そこに武器商人がやってきました。

家族の誰かが武器商人から何かを貰います。

殺害道具であれば家族は崩壊してしまいます。

ーーーー


「悪趣味なゲームね」


「ハッハッハ!楽しいゲームだろ?」


ールール説明ーーーー


出し手は武器商人。

武器商人は武器カードを4枚。

受け手は家族の誰か。

家族側は家族カードを4枚。


まず受け手は裏面で家族の1人を場に出す。


その後、出し手が問う。

「あなたは誰ですか?」

「〇〇です」(嘘あり)


「それではこれをあげます」

出し手もその後、武器裏にして出す。


「貰います」

そして互いにカードを表面にする。


「父と銃」「母と包丁」「息子とバット」。

それぞれが一つでも揃ったら武器商人側の勝ち。


「娘と人形」

これが揃ったら家族側の勝ち。


しかし、揃わなかったらお互いにそのカードを捨てていく。

そのまま互いのカードが揃う見込みがなければ役割交代。


揃わない限り終わらない、エンドレスゲームである。


そして、今回も心理戦である。

ーーーーーー


「よし、じゃあお姉さんから武器商人やっていいよ」


「…分かったわ」


そう言ってヴィオレは武器カードを手に取り、考えた。

武器商人が勝てる確率は家族が勝てる確率より高い。

どうやら最初はこちらに分があるなようだ。

考えるうちにシンザは家族カードを場に出していた。


「…あなたは誰ですか」


「父です」


シンザはニヤリと笑った。


「ヴィオレさん…」


ロートは少し心配そうだった。

しかし、そのままヴィオレはゆっくりと武器カードを差し出した。


「それではこれをあげます」


「貰います」


そして2人はカードを表にした。

シンザは母親…。


ヴィオレは、


銃だった。


「おぅーこれはまたドキドキするね!これで負けたらもうゲーム終了だからね!」


「…」


「くそっ!ヴィオレ!あそこでは包丁だったな!」


ネロは惜しそうな顔で無言のヴィオレをフォローした。

そして、次の戦いでは息子と人形が表に出た。


「おっとー!これでこのターンは終了になっちゃったねぇー!」


「!?マジか!?」


カルコスも驚いていたが…

そう。この時点で今回のターンは終了となる。

なぜなら、

ヴィオレの残りカードは包丁とバット。

シンザの残りカードは父と娘。


この後の戦いには組み合わせが存在しない。

つまり勝敗が決まらないのだ。


「じゃあ次はオレが武器商人だな」


ヴィオレは勝てる可能性の高い武器商人が2戦目で終わってしまった。

これにより、次の勝負では勝てる可能性の低い家族側の役割になってしまう。


「ちょっとお姉さんヤバくなってきたんじゃないの…?」


少しシーニーも不安そうだった。


しかし、ヴィオレは確信していた。

このターンでシンザは決めてくる。

ならば、こちらも考えている策を使わねばと。


ヴィオレは家族カードを場に出した。


「あなたは誰ですかぁ?」


シンザは勝ち誇ったような顔で聞いた。


「息子です」


するとネロが叫んだ。


「おい!!ヴィオレ!!負けんなよ!!」


シンザはニヤリと笑った。


「それでは!これをあげます!」


もはやシンザは勝ったかのように武器カードを場に出した。


「…貰います」


観戦者は緊張で目を閉じていた。

しかしヴィオレは目を開けながら笑みを浮かべていた。


シンザの出したカードはバット。


そしてヴィオレが出したカードは、



父親だった。


「よっしゃああ!!ヴィオレ!!よくやったぞ!!」


「ガッハッハ!さすがヴィオレ!!」


「はぁ!?なんだこれ!?どういうことだ!?」


「あら、よっぽど自分の出したカードに自信があったようね」


「…ッ!?」


(この女、もう気付いてやがんのか!?)


シンザはネロとカルコスを確認した。


「おい!!そこのクソガキとデカブツ!!」


「なんだテメェ!!俺に喧嘩売ってんのか!?」


「ワシはデカブツじゃない!カルコスだ!ガッハッハ!!」


が、特におかしい様子はなさそうだ。

こいつらみたいなのが、嘘ついてるんならすぐ分かるはず…。そう思っていた。


そして次の戦いでは息子と包丁だった。

これもヴィオレが家族側として「母親です」と伝えた後、またネロが発言した為、シンザは包丁を出していた。


そしてお互い残りは

ヴィオレ側は母親と娘。

シンザ側は銃と人形。


(なんだ…この女、やっぱり気付いて…)


この時点でシンザの勝ちは無くなった。

しかしヴィオレの勝つ可能性はあるため、ターンは続行。


シンザは序盤の余裕さはなくなり焦っていた。


「おい!!女ぁ!!テメェ気付いて…」


「あらなんの事?」


ヴィオレはもう分かっていた。

彼提案する心理戦のカラクリに。


「…フフ、ハッハッハ!!」


「てめぇがその気ならもうオレもバラしてやるよ!!能力をよ…」


シンザは先ほどの焦りを消し、狂気の顔に変わっていった。


「なんだ!?お前能力者だったのか!?」


「グヌゥ、だがこいつはリングをしていないぞ??」


これ以上隠していてはむしろ利用されてしまう。

ならば自らカラクリを晒し、この妙な流れを止めることにしようとシンザは考えた。


「じゃあ私が説明してあげる。あなたが答えてしまっては残りの2人に支障が出る可能性があるからね」


(ヴィオレさん…やっぱり…)


「彼の能力は確実に精神系の能力だわ、恐らく足首辺りにつけているんじゃないかしら。灰色のリングを…」


「ご名答」


シンザは笑いながら片足の裾を上げ、灰色のリングを見せてきた。


「そして、この能力。今までの事にヒントがあったわ。特にカルコス」


「ヌゥ!?ワシが!?」


「ネロと私のゲーム。どちらも心理戦だった」


「そして、どちらも対戦相手に質問をするのよ」


「でもそれは対戦相手にじゃない。シンザの場合は負かした相手に質問をしていた」


「それがカルコス、後はネロなのよ」


「ナヌゥ!?だがワシは何も変な事はされてないぞ!?」


「そうだ!俺も何もあってない!」


「2人とも、シンザに負けた後すぐに何か感じなかった?」


「「感じてないぞ??」」


どうやら自覚はないらしい。

ただシンザの能力のトリガーは相手を負かせた時に発動するようだ。


「なら、それに気付くのは観戦していた私達ね。ロート。シーニー。」


観戦していた2人は頷いた。


シンザに負かされた相手は何故か敗北直後に大きな反応をする。

しかし、ネロとカルコス。2人は元々リアクションが大きい為分かりにくかった。

そこがシンザの能力にかかった合図である。


「話を戻すわよ」


「シンザの能力。それは相手が無自覚にあなたの命令を聞いてしまう精神能力じゃないかしら」


「カルコスはネロの戦いで4のあるカードの質問では、必ずその位置にあるカードの時発言をしていた」


「ネロは私の戦いで息子、母のカードの質問では、必ず嘘をついていないと思った場合のみ発言をしていた」


「彼らは私たちサイドですもの、背後にいて私たちが出すカードのことは見て知っている」


「だから彼らの意思は無自覚にあなたの命令に従っていた。その能力と分かりづらい合図でね」


シンザは笑っていた。


「すげぇな!ねぇちゃん!ここまで当てられると気持ちが良いもんだよ!」


「…でも、ヴィオレさん。ネロの戦いの時点で気付いていれば教えてくれても良かったんじゃ…」


ロートが疑問をぶつけた。


「ネロの戦いでこのシンザの違和感には気付いたわ」


「だけど、まだ考えが確定的ではなかった。その状態で話してしまうと、むしろシンザにいいように使われていた可能性は高いわ」


「そして私の考えが合っていたと気付いたのが、今回の私の勝負。あえて私はシンザにゲームを選ばせたわ」


「というのも彼の能力は相手を操る精神能力。最大限に活かせるのは心理戦よ」


「彼が心理戦を選び、能力を使用してきた時。やっと確信した」


ヴィオレが今まで取ってきた行動には裏付ける意味があった。

まさに、行動するには二手先を読むである。


「いやぁ名探偵さんよぉ、オレが騙す側なのに逆に騙されちまったんだよなぁ」


「まぁね。あなたの能力には対照の人物の情報でしか知り得ない」


「なら、あなたを騙すのではなく次はカルコスやネロを敢えて騙したの。彼らの見せたカードと私の出すカードを差し替えてね」


上手いことをやられたとシンザは手を叩いた。


「素晴らしい!オレをここまで追いつめたのはアンタが初めてだよ!」


「そうだ、オレの能力はゲームに仕込むことが出来る『インストラクションコマンド』だ」


「こいつの能力はゲームに負けた相手にオレの指示ができるようしてくれる為のいわば土台」


「そして実際にオレが自由に指示を行わせる能力『オペレーション』」


「こいつはオレが言葉を発さなくても文字入力で指示を受けてくるんだ」


シンザは今まで隠してきた自分の能力を全て話した。


「…!じゃあお前がそんな大金を持ってるのも今までの人を騙して…!!」


ネロが怒りを込めて言うと、シンザを大きく笑った。


「そうだなぁ!!さっきの土下座してた人生窮地に立ってますって感じの男も最後はオレが葬ってやったんだよ!」


一行が最初に見た2人の男もシンザの能力で負かされたのだろう。


「ヌゥ!!お前みたいな卑怯なやつがこんなことして良い思いをするなんて!!許せん!!」


シンザはカルコスの言葉を聞いて、気持ちよさそうに発言し始めた。


「おっさん…!そいつぁ間違ってるぜ!この世の中、頭を回したモン勝ちだぜ」


「よく言われる、クソ真面目に生きてる奴や優しい奴が損をする世の中ってのはぁ、当たり前なんだよ」


「そんな奴らは社会の抜け穴を探す努力もしねぇ、ただの甘ちゃんだ」


「巧みな嘘をつき、ずる賢く、人を切り捨てられるクソみてぇ心を持ってる奴だけが成功者になり得るんだよ」


一行はたじろいだ。

シンザという男は自論で生きている。

人という生き物は潰し合う生き物だと考えている。


「んーそうかぁ!」


しかし、シーニーだけがあっけらかんとしながら聞いていた。


「キミは人をドン底に落とすのが面白いんだね!」


「うんうん!色んな人の考えがあるもんね!」


「私はね!面白いって思うのはみんなを笑顔にさせることだよ!」


「人生を面白くするのは自分自身だからね!」


シーニーの発した言葉を少し論点がズレていた。

しかし一瞬でもシンザの気持ちを理解してしまった者は彼女の発言で目を覚ました。


シンザの言っていることは間違いではない。

シーニーの言っていることも間違いではない。

ただどちらの発言が本当の幸せなのか。

その答えを出すのは容易だった。


「さて!オレの能力もバレちまったし、ここからはイカサマ無しの本気勝負と行こうか!!」


シンザは気持ちを切り替えゲームを再開する事にした。



しかし彼はまだ笑って余裕そうだ。

一行が知らないまだ何か秘策でも持っているのだろうか。

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