三章 ローゼオ港
〜ぶっ飛ばすのは車と思考〜
第1話
カエルレウム郊外。
ひと気のない場所に一台赤い乗用車があった。
(全く運転練習には参加できなかったけど、みんなどうなんだろう)
少し集合地に遅れたロートは期待を持ちながら目的地に着いた。
そこにはドヤりながらサングラスをかけたヴィオレ、余裕そうなネロ、車に手を乗せながら風を感じているカルコスがいた。
「あ!みんなごめん!!少し遅れちゃって…」
「ガッハッハ!大丈夫だぞ!ロート!よし!じゃあ出発するか!!」
カルコスは気分良さそうに言った。
「ヴィオレ、1st…頼むぜ」
(!?)
ロートはネロの様子がおかしい事に気付いた。
何やら自分に酔っている。
しかし、ネロだけでない。
この3人から異様な雰囲気が漂っている。
初めてジェットコースターに乗る子どものような怯えた様子でロートはヴィオレ背後の後部座席に座った。
運転席にはヴィオレ、助手席にはカルコス、そしてロート隣のネロが後部座席に座り、ドアを閉めた途端…、
ロートの世界は時速200kmの速度に変わった。
(…あ…これ…たぶん…ちが…)
ここからローゼオ港、舗装された道路などない。
体験したことが無い振動や速度にロートが死にそうな顔をしていると、ネロがヴィオレに向かいこう言った。
「ミュージック オン」
ヴィオレは頷き、車のサウンドボタンを押した。
ロートは知っていた。
この3週間、この都市の文化にはミュージックがあることに。
そして、ごくたまにそのミュージックに頭が支配される人がいる事に。
イントロが始まり、ビートを刻むようにネロが手を叩き始めた。
(…!?)
カルコスも合わせたように手を叩き、何やらリズムに合わせ何か呟いている。
そしてイントロが終わり、歌い出しが始まった。
案の定ヴィオレが歌い始めた。
(ー!?めちゃ音痴!?)
ヴィオレはノリノリで歌い始めながら運転していたが、ロートには聞くに耐えないほど音程を外し、声は裏返り酷いものだった。
だが、周りの2人もノリノリで手拍子を続けている。
(…今が一番の恐怖だ…)
身動きが取れないほどの速度、聞くに耐えないほどの歌。
ロートはブランコ村から出て以降、一番の恐怖を感じていた。
すると、ようやく外を見えるようになった時、ウインドウの目の前には谷が見えていた。
「ちょっ、ヴィオレさん!!?ストップ!!ストッ…!!」
しかし、全く止めようとしないそれどころか速度を上げていく、そして曲のサビが近づいてきた途端、
「「思い過ごせばいい!!」」
\\デ デ デーン//
3人の声がサビ前と重なった瞬間、車は宙に浮いた。
ロートの視界には何故か「ひとつなぎの大秘宝」が見えた。
「しみったれたー⤵︎よるーをー⤴︎」
ヴィオレの音痴な歌と何故かノリノリで手拍子をする2人の男。
もはやどうにでもなれとロートは死んだような顔で3時間過ごした。
3時間経ち、650kmまで進んだ。
ローゼオ港まで後2350km。
ようやくヴィオレの運転からカルコスの運転に交代された。
(…あ、…カルコスさんだ…、見た目怖いけど…ホントは優しいから…きっと運転も…)
ヴィオレが後部座席のドアを閉めた途端、また世界は時速200kmの世界になった。
どうやら彼らの運転の普通は時速200kmのようだ。
(…もう諦めよ)
ロートが諦めた時には次にヴィオレがミュージック オンなどと言った。
\\ドン//
全くさっきと同じイントロが流れ、また同じことをやるのかとロートは死にながら思った。
「ありったけの〜夢を〜♪」
(まさかのカルコスさん、美声!?)
先ほどの歌とは違い、透き通った高音の美声が耳に流れ始めた。
これがロートの中で唯一の癒しであった。
ヴィオレがそこ半音ズレてるわねとかぶつぶつ言ってたがもはや気にならなかった。
そんな癒しの時間を感じ5時間。
休憩地点から1300km進み、ローゼオ港まで残り1050km。
最後にネロが運転を担当する事になった。
「ようやく俺だ!!待ちくたびれたぜ!!」
ロートはもはや期待していない。
みんな時速200kmなんだろと思い、次の後部座席のカルコスがドアを閉めた途端、
ロートの世界は時速400kmになった。
「ヒャッハー!!お前ら遅すぎてかなり退屈だったぜ!!」
もはや風の音とエンジン音で何を言っているか聞こえなかった。
そしてこの車は一体何ccあるのかと疑問が速度で置いてかれた。
いつも通り彼ら3人はクラブにいるようノリノリだったが、もうロートは何も感じなくなっていた。
2.5時間、ローゼオ港まで3000kmが1日足らずで着いてしまった。
ロートは車に出た途端、今までないような量を吐いていた。
そして決意した。
(こいつらにもう運転はさせない)
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