第5話

廃工場を後にした2人は、カルコスを残した場所へ戻った。

カルコスの腕の先はネロの肩にかかっていた。

どうやらカルコスはしっかりタブレットを使いこなし、ネロを見つけたようだ。


「ガッハッハ!!どうやらヴィオレもロートを助けられたようだな!!」


「みんな…すまねぇ…」


案外ネロはしょんぼりした様子で反省していたようだ。


「本当よ、昨日あんなにカッコつけておいてこの様じゃ…」


ヴィオレが少し説教してやろうと思った先、ロートが泣きながらネロに向かって走っていった。


「ネローッッ!!馬鹿!!なんで1人でどっか行くんだよ!!」


「わりぃ…本当ごめん…」


ロートがネロの服にしがみつきながら説教していたため、ヴィオレはもう説教する必要はなくなったと思った。


「そういえば、カルコス。よくこのタブレットの使い方分かったわね」


「ガッハッハ!!この街の色んな奴に使い方聞こうと思ったんだがな!何故かみんな聞く前に逃げちまってな!!」


「だけどやっと派手な年寄りが教えてくれてな!!この街にも良い奴はいるんだな!!」


カルコスのガタイや顔で恐れる者もいた中、どうやら親切な人に教えてもらいネロを探し当てたようだ。


「さてと、みんな!無駄な時間を過ごしちゃったから、ここからは拠点に戻って作戦会議を始めるわよ!」


事が一件落着し、夕日が沈みかけたところでヴィオレは一行をまとめ、拠点の宿舎に戻る事にした。


宿舎のロビーに着き、ヴィオレの資料を中心に作戦会議を始めた。


「改めて説明するわね、私たちが行おうとしている事は裏オール社の企みを止めること」


「つまり、その組織の強い奴らをぶっ飛ばせば良いって事だよな」


ネロも一件で少し反省したのか冷静に話に参加していた。


「そうね、だけど恐らくこの極秘の計画はとても強い勢力が集まってるはずだわ。そうきっとアルコバレーノの部隊より強いと予測できる」


「アルコバレーノって確か、あの緑色のリングを付けた女の子の…?」


ロートは昨日の件を思い出し、口にした。


「アルコバレーノは裏オール社の存在を知らないはずだわ、知っていたならあの時私を全力で潰しにかかるはず」


「アル…なんとかってのはワシらの敵ではないってことだな!!」


「いや、そういう訳でもないわ。現に私は政府とオール社両方に追われている状態。時には彼らと戦う場合もある」


「ムゥ…、周り全員敵だらけか…」


ヴィオレはアルコバレーノについて語り始めた。


「アルコバレーノはオール社から輩出された5人部隊って言うのは話したわよね?彼らは赤、黄、緑、青、桃の色の付くリングの所有者」


「それらの色は一般の人が付けている銀色のリングと比べ、異能力を発することができる」


ネロはこの街に来て最初に入った店の人たちを思い出した。


「銀色のリングは一般人が付けられるリングってことか!」


「そうよ。便利な多機能ウェアラブルとしてだけ。そしてこれが人の思考や感情を奪うツールよ」


そう言って、ヴィオレはアルコバレーノ部隊について話を続けた。


「彼らはこの街での貢献度ポイントや単純な能力の技術力、身体能力で順位を付けながら競争している」


「まずNo.5の桃色リング所有者のローズ。彼は人の恋愛感情を操れる、恋のメンタル能力者」


「No.4の青色リング所有者のアズラク。彼は水を変幻自在に操れる、水の能力者。私の母校アイティオピコン大学2年の若年エリート生ね。」


「No.3は私たちも実際に会った緑色リング所有者のヴェルデよ。彼女は風の能力者。彼女も通称ピコン大2年生の若手よ。」


「これ以上に関しては、ずば抜けた評価を受けてる者よ」


「No.2は黄色リング所有者のフラーウム。彼は光と電気どちらも操れる新旧合わせたリングの持ち主」


「No.1は赤色リング所有者のホン。彼は炎を操る能力を持つの。それだけでなく、彼は貢献度、能力技術、身体能力、そして統率力が飛び抜けて高い。彼に目を付けられたら間違いなく私たちは全滅よ」


「…その部隊、全員能力者かよ!…って赤色のリングはロートが既にしてるじゃねーか!」


ネロはロートの腕を持ち上げリングを見せてきた。


「同じ色のリングと言っても、さっき話した新型、旧型があるのよ。ロートがしているのは旧型のはずよ」


「え?でもどうして分かったの?」


「まずルージュさんがしていたって言うこと、後…あなたが能力発動する時『コード0547』って言ったわよね?」


「う、うん…」


「コードの上二桁はリングの色を示す数字、下二桁は技を示す数字になってるの」


「その中でも下二桁、1〜49は旧型、51〜99は新型と割り振られているの。そのため、あなたの47という数字は旧型に当てはまる」


「そうなんだ…、てっきり99まで技があるのかと思った…。ん?でも50が抜けてるよね…?」


ロートがリングのコードについて疑問を投げかけた。


「それが黄色リングのフラーウムのように新旧どちらも所有している者だけが出せるコード」


「つまり1番強いコードかしら」


1番強いコード、つまり最終奥義とでもいうのだろうか。

今まで過ごしてきた世界とは全く別世界の話に村出身の一同は架空の話をしているように感じた。


「なんだかまた難しい話になってきたから、話を戻そうぜ。俺らが倒すべき奴の話をさ」


ネロは今自分たちがしなければいけない話に戻した。


「そうね。私たちが裏オール社の足を折る為に、まず1番潰せる可能性が高い「ガルセク」から攻めましょう」


「ンヌ!!こいつは今まで話した能力みたいなのは使わず拳と拳で戦うんだったな!」


「情報は確定としてないから油断はしないで。彼の拠点はネグロ火山。ここからローゼオ港に向かい、船を借りて向かうっていう移動手段ね」


「そこって大体どれくらい距離があるの…?」


「およそ10000kmかしら」


村出身の彼らは一同転げ落ちた。

というのも彼らは一度徒歩で5000kmを渡った人間だ。あの地獄を二倍経験しないといけないと思うと転げ落ちるしかないのだ。


「そ、それだと一年なんてあっという間に過ぎちゃうよ…」



今更であり無粋ではあるが、ここでこの物語の舞台を説明する。

この物語は8000年前の地球。つまり大陸は既に現在と変化ないのだ。

彼らのいる大都市カエルレウムは現代では北アメリカ大陸に位置している。

ネロ達の故郷は南アメリカ大陸、そして彼らがこれから向かうネグロ火山はアジア大陸である。



「…あなた達はこの都市の技術はまだ分からないわよね」


「確かに徒歩や心許ない船で行ったとしたらそれだけで一年近くはかかると思うわ」


「だけど、私たちの都市で使う乗り物ならその距離なら1時間あれば着けるわ」


「「なんだ…それ…」」


一同は目を光らせながら、これから聞く未来の移動手段に興味津々だった。


「期待させてごめん。その乗り物は公共交通機関だから追放中の私が乗ったらすぐ位置がバレる。だから私たち4人がそれで行くことできないの」


一同は目の光を失った。


「でも安心して。古い技術とは言え、まだ優れた乗り物はあるの。それが車よ」


「「?」」


「この宿のお婆ちゃんがまだ地下に保管してくれててね…。それを使ってまず3000km離れたローゼオ港に向かうのよ」


車。まぁ説明もいらないくらい普通の乗用車である。

とりあえず村出身には車について資料を出しつつ、説明をし終えた。


「…なんとなく原理は分かったけど…、これは誰が運転するの?」


「ワ、ワシは無理だぞ!?あの小さな機械も使えなかったのにこんな大きな機械なんぞ操れない!!」


「…知ってるわよ。私が運転できるようにしといておくわよ」


ヴィオレは最初から諦めた様子で返答した。


「なぁ、ヴィオレ。俺にもその運転ってやつ教えてくれよ」


意外にもネロが積極的に冒険に協力し始めた。


「…あなた、この短時間で変わったのね」


「茶化すなよ!俺はただお前だけに負担をかけたくないだけだ!」


ヴィオレは夜のネロの発言を思い出した。

『これからはお前が背負ってるモン、俺らも一緒に抱えてやるからな』

その通りに行動するんだなと少し感心した。


「ウオオオ!!なんだネロ!?お前がそんな積極的になるとワシが逃げてるみたいじゃないか!!…ワシもやる!やってやるぞ!!」


続けてカルコスも協力し始めた。


「…ボ、ボクも力になりたい!!」


ネロの発言で皆に積極性が連鎖した。

これは一種の士気なのか、もしかしたらネロはリーダーに向いているのかもしれない、とヴィオレは感じ始めた…が、


「ロート、あなたは小さすぎてアクセルに足が届かないから無理よ」


ロートは仲間外れを感じたのが隅でいじけた。

何がともあれ仲間が絆が深まったのだ。


ここから3週間、彼らはカエルレウム郊外にて運転練習。

そして村出身者は都市の文化を勉強しながら過ごしていった。


目指すはネグロ火山。一行はそこに到着する為、まずはローゼオ港に向かう日がやってきた。

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