第4話

ーーーーオール社の研究部。

ここでは研究員同士は協力をせず、自分のやるべきを淡々とこなしていた。

そんな沈黙が流れる研究部に1人元気な女の子が入社してきた。


「にゃ!ヴィオレせんぱーい!アタシもここに配属されるよう頑張ってきました!」


ヴィオレは最初は他人のフリをしていたが、あまりにしつこいメランに負け、社内では2人で過ごす時間が増えてきた。


メランが来たことにより、ヴィオレは、研究部は人々と交流を取るようになり、研究が進むようになった。


ヴィオレはそんな陰ながらに感謝していた。

先輩と後輩の関係や社内の人間関係の重要さに気付いたのだから。


そんな2人が今、ひと気のない廃工場で命を賭けた殺し合いを行おうとしている。


「…分かった。あなたがその気ならできる限り苦しまない様に殺ってあげる…」


ヴィオレは覚悟した顔をしていた。

一方まだメランは少し恐怖を感じた顔をしている。


『コード1068:毒雨(どくさめ)』


ヴィオレが手を上に半円を描くと、小さな雲が現れそこには毒々しい色をした雨が降ってきはじめた。

徐々に雲は大きくなっていき、ロートやメランにも雨が当たるようになってきた。


「へぇ…、やっぱり毒ですか…って、先輩!?この子にもこの毒の雨が当たっちゃいますけど!?」


「あら?私は常に行動するには二手先を読むのよ」


ヴィオレの手には既にロートに飲ませた抗毒素薬を持っていた。


「にゃ…抗毒素薬ですかね…、さすが先輩。抜け目ないですね…」


「じゃあアタシもこのリングの力、見せます!『コード0257:吸引手跡(きゅういんしゅせき)』」


するとメランの手は黒く染まった。

その手を近くの鉄パイプに付けた。


「ここから先輩の攻撃を全て吸い込んでやります!!」


メランが手を離すとそこには黒い手の跡。

その跡から空気がどんどん流れ込み、次第に強力な吸い込みに変わり、雲を全て吸い込んでしまった。

その後、跡は消え、また場が元通りになった。


「…あなたの能力は吸引の力ね。だけどあの小さな跡じゃ私を吸い込む事も出来ない。他に私を殺す策はあるのかしら」


「…にゃ!?あ、あー!アタシはまだ、まだ色んな策がありますからねー!」


(どうやら設計部にはあのコードしか教えてもらってないようね)


リングのコード、これを知っているのはごく一部。

リング構造を設計する設計部の上席。または役員クラスの人間しか知らない。

そのため、リング所有者でもコードを知らない者はいくらかいるのだ。


「…せ、先輩だって、そのコードしか知らないんじゃ…」


メランは墓穴を掘りつつ、ヴィオレに問いた。

するとヴィオレは「新世代 紫オールリング設計書」という名のファイルを見せてきた。


「ごめんなさい。私は設計部にも人脈があるの」


「…オール社はまだ腐ってない。私の話に耳を傾け、私を協力してくれる者もいる。その人達の責任も全て私が背負って…、この大企業を末端の一社員が変えてみせる!!」


ヴィオレはより力の入った声でメランに伝えた。

この悲しい争いを終わらせるために。


「う…、で、でも!!先輩にはそんな大層な事はできないです!!戻ってまたいつも通りの生活に…」


「いつも通りの生活ね…。」


「私も何知らないフリをして、そのまま彼らの言う通りに生きていれば今頃、居心地の良い生活にいたかもしれないわ」


「でもね」


「居心地の良い場所に人の成長はないのよ」


するとヴィオレは腕を振り上げた。


『コード1074:纏体気毒(てんたいきどく)』


次にヴィオレの背後からオーラの様な気体がふわふわと湧いてきた。

ヴィオレはコツコツとメランに近付いていく。


先ほどとは違い、ヴィオレ自身を纏った毒ガス。

吸引の力だけではヴィオレを吸い込めないため、近付かれたら負けだと察した。


メランはヴィオレが近付いてくると、近くにいるロートを人質として距離を取った。


「…せ、先輩!!これ以上近付くと…この子を…」


「あら、優しいあなたが人質で脅すなんてね」


ヴィオレは立ち止まったが、余裕そうな顔を浮かべている。

先ほどからロートがぶつぶつ言っているのに気付いたためだ。


(コード0543:サーモス…、違う。コード0544:サーモス…、これもだ)


「アタシだって…!やる時はやりますよ!!先輩はいっつもアタシを甘く見てる…!!今回は本気なんです…!!」


「へぇ、私を本当に殺すんだ…?」


ヴィオレの挑発に乗って、様子を確認していないメランをよそにロートがとうとう力を発揮した。


『コード0547:サーモス』


ロートの手は超高温になり、縛られていた紐は燃えて、体が自由になった。

ロートを抱えていたメランも熱さに耐えきれず離してしまった。


ロートはヴィオレの元へ急いで背後に隠れた。


「くぅ…この子も…能力を持っていたの…」


「でもこの温度の力…、ルージュさんの…?」


「あまり深く考えない方がいいわ、多分外れてるから」


ヴィオレはメランが答えを出す前に止めた。


「せ、先輩!その子、大英雄ルージュさんを殺して…!!そんな子となんで…!!」


「ち、違う!!ボクは殺してないよ!!」


ロートは弁解しようと力強く言った。


「ふふ…そっかぁ…。先輩はやっぱりこの都市の…、いや、この世界を恨んでるんだぁ…。あの20年前のカエルレウムで起きた事件」


「先輩のご両親が亡くなった事件。誰も止められなかった大量殺人鬼を放っておいてるこの世界を…」


ヴィオレがその話を聞いた途端、顔が鬼の様な形相に変わった。


「あなた、その話を出すって事は覚悟してるの…?」


ロートは怖くなり耳を塞いだ。


「先輩、アタシもう覚悟を決めました。先輩とそのルージュを殺した子を…アタシは殺します!この世界の人々を守るために!!」


『コード0257:吸引手跡(きゅういんしゅせき)』!!


メランは技を繰り出し、鉄パイプにいくつも手の跡をつけた。

すると吸引力は増していき、外れた鉄パイプがいくつもヴィオレとロートの背後が飛んできた。


「伏せてっ!!」


ヴィオレはロートを床に押さえつけ、なんとか飛んできた鉄パイプを避けた。


しかし、いくつも鉄パイプが飛んでいく状態で立ち上がれない。

するとヴィオレはロートに耳元で囁いた。


「先輩!!もうアタシに近づけないですし、何もできないですよね!!もう全部諦めてください!!」


興奮した状態でメランは叫んだ。

すると、また吸引力は弱まり先ほどの手の跡は消えていった。


「まだまだいきますよ!!『コード0257:吸引手跡(きゅういんしゅせき)』!!」


メランの手はまた黒く染まり、次は伏せても避けられないよう、しゃがみ込み奥の下の位置にある鉄パイプを触ろうした瞬間…


「あつっ!?」


鉄パイプは高温の熱を発して、思わず手を離してしまった。

メランがヴィオレとロートに目を向けるとロートの手は鉄パイプに触れていた。


「ふふ…、鉄は熱の伝導が高い。あなたはもう全ての鉄パイプに触れられないわ」


ロートが発する高温はこの廃工場の鉄パイプの一部に発していたが、パイプは繋がっている。

メランの周りはその繋がれた鉄パイプで高温を発していた。


「…先輩、やるじゃないですか…なら次はアタシは…「危ないっ!!」


メランが立ち上がろうとした瞬間、頭上の高温パイプに気が付かず思い切り頭を打った。

そのままメランは気絶し倒れてしまった。


「…本当バカね」


「…う、うん。でもとても優しい人だったよ」


ヴィオレとロートはメランの前に立ち、この戦いが終わった事にホッとした。

ヴィオレは気絶したメランのポケットに一つの紙を入れた。


「…?ヴィオレさん何してるの?」


「こんな後輩だけど、私の大事な人でもあるわ。彼女の生き残れる方法を渡したわ」


そして2人はメランを置いて、廃工場を後にした。

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