第3話
「bubbles bar」そんな名前の店に入ると、男達は驚いた。
外は鏡面だったはずの建物は中ではこの都市を一望できる窓になっていた。
だけでなく、この高い建物の全体が一室になっており、その空中にはいくつものシャボン玉のような鏡面の球が浮いていた。
「な、なんかこの街ヤバいな…、変なものがありすぎる…」
苦笑いを浮かべたネロをよそに女は地に設置されたモニターをいじると一つの球がゆっくりと地に降りてきた。
「ここに入るわよ」
女は球の扉を開け、中に入っていった。
それに続きネロ達も入っていき扉を閉めた。
すると、彼らを中に入れた球は宙に浮いた。
「うわぁ凄い景色…」
もちろん球の中は外が見える構造になっており、そこからでも都市は一望できた。
球の中には座敷になっており、地についたままテーブルとモニターが置いてあった。
女がモニターで適当に注文した後、本題に取り掛かった。
「さて、まず遅れたけど自己紹介をします」
「私の名前はヴィオレ、そこの小さな子と同じ様に色付きのリングをしているわ。紫だけど。」
ヴィオレは紫色のリングを彼らに見せて、次はあなた達と手を向けた。
「俺はネロ。で、こいつはロート。俺らはブランコ村ってところからここまで来た」
「ワシの名はカルコスだ。ワシはエリュトロン砂漠ってところの名もない村からだ」
ヴィオレの落ち着いた雰囲気にネロやカルコスもかしこまって自己紹介した。
「へぇ、エリュトロン砂漠ってあんな遠い所から来たのね。ブランコ村…、って所は一回も聞いたことがないけど…」
「あぁー、確かにルージュっておっさんも見た事がない村って言ってたっけな」
ルージュという名前を聞いた瞬間、ヴィオレは眉をしかめた。
「ルージュさんはブランコ村で亡くなったの?」
「…まぁな。白いリングを付けた女に殺された」
「白いリング…?」
ヴィオレは少し考えたが話を続けた。
「ロートくん、悪いけどリングの情報を見せてくれるかしら」
ロートは頷き、リングから出すホログラム画面を皆に見せるようにした。
色々なアイコンの中を確認させたが、メールの箇所にしか情報は残っていなかった。
「うん、このメールは明らかな証拠になる。あなた達、よくここまで来たわ」
ヴィオレの温かな言葉に少し気持ちが和らいだが、一つ疑問が生じた。
「思ったんだけど、ルージュさんが送ったメールがなんでボクのところに届いたの…?ルージュさんは亡くなってるはずなのに…」
「あぁ…それについてはラグよ」
ラグ。つまり、ルージュがメールを送った先はすぐにロートのところに来るわけではない一度都市にあるサーバーに送られるのだ。
その間にロートがリングを身に付け、瞬時にロートのアドレスが作成されメールが届いたという理論だ。
「ルージュさんが亡くなった後、すぐにロートくんは赤色のリングを付けたはずでしょ?」
「赤色のリングは固有のアドレスを持ち、所有者の名前がその先頭に置かれるの。その所有者が変われば変化するアドレス内容は名前の箇所のみ、それを考えてあの人は2人宛に送ったはずよ」
「???意味わかんねーけど、そういうことなんだな!」
ネロは全く分かっていなかったが、ロートがメール内容を改めて確認すると宛先が自分だけでなくネロも含まれていた。
どうやらヴィオレの考察は当たっていると確信した。
「ところで、ネーさんよ!そろそろワシらにもネーさんの正体を見せてほしいぞ!」
「あら、ごめんなさい。そうね…」
そう言って、ヴィオレは身に付けていたサングラスとマスクを外した。
切長な目、整った鼻や口、そして白く綺麗な肌。
彼らが想像している以上に美しく若い女性だった。
「ウホ…、なんじゃこんな綺麗なオネーさんだったのか。ワシの妻とは比較ならんぞ…」
「う、うん…ボクも今まで見た誰よりも綺麗だと思う…」
カルコスとロートが顔を火照らすほど称賛している中、ネロだけは普通の顔をしていた。
「そ、そんなストレートに褒められると…ふふ…」
ヴィオレも満更ではなさそうに顔を隠し照れていた。
「おい!ところで俺らを呼んだ理由!!」
ネロが本題に戻ろうと口を出したが、空気読めよと周りからの目が痛かった。
ヴィオレはひとまず本題として口にしたのは、
「あなた達にこの世界に住む人たちを救ってほしい」
だった。
順序を企てて説明しようとすると、注文していたサプリが届いた。
しかし、まだ誰も手を付けずヴィオレは話を続けた。
「あなた達に私が指を指す方へ見てもらいたいの」
男達はヴィオレの指す方向へ目にすると、そこには一際目立つビルがいくつも集中して建っている場所があった。
「あそこの敷地、全部オール社って企業。私はそこの元研究員」
オール社と言うと、前の店で聞いたことあるなと男達は思った。
「オール社は様々な効率的な機械を作っているけど、最も代表的なのは私たちがしているこのリング「Or ring」よ」
「Or ring」読み方はオールリングでそのままだが、通称としてリングと呼んでいる。
「このリングの機能についてはもうルージュさんから聞いてると思うけど、最も重要な事はこのリングは機械じゃなくて生物ってことよ」
今までただの機械と思っていたが、生物と聞くと何か恐ろしさを感じた。
「このリングは人間の血を媒体として生きている。でも、人間が死ねば血の流れは止まるでしょ?だからリングはまた次の媒体を探すために外れる」
思い返してみれば、ルージュが亡くなった途端にリングは外れた。しかし、生きている間は取れない。その理屈は合っていた。
「だからいわゆる寄生虫ね、私たちの体がこんなに便利になっているのもこのリングがその代償として私たちを蝕んでいるから」
「そして、このリングをしているが故に恐ろしい事を考える連中がいたの。それがオール社の一部の人間。裏のオール社よ」
オール社には優秀な人材が多くいる、そのために技術の進歩が早く様々な文化を生んでいる。
しかし、それだけではなくそれを悪巧みに使おうとする人間も一定数いたのだ。
「裏オール社の人間はこのリングを付けている人の思考や感情を奪い、自分たちの私利私欲のため操ろうと考えている。そしてその計画はもう既に佳境まできているわ…」
「っ!?佳境まできているならもう遅いんじゃ…」
ロートがそう口を挟むと、ヴィオレは首を横に振った。
「後1年半、操る機能や機械はもうすぐで完成のはずだけど人体実験から本実験に移行するまでそれくらいはかかるはずよ」
「だから私たちは1年間でこの計画の首謀者や加担している者たちを止める必要があるわ」
「ンヌゥ、ちょっと待て!!なんでそんな小難しい話にワシらを加えたのだ!?」
次にカルコスが口を挟むと、ヴィオレはニヤリと口を開けた。
「この計画を止めるにはもう言葉じゃ止められない、力で止める必要があるの。そのため私は「or ring bar」であなた達を見た時仲間を加えたかった」
「そのまま強行突破でオール社を止めようとすると強力な警備隊が来るわ、だから1人ずつ警備隊を潰していってあちらの戦力が弱ってきた時に本城に攻め込むの!」
徐々にヴィオレが熱くなってきたが、ネロだけもう眠そうだった。
「ここから表オール社と裏オール社の簡単な違いを説明するわね」
そう言って、リングのホログラムを表示して図を見せてきた。
「表オール社は先ほどの洗脳計画は知らない。ただ普通にこの社会をより良いものにしてる為に働いているの。ただここにも治安を良くするのとオール社の評判を良くするための警備隊が存在するの。これがアルコバレーノという5人組の特殊部隊よ。」
「あーもう!話なげーよ!もっと簡単に話してくれよ!」
ネロが我慢できなかったのか、そう口を荒げた。
ヴィオレは不満そうな顔を浮かべ、適当な口調になった。
「あー、じゃあ裏オール社は強い警備隊がいるからこいつら倒してねって話よ」
「よし!つまりはそいつらを倒せばいいんだな!ってなるか!!」
ネロがノリツッコミをした。
その後立ち上がり、力強くヴィオレ向けて言った。
「なんか色々わけわからんこと話してたけど、俺らは関係ないだろ!命をかけてやる必要があるか!!」
ヴィオレがふーんと言い、得意げに話した。
「あなたはいいかもしれないけど、あなたの仲間はどうなる?ロートくん、彼はリングをしてるから彼の思考や感情はなくなって操り人形になっちゃうけど…?」
ロートは青ざめた顔をしてネロを見つめた。
ネロはもう言い返せないと悔しそうに座り始めた。
「私はね、この情報はすごく評価してもらった上司に秘密の会議があるからって誘われて聞いたの。その会議にいる連中は私を仲間に入れようとニヤニヤした顔で見ていたわ」
「私も会議ではちゃんと聞いているフリをしていたけど、その晩考えたわ。これを口外してしまったら、私が逃げたら周りの人たちはどうなるか。でも、結局私の中の正義が勝ってこの選択をした。後悔はないわ」
ヴィオレもこの選択において、様々な犠牲を既に生んでいるが、この後もっと辛いことが起きようが決意を揺らいでいなかった。
「この世の中の人たちは腐ってるかもしれないわ。でも少しでも世の為人の為と思って生きている人がいる。そういう人たちに私は支えられて生きていた。だからこの世界を救いたい。お願いします!私に協力してください!」
そう言ってヴィオレは土下座をした。
するとカルコスが手を差し伸べた。
「ワシは頭は良くないが、人間って生き物は助け合って生きとることは分かっとる!ワシはお前さんに協力するよ」
そう言ってカルコスは微笑んだ。
次にロートが手を差し伸べた。
「ボ、ボクが操られるってのも怖いけど…、ヴィオレさんの話にすごく共感できたよ。ボクは全然戦えないけど…頑張る!」
ロートも恐る恐るだがヴィオレに近付いた。
手を差し伸べた2人がネロに目線を向けた。
「あぁ!!しょうがねぇ!!この街にいる奴らはクソやろーばっかりだけど、良いやつもいるってのは分かる!!だけど、それだけじゃねぇ!ロートを救うためだ!!」
ネロは仕方なさそうに、だが力強くヴィオレに手を差し伸べた。
ヴィオレが顔を上げると3人は手を重ねていた。
そこにヴィオレが手を1番上に乗せた。
「ありがとう…!」
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