03 柄物靴下
アスファルトの床。舗装された歩道。
動こうとして。
暖かいものを感じる。
「おじさんっ。動いちゃだめっ」
足。
誰の足だろうか。
視界を広げる。
倒れている偽警察官。なんとか、倒すことはできた。
「ふう」
身体を起こす。
「だめっ。だめだってばっ」
女子高生。
得体の知れない生き物だ。
自分も。
得体の知れないまま、死んでいく。
「傷は、どこかな」
「動かないで。おねがいだから。動かないでよ」
女子高生。
素足。靴も脱いでいる。
「どうして」
両手に持った靴下。それで、私の股間をまさぐっている。
「おい」
そういうことは。
「動かないでよ。血が。血が出ちゃう」
銃創。自分のふとももにあった。
「そうか。死ぬのか」
「何言ってんのよ」
女子高生。
柄物の靴下を、銃創の上、自分の脚の付け根に巻き付けて。
きつく縛る。
「これで止血するから。高校の救命講習でやったんだ」
「いい。やめろ。血が付くぞ」
「うるさいっ」
股間のまわりで、せわしなく動く女子高生。
「いい人だな」
「なにがっ」
ひっしに、柄物靴下で縛って止血しようとしている。
「女子高生ってのは、もっと、狂暴で凶悪な生き物だと思ってた」
「喋らないで。そんなどうでもいい言葉が、最期の言葉になるわよ」
「いや。それでいいんだ。俺の人生は」
そう。
俺の人生は、何者でもない。
どうでもいい街の掃除屋が、どうでもよく、死んでいく。
「夕陽が綺麗だなあ」
「ちょっと。おじさん。なにばかなこと言ってんの。まだ昼よ。ちょっと。死んじゃだめ。死んじゃだめだってば」
「いい気分だ。女子高生に介抱してもらって」
「ふ、ふざっ、ふざっけんなよ。おじさん。何言ってんだ」
女子高生。血と汗にまみれている。
そんなに、無理しなくていい。
ドラマや漫画とは違うんだ。
ふとももにはな、重要な血管や神経がたくさんあって。
撃たれたら、ほとんど、だめなんだ。
あれ。
喋れてないのかな。
眠くなってきた。
女子高生。何か、喋っている。
ごめんな。血で、よごれちまった。かんべんしてくれよ。
そうだ。十円玉。ありがとう。たすかったよ。
お礼をしなくちゃな。
なあ。
聞こえてるか。
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