第5話束の間の安息
自動車部部長との決闘の直後、残念異世界アシハラに行って帰って来た俺達は、当然の事とはいえ理事長の呼び出しを食らい、事情説明をする羽目に陥った。
だいたいお分かりだと思うが、これは事情説明という名目で行われる、実質的な叱責である。当然だろう、衆人環視の中生徒が忽然と、謎の失踪をしてしまったのだから。それもその生徒というのが、学園名物の
今回の球技大会、俺が参加しているのはサッカーで、ポジションはゴールキーパーだ。
鋭く蹴り込まれたシュートに反応してボールをキャッチして、俺はピッチを見回した。そしてボールをピッチに蹴り入れる。
「行くぞ!」
「おーう! 任しとけ!」
俺が蹴ったボールは、巴弁慶(ともえべんけい)へと飛んで行った。彼は柔道部に所属する、無差別級のホープなのだ。その安定した足腰と無尽蔵のスタミナを買われ、球技大会でのポジションはリベロを任されている。その期待に違わず、彼は数名の相手チームのプレイヤーをなぎ倒す勢いでドリブルで上がって行くと、雄叫びを上げて中段にパスを上げた。
「うおおおおお! 颯斗ォ~!!」
パスを受け取ったのはアメフト部の司令塔、クォーターバックの人颯斗(じんはやと)である。こいつは足の速さと視界の広さ、そして戦術眼の鋭さから攻撃的ミッドフィールダーを務めていた。
「人! アメフトと間違えて、手で受けるなよ!!」
「フッ、俺がそんな事するかよ」
弁慶の冗談めかした軽口に、颯斗はクールな笑みを浮かべて応じると、胸でワントラップしてボールを落とし、鮮やかなドリブルでピッチを駆けて、相手クラスのディフェンダーを引き付けた。
「行くぞ! 涼馬(りょうま)!!」
颯斗がパスを出した先には、マークが外れてフリーになった野球部所属の永礼涼馬(ながれりょうま)がいた。こいつは入学当初からエースで四番を務めるスラッガーで、抜群の勝負強さを買われてセンターフォワードを任されている。
「ナイスパス!」
涼馬はパスされたボールを、ノールックでボレーシュートを放つ。すると相手クラスのキーパーは一歩も動けず、ボールは鋭くゴールを揺らした。
「うぉおおおお! やったぜ! 涼馬!!」
弁慶が喜びの咆哮を上げて涼馬に駆け寄り、肩車に担ぎ上げてゴールを称える。
「いや、颯斗のパスのおかげさ」
「フッ、よせやい、照れるじゃねえか」
弁慶に肩の上から下ろされた涼馬が、爽やかな笑顔でそう言って右手を差し出す、すると颯斗はニヒルな笑みを浮かべ、涼馬の右手を握った。
握手をする涼馬と颯斗、そして二人の肩に手を添える弁慶、なんて爽やかな光景だろう。青春だなぁ、俺が求めていた学園生活がそこに有る。
「でもよ、この涼馬のゴールの殊勲者は、もう一人居るのを忘れちゃいねえか?」
「ああ、あのファインセーブが無かったら」
「このゴールは無かったな」
弁慶の言葉に、涼馬と颯斗が頷き、三人が俺にサムズアップを送ってきた。
思い起こせば、この三人が俺の最初の決闘の相手である。原因はあの四人娘に振り回されている事を知らず、邪険に扱っている様に見えた俺に対する義憤からくる物だった。決闘前の四人娘パフォーマンスに、全てを理解してくれたこの三人は、決闘後に無理解を謝罪してくれて、今では善きクラスメート、善き友人である。
三人の爽やかな笑顔の口元から覗く白い歯が、キラリと眩しく輝いている。これだよ、これこそが、俺の求めて止まない学園生活、青春の一ページなんだ。決して暴走四人娘に振り回される事ではない!
そう、俺が心の中で感涙に咽び泣いているちょうどその頃、肩を怒らせ、生徒会室に向かってズンズンと歩いていく女の子がいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます