大人になると勢いには酒が必要だ
こ洒落たバーというのはこういうものなんだろう。
ジャズっぽい音楽が流れている。
シンバルの、なんかわからないけどサスペンドというんだっけ。
キンキンといったら金切り音すぎるし、
ドシドシと言ったら低温すぎる、ずーちゃっか、ずーちゃっか、といった
ジャズによくある音が聞こえてくる
すすきので飲んだいたころに二次会でよく聞いた音がする。
いや、嘘だ。すすきのにいたころにこんな音楽は聴いていない。
一次会で聴いていたのはラジオから聞こえる、
いかにもラジオらしい昭和歌謡。時代を感じる宣伝と番組。
そして二次会以降で聞こえてくるのは全然おしゃれでもないアップテンポの曲だ。
曲名なんか教えてももらえないし、よっぱらっているからわからない。
ただ覚えているのは客を盛り上げるためのよくわからない曲と、
数十分に一度の光が消えるタイミングだ。
あの頃は、東京で女の子との飲むなんて考えられなかったなあ、正直。
「それで?」
凛がはなった言葉に、現実から戻された。
「ん?」
俺が出せる限界の言葉。
疑問文で5W1Hのような構文を使える奴はすごい。
話を聞いていなかった際にそんな構文を利用したら、
まるで自分は話を聞いていませんでしたとアピールするようなものだからだ。
だから、俺は相手が繰り返してくれるようにあいまいな言葉で返してみた。
「はあ……聞いてなかったんでしょ」
ご明察だが、そう正直にいうつもりはない。
東京は新宿区。
俺は西武新宿線に住んでいて、大学時代を懐かしみながら沿線の数少ないバーで二次会をしている。当時はいけなかった1杯1000円ほどのバーだ。
そんな高単価の場所でかわいい女の子といて、話を聞いていないなど言語道断。
「あー……すまん」
「これで何回目よ!」
おこる彼女の気持ちもわかる。何やってんだかねえ。
それもこれも、さっききた会社の後輩からの連絡が悪い。
ー明日、夕方から会えませんか?ー
それだけなのに、いや、それだけだからこそなんて返せばいいかわからない。
理由を聞くのは野暮な気もするが、かといって何の準備もなしに合う勇気はない。
何が狙いだ、仕事か?美人局?それとも宗教か?
そんなことを考えていて凛の話を聞けていない状態だった。
「あんた、さっきからスマホチラチラ見てどうしたの?彼女?」
「いたらお前と2人でこないし、さっさと帰ってるわ」
「じゃあ、なんなのよ」
観念して、白状することにしたー
こあくまどっとこむ @ponpokoro
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