第6話 いずれ実家へ鉄槌を
無事に島へと上陸した。
陸地まで追ってくるつもりはないようで、海獣はやがて沖へと帰っていった。
「よかった……。みんな、無事かな?」
員数を確認したが、欠員はいない。
ホッと安堵した。
僕のせいで、ついてきてくれた使用人たちまで命を落とすことになったら、なんと詫びればいいかわからないからね。
「無事に島にたどり着けたのも、すべてはミラン様のおかげです!」
「あんなすごい魔法を隠していただなんて、お人が悪いですぜ、ミラン様!」
使用人たちが、次々と僕の《水流魔法》について賞賛の言葉を口にする。
「僕も驚いているんだ。なんだか突然、使えるようになったから……」
「妙な声がってつぶやいていたけど、もしかして、そのときに?」
「うん。たぶん、あれは【天啓】を授けてくれた神様の声だったんだと思う。……ただ、今はまず、全員の無事を喜び合おうよ」
僕の意見に賛同してくれたようで、使用人たちはめいめい肩を組み、お互いの健闘をたたえ合い始める。
僕は少し離れたところに座り込んで、その様子を眺めた。
「こうしてみんなの命が繋がったのも、ミランのおかげ」
ステラがやってきて、僕の隣に腰を下ろした。
「僕のやれることをやったまでだよ。形式的とはいえ、今は僕が領主。みんなのご主人様なんだしね」
「ふふっ、そうだったね。さすがだったよ、ミラン・バルテク卿」
「卿だなんて、なんだかむず痒いな」
ステラと二人、笑い合った。
「それにしても、ミランの魔法はすごかったよね」
「自分でもびっくりさ。……いま、すごくワクワクしているんだ。水が大量にある場所での、この《水流魔法》のポテンシャルに」
「これからのミランの領主様としての活躍、すっごく楽しみだよ。《水流魔法》で土木工事も捗りそう」
「確かに! ……図らずも、父さんの求めていた《万能魔法》と同じような役割をこなせそうだ。もしかしたらこれも、運命だったのかもしれないなぁ」
バルテク領が水の豊富な土地だったら、僕は実家を追い出されなかったのかもしれない。
まぁ、今さら実家に未練はないし、どうでもいいけれど。
もう、貴族なんてこりごりだしね。
子爵位はもらったけれど、もう気分は平民と変わらない。
ついてきてくれたみんなと、のんびり島を開拓していければ、それでいいと思う。
「さしもの海獣も、ミランの《水流魔法》にはどうしようもなかったみたいだね」
「倒すのは無理だったけれど、逃げ回るくらいは十分に可能だった。……この《水流魔法》を極めていけば、もしかしたらあの海獣をどうにかして、この島を遙か昔のような交易都市にできるのかもしれない」
「交易都市?」
「あの海獣が現れる前まで、この島は王国と他国とを結ぶ海上交易路の中継地点になっていたんだ。貿易ですごく栄えていたんだって」
「へぇー、すごい! なら、私たちでその交易都市を、この島に復活させられたらおもしろいね!」
ステラはぐいっと僕に顔を寄せ、目を爛々と輝かせている。
「このまま、あのおバカなミランのお兄さんたちを、ぎゃふんと言わせちゃおうよ! バルテク本家を超えちゃっても、いいと思う! っていうか、没落させちゃったってかまわないと思うよ!」
「そう、だよね……。まぁ、まずはこの島で生きていくための環境整備をしなくちゃだけど。焦ってもいいことはないと思うし、のんびりと開拓を進めていくのが、まず第一かな」
ここは、世界から見捨てられた絶海の孤島。
あくせくと働き詰めたところで、誰かが褒めてくれるわけでもない。
「そんなこと言ったって、ミランならいずれ作っちゃうんでしょ? あなたを捨てた実家の人たちが、泣いて悔しがるくらいの素敵な交易都市をね」
ステラはニッと笑いながら、僕の胸をコツンと叩いた。
ステラの言葉で、不思議と勇気づけられる。
僕の心の内に、なにやら小さな炎が灯ったような気がした――。
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