第30話 再会

 竜舎に降りたあと、ベルダに竜騎士団の副団長執務室に招かれた。


「エクス。魔石なのだが、調査したい」

「もちろん構わないさ」


 周囲に人はいないので、俺はいつもの口調だ。


「それにグレートドラゴンと魔人のことは……」

「解っているよ。口外しない」

「本当は冒険者ギルドにもって行って換金したいところだと思うのだが……」

「調査は大切だからな」

「それに、この魔石を持っていけば冒険者のランクも上がるだろう……」


 ベルダは深々と頭を下げる。


「本当に申し訳ない」

「そんなに謝らなくていいよ。調査は大切なことだし」

「急いで公表できるようにし、名誉と報奨金を受け取れるようにするつもりだ」


 そう言ってから、ベルダは金貨を机の上に乗せる。


「竜騎士団からの報奨金だ。ギルドから出る報償よりは安いのだが……」


 それはものすごい大金だった。


「少なくて申し訳ない」

「いや充分すぎるよ。これだけあればアーシアたちの両親を解放できそうだ」

「そうか? それならよかった」


 ベルダは、本当に嬉しそうな笑顔になった。


「うん、助かった」

「ところで……」


 ベルダは言いにくそうだ。


「どうしたの?」

「その、あれは何の技なのだ? 魔法をかき消しただろう?」

「あれか。説明は荒唐無稽で、しかも長くなるのだが……」

「かまわない」


 俺は破壊神について説明した。

 夢で出会ったことや、突然スキルが扱えるようになったことなども話す。


「もっといえば、実際、夢で破壊神に会うまで体も思うように動かなかったんだ」

「ほう?」

「破壊神によれば、何者かに呪いと毒をかけられていたみたいだ」

「その何者かというのは御母堂ではないのか?」

「破壊神はそこまでは教えてくれなかった。だが、俺はそう予測しているけど」

「ふーむ。破壊神か。……エクスに力を授けたのなら悪い神ではないのだろうが」

「破壊神の真意はどうあれ、実際、助けられているのは確かだ」

「ふむ。それでも内緒にしておいた方がいいかもな」

「ああ。信じてもらうのが難しいし、破壊神は一般的に邪神だからな」

「うむ」



 その後、俺は改めてお礼を言って、竜騎士団の庁舎を後にする。

 そして、そのままアーシアたちの両親のいる商会へと向かった。


 商会に入ると、小走りで店員が近づいて来た。


「これは閣下。お越しいただきまして、誠にありがとうございます」

「お、おお」


 面識のない店員だったのに、すごく対応が丁寧になっていたので驚いてしまった。


「閣下、お屋敷に何か問題がございましたでしょうか……?」

 店員は心配そうに尋ねてくる。

 昨日家を買ったばかり。来訪の理由は家の方だと思ったようだ。


「いや、家の方じゃない。奴隷を買いに来た」

「……そうでございますか。今すぐ準備いたしますので、どうぞこちらで……」


 店員は腑に落ちていなさそうだったが、とりあえず応接室へ案内された。

 椅子に座ると、お茶とお茶菓子も出される。


 しばらく待っていると、商会長が走ってやってきた。


「閣下、お待たせして申し訳ありません」

「いや、急に来てすまないな。金が手に入ったからさっそく買いに来た」

「えっ? 本当でございますか? 昨日の今日でございますよ? いえ、失礼いたしました。けして閣下を疑っているわけでは……」

「気にしていないさ。信じがたいのも無理はない。類まれなる幸運のおかげだからな」


 そういって、俺は机の上に先ほどベルダから貰った金貨を乗せる。


「お、おお……確かに」

「足りているならよかった」

「閣下。これほどの大金、どうやって稼がれたのですか?」

「秘密だ。しばらく口外しないと言う約束をしたからな」

「……そうでございますか」

「安心しろ。違法な手段で手に入れた金でも、出自の悪いやばい金でもない」

「もちろん疑っておりません」

「今は話せないが、商人の情報網があれば、近日中にわかるだろうさ」

「楽しみにしておりますね」

「ああ、楽しみにしておいてくれ」


 そんなことを話していると、アーシアたちの両親が連れてこられた。

 二人とも不安そうな表情をしている。


「この二人でよろしかったですね」

「ああ」

「では契約書を……」


 契約書をかわして、お金を払う。そして契約書を燃やす。

 これで晴れてアーシアたちの両親は解放された。奴隷でなくなったのだ。


「大金をつぎ込んだにもかかわらず、閣下は躊躇なく燃やされるのですね」

「む? そのために色々したのだからな」

「なかなかできることではありません。尊敬いたします」


 なぜか商会長に褒められてしまった。


 その後、俺はアーシアたちの両親を連れて商会から出る。


「あの、……旦那さま」

 そう尋ねてきたのはアーシアたちの父だ。


「どうした?」

「私たちはいったいどうすれば……」

「とりあえず、俺の家までついてきてくれ。すぐそこだ。悪いようにはしない」


 そういうと、アーシアたちの両親は不安げについて来る。

 もう奴隷ではないのだから、自由にしていいのだが。


 俺は自宅に到着すると、すぐに中へと入る。


「ただいま」

「おにいちゃん! おかえりなさい!」

「おかえりなさいませ。鍵屋さんは……」


 パタパタとルーシアがかけて来た。

 その後ろからはアーシアがついてきている。


 二人とも、俺の後ろにいる両親を見て固まった。


「ふぇ……」

「……ルーシア、アーシア。よく無事で」

「え、どうして? えっ?」

「ご両親も解放した。今後は家族で好きにすればいい」


 アーシアは固まり続けるが、ルーシアは

「ままああああ、ぱぱあああああ」

 大声で泣きながら、両親に抱きつきにいく。


「ルーシア、ルーシア」

「おかあさん……おとうさん」

「アーシア、苦労をかけたな。ごめんよ」


 家族が抱き合って再会を喜んでいる。

 俺は邪魔したら悪いので、そっとその場を離れた。


 本当に良かった。

 再会を祝うために、おいしいお菓子でも買ってこよう。

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