第29話 魔人戦

 魔人は基本的に人族の魔導士と比にならないほど魔力が高い。

 そして寿命も存在しないゆえに、魔法の研鑽を積みやすい。

 それゆえ、魔人は非常に難度の高い、高度で強力な魔法を扱うのだ。


「骨も残さず、燃え尽きろ!」


 そう叫んで魔人が放ったのは強力無比な業火。

 俺に向けて放たれたわけでもないのに、顔が火傷しそうなほど熱い。

 触れてもいない少し離れた木が燃え始める。一瞬触れた土が溶ける。


「小賢しい!」


 俺はその業火を【破壊】した。熱が一瞬で消える。

 残されたのは、大量の魔素だ。


「なっ!」

「学習能力が無いのか、まぬけ!」


 俺は驚愕している魔人の首を斬り落とした。

 だが、魔人はその程度では死なない。手を休めずに連続で切り刻む。


「きさまぁあああああああ!」

「まだ叫べるとはな、さすがは魔人だ!」


 俺はとどめには【破壊】スキルを使って、魔人を破壊した。

 生物でも切り刻んで弱めたあとならば、【破壊】スキルが通じやすくなる。

 力をさほど使わずとも、行使できると考えたのだ。


 ――グシャッ


 魔人はつぶれて息絶えた。


「…………あれだけ痛めつけたあとだったのだが」


 思っていたよりも、【破壊】スキルを使ったことで疲労した。

 強力な魔法を何発も壊すより、瀕死の魔人を【破壊】する方がずっと疲れるようだ。


「使いどころを、見極めないといけないな……」


 俺がそうつぶやいたとき、

「エクス! 無事か? 怪我はないか?」

 ベルダが後ろから駆け寄ってくる。

 魔人が死んだことで、金縛りが解けたのだろう。


「俺は大丈夫。ベルダとジールこそ、大丈夫か?」

「ああ、エクスが守ってくれたおかげでな」「がぁ!」


 ジールも感謝してくれているのか、顔をこすりつけて、ぺろぺろ舐めてくれた。

 やはり、竜は可愛い生き物だ。


「それにしても、魔人だったのか……。恐ろしい話だ」


 ベルダは少し青ざめていた。

 魔人と地竜のドラゴンゾンビが王都に襲来したときのことを想像しているのだろう。


「とりあえず、地竜と魔人の魔石を回収しておこう」


 俺が魔石を回収し終わったころ、ワイバーンたちが降下してきた。


「副団長、ご無事ですか!?」

「ああ、私は無事だ。お前たちはどうだ?」

「はっ! 全員無事であります」

「ならばよい」


 ベルダはどうやら竜騎士団の副団長だったらしい。


「……地竜の咆哮にやられてしまい」

「……ドラゴンゾンビが咆哮を使うと思わなかった私の落ち度だ」

「そんな、副団長殿下は悪くありません!」


 ゾンビは脳が腐るので、ドラゴンでも咆哮などを使わないことが多いのだ。


「それにしても、グレートドラゴンに魔人とは……」

「そのことだが、皆、しばらくこのことは口外しないように。民が怖がるゆえな」

「「「はっ!」」」


 公表すべき時機は、宮廷や騎士団のお偉いさんたちが判断するのだろう。


「報償等も遅くなる。我慢してくれ」

「いえ、我々は何もできませんでしたから」


 そして、騎士たちは俺の方を向いて、一斉に直立する。


「少年、感謝する」

「いや、気にしないでくれ」

「少年が居なければ、我々は全滅していたかもしれぬ」

「もし力になれたのなら、良かったよ」


 ベルダも騎士たちと同様に並ぶ。


「エクス。私からも礼を言う」「がぁ」

 そして深々と頭を下げた。ベルダと一緒にジールも頭を下げていた。


「殿下、そんな頭を上げてください」


 近くに部下たちがいるので、ベルダへの態度は気を付けなければいけない。


 それから地竜や魔人の死骸をジールに燃やしてもらってから、俺たちは帰路についた。




 俺はベルダと一緒にジールの背に乗って空に上がる。

 いつも通り、ベルダが前に乗って手綱を握り、俺はその後ろに乗る。


 ジールが飛び始めて、周囲に声が聞こえない状況になるとベルダが言う。


「エクス。本当に助かったよ」

「うん、俺もベルダの助けになれたなら嬉しい」

「……私は今回のことを軽く考えていた」

「まあ、グレートドラゴンのゾンビと魔人が出てくるとは思わないよな」


 ベルダはうなずいた。


「……私はエクスに活躍してほしかったんだ。証言するためにな」


 宗秩寮そうちつりょうで俺の廃嫡関連のことが調査されている最中だ。

 その際、ベルダは、俺の剣の腕が一流だと証言したかったのだろう。

 それに、王都の守護に参加したとなると、心証も良くなる。


「ありがとう。嬉しいよ」

「だが、おかげで助かった。エクスが居なければ全滅していた。ありがとう」

「さっき、充分お礼を言ってもらったよ」

「命の恩人だからな、なんどでもお礼を言わせてくれ」「がぁ!」


 どうやらジールもお礼を言っているようだった。

 そんなジールの首をベルダは撫でながら、尋ねてくる。


「そういえば、どうしてエクスは自分のことを『俺』って言うんだ?」

「変かな?」

「まあ、多少は」

「ヘイルウッドは剣の名門だから。それに冒険者になるならね」

「そうか。そういうものなのか」

「ああ、そうなんだ。女だとばれたら舐められるだろう?」



 ジールは速い。

 ベルダとお話していると、あっという間に王都に到着したのだった。

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