第25話 非常事態
俺はベルダ王女のことは省いて、冒険者たちに簡潔に説明した。
「へー。竜騎士がねぇ」
「さすが、元貴族。騎士にも知り合いがいるんだな」
冒険者たちがふんふん頷いていると、いつの間にかやってきていた職員が言う。
「エクスさん。竜騎士の方とエルダードラゴンと協力して魔物を倒したってことですか?」
「そうだ」
「……なるほど」
「問題があるのか?」
「いえ、問題ではないんですけど……。ランク昇格の問題で……」
そう言って、ギルド職員が説明をはじめる。
バジリスクを倒したとなると、ランク昇格が検討されることになる。
だが、エルダードラゴンなどと協力したとなると話が変わってくるのだ。
バジリスク退治にどれだけ貢献したのか、評価するのが難しくなる。
「もちろん、私はエクスさんの実力についてお聞きしてますが……」
あくまでも俺はFランクの新人冒険者。
活躍したのは竜騎士とエルダードラゴンだろうと、推測されることになる。
たかが冒険者のランク昇格で、嘘を暴く魔道具を使ったりはしないものだ。
「本当に申し訳ないです」
「まあ、それは仕方ないんじゃないか? 俺はFランクでも構わないさ」
ドラゴンゾンビを倒したのに、Fランクなのも周囲にBランク冒険者がいたからである。
ただ、ドラゴンゾンビに関しては、司法省案件だ。
司法省による捜査が進めば、俺が討伐者と認定される可能性はある。
その時は、俺の冒険者ランクが昇格することもあるらしい。
期待せずに待っていようと思う。
俺が冒険者ギルドの定食を食べ終わっても、まだ戦利品の鑑定は終わっていなかった。
だから、俺は先に、竜騎士団の竜舎で借りていた荷車を返しに行くことにする。
空の荷車を引いていると、
魔法の鞄さえあれば荷車なしで戦利品を運搬できる。
それに、今日の狩りももっと長く続けられただろう。
「だけど、魔法の鞄は高いんだよな……」
今はアーシアたちの両親を解放するのが最優先だ。
それが終わって、余裕が出来ればお金を貯めて手に入れたいものだ。
竜騎士団の宿舎近くに来ると、先ほどとは打って変わって、非常に騒がしかった。
竜が騒いでいるというよりも、人間、つまり竜騎士たちがせわしなく動いている。
何か非常事態が起きたのかもしれない。
俺は竜舎の管理人に、荷車を返そうとしたのだが、管理人も忙しそうだ。
「あっ、荷車? そこら辺においといてください!」
「何かあったのか?」
「ああ、ちょっとね」
何が起こったのか、説明する時間も惜しいと言った感じだ。
そもそも、部外者に説明できないことが起こったのかもしれない。
俺も何か非常事態に対応するために、冒険者ギルドで待機しておこう。
冒険者ギルドにいれば、魔物の襲撃などがあってもすぐに情報が入るからだ。
そう思ったのだが、
「エクスか、ちょうどいいところであったな」
「がぁ」
ベルダに呼び止められてしまった。
ベルダはエルダードラゴンのジールの背に乗って竜舎から外に出てきたところだ。
「どうかされましたか?」
「非常事態だ。手を貸してくれ」
ベルダには借りがある。頼まれたら、手を貸したい。
「もちろん、手伝いたいですが、私なんかでよろしいのでしょうか?」
竜騎士団の作戦に、Fランク冒険者が参加したら問題になりそうだ。
竜騎士団の面子の問題もあるし、作戦上の機密に関する問題もあるだろう。
「責任は私が取る。早くジールの背に乗ってくれ!」
そう言われたら断る理由はない。
「わかりました」
俺はジールの背に飛び乗った。
ベルダは本当に急いでいたようで、ジールに指示してすぐに上空へと飛びあがった。
「で、ベルダ。なにがあったんだ?」
上空なので周囲に会話を聞いている人はいない。だから俺は敬語を使うのをやめた。
「うむ。ドラゴンゾンビが出た。エクスは倒したことがあるのだろう?」
「倒したことはあるが……ドラゴンゾンビにも色々いるからな」
同じドラゴンゾンビでも、エルダードラゴンと、ワイバーンのゾンビでは全く違う。
「それでもよい。ドラゴンゾンビが王都に向かっている。食い止めねばならぬ」
「冒険者ギルドには?」
「もちろん連絡済みだ。だがひとまずは我らが動いて時間稼ぎしなければ」
王都にいる戦力で、機動力が最も優れているのが竜騎士団だ。
だから一番最初に動き始めたのだろう。
ベルダは、しばらく上空を滞空する。
続々と竜騎士たちがワイバーンに乗って竜舎から出てきた。
「ひとまず、私と私の部下たちで向かう」
そう俺に言うと、ベルダは右手を挙げた。
すると、竜騎士たちはワイバーンを操り綺麗に整列した。
なかなかに練度は高いようだ。
それを確認してうなずくとベルダが大きな声を張り上げる。
「命を懸けて騎士としての責務を果たせ! 私に全力でついてこい!」
ベルダは、ジールを駆って高速飛行を開始した。
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