第11話 奴隷を扱う店

 受け取った報奨金を、事前の約束通り冒険者と分配する。

 俺が九で冒険者たちが全員で一の割合だ。


「本当にほとんど俺が貰っていいのか?」

「ああ、かまわん。金には困っていないしな」

「遠慮しないで受け取ってくれ」

「かわりと言っては何だが、今後とも仲良くしてくれよな!」


 冒険者たちは、笑顔でそんなことを言ってくれる。


「ありがとう。正直助かるよ」


 俺は自分の取り分を前にして少し困った。


「ここまでの大金だと持ち運ぶのも大変だな」


 財布代わりにしていた革袋には入らない。

 鞄はあるが、じゃらじゃら音がなるし非常に重い。


 悩んでいると、冒険者たちが笑いだした。


「エクス。そのために先に冒険者登録を済ませたんだよ」

「ん?」

「さっきも言っただろう? 持ち運びしにくい大金はギルドに預ければいい」

「冒険者カードがあれば、どこの冒険者ギルドでも引き出せるからな」

「そういえば、そんなこと聞いたな」


 冒険者ギルドに登録したとき、教えてもらっていた。

 冒険者たちは報奨金が持ち運びが大変になるほど高額なことを知っていたのだろう。


 俺たちの話を聞いていた、ギルド職員が笑顔で言う。


「エクスさん、では早速預けられますか?」

「ああ、頼む。……あ、いやちょっと待ってくれ」

「何か問題がありましたか?」

「すぐに使う可能性があってだな……」


 俺の言葉を聞いて、冒険者の一人が言う。


「エクス。奴隷になったあの子たちの両親を解放するんだろう?」

「ああ、だが、これだけで足りるだろうか」


 俺が尋ねると、冒険者たちが考え始める。


「……一人でもぎりぎりかなぁ。どう思う?」

「俺も奴隷には詳しくないが、大人は高いからな」

「平均的な大人の奴隷なら、いけるんじゃないか?」

「読み書きできたり計算が出来たり、あとは力が強いとかあれば難しいかも……」


 冒険者たちの見立てだと、この大金でも難しいらしい。

 俺たちの話を聞いていたギルド職員が言う。


「手付け金と言う形にしたら、いけるかもしれませんよ」

「奴隷売買に、手付け金を認めてくれるものなのか?」


 動かせない財産、つまり不動産なら本人が逃げても財産は逃げない。

 いざとなれば財産を差し押さえればいいだけだ。

 だが、奴隷は足があって、逃げることができる。


「少なくとも他に売られることは避けられるかもしれませんし」


 確かにギルド職員の言うとおりである。

 俺は預けずに、もらった報奨金を全て鞄へと入れた。


「じゃあ、いまから例の奴隷商のところに行ってくるよ」

「それがいい。ついて行こうか?」

「そこまで迷惑をかけるわけには行かないさ」

「そうかい。俺たちはしばらく冒険者ギルドにいるから、困ったらいつでも言ってくれ」

「ありがとう」


 俺は冒険者たちとギルド職員にお礼を言って、奴隷商の元へと急ぐ。

 途中、ギルドで食事中のアーシア、ルーシアには買い出しに行くとだけ告げておいた。

 期待を持たせたらダメだった時のショックが大きい。

 だから隠しておくべきだろうと考えたのだ。

 冒険者たちやギルド職員にも軽く口止めしておいたので、大丈夫だろう。


 俺は冒険者ギルドの建物を出ると、まっすぐに向かった。

 奴隷商の店名は、アーシアたちの持ち主だった商人から聞いている。

 そして、行き方は冒険者ギルドで聞いてあるので迷うことは無かった。


「……やはり大きいな」


 その店はなかなかに大きな商館だった。

 冒険者になっていなかったら、就職活動を開始するところだ。


「邪魔するぞ」


 俺は堂々と中へと入る。

 すると、店員たちの視線が一斉にこちらを向いた。


 俺は気にせず店内を観察する。

 店員は十名弱いるが、商品は陳列されていない。


 どうやら、そこは小売店の役割はないようだ。

 恐らく商人相手の売買や、貴族などの金持ちを相手にする場所なのだろう。

 一般の客に直接販売する小売店は別に建物があるに違いない。


「あの、何か御用でしょうか?」


 若い店員の一人が近づいて声をかけてきた。


「欲しいものがあってな」

「それでしたら、通りを出て……」


 店員は小売店のある場所を教えてくれる。


「ありがとう。だが、俺は奴隷を買いに来たのだが」

「……奴隷、でございますか?」


 そう言って店員は、さりげなく、だがしっかりと俺を値踏みするように見る。

 そして明らかに店員の態度が変わった。

 俺の身なりは、お世辞にもいいものだとは言えないので仕方ない面もある。


「……奴隷ねぇ」


 店員は小さくつぶやいた。

 聞こえてないと思ったのだろうが、俺は耳がいいのでしっかりと聞こえた。

 いや、わざとぎりぎり聞こえるように言ったのかもしれない。


「奴隷は、こちらだと聞いたのだが間違いか?」


 奴隷は高額商品のため庶民用の小売店ではなくこちらで取り扱っているはずなのだ。


 店員はため息をつくと、最低限の礼儀正しさを維持して言う。


「……身分を証明するものはございますか?」

「ああ、あるぞ」


 俺は冒険者ギルドで作ったばかりのカードを提示する。

 Fランクと記載されているカードだ。

 そのFランクの文字をみて、店員はあからさまにため息をついた。

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