第10話 報奨金

 魔導士は後ろ手に縛ったうえで、ひじの部分でも縛ってある。

 加えて足はひざと足首の位置で固定してがっちり拘束してあった。

 指で印を結べないように指の拘束も忘れてはいけない。

 手を広げられないように縛り、こぶしの状態で固定している。

 その上で目隠しと耳栓をし、言葉で呪文を紡げないよう口に布を突っ込んである。


 その上で大きな鞄に詰めて運んできたのだ。


「ゾ、ゾンビの術者まで? 助かります!」

「こいつの仲間二人いたんだが、逃げられそうになったから殺してしまった」

「あ、死体はちゃんとあるぞ。確認してくれ」


 冒険者パーティの一人が、さほど大きくない鞄から死体を取り出した。


「すごいな。その鞄は『魔法の鞄』なのか?」


 魔法の鞄とは、魔法で中を拡張している鞄である。

 値段によって内容量は変わる。

 そして特に高級な魔法の鞄は状態保存の効果がついたりもするのだ。

 魔法の鞄には、生物は入れられないが、死体なら入れられる。


「ああ。魔法の鞄の中では安物だがな。これがあるのとないのとでは便利さが段違いだ」

「みんなでお金を貯めて買ったんだよ」

 冒険者たちはどこか自慢気だった。


 俺も魔法の鞄が欲しい。お金に余裕ができたら買うことにしよう。


 そんなことを考えていると、ギルド職員たちが慌ただしく動き始めた。


「そ、それも含めて、奥で事情をお伺いさせてください!」


 俺と冒険者たちは奥の応接室へと通された。

 受付以外の技術職員がやってきて、魔導士の調査や死体や魔石の検分を開始する。


「ほう。ああやって調べるのか」


 俺が興味深く観察していると、冒険者たちも

「俺たちも初めて見たな。ああやるのか」

 そんなことを言っていた。


 いつもは冒険者の目に触れないバックヤードで行っている作業なのだろう。


「お忙しいところ申し訳ありませんが、一から説明をお願いいたします」


 そう促されて冒険者たちのリーダーが話始める。

 説明は盗賊に会うずっと前から始まった。


 どこの街でどのような依頼をうけたのか。商隊のメンバーについて。

 どこをいつ通る日程が組まれていたのか。

 そして、どこを何日の何時ごろ実際に通過したのかまで、きちんと話している。


 そんなに詳しく説明するのかと感心しているとやっと戦闘の話になった。

 盗賊との戦いについても詳しく説明している。


 冒険者の説明が終わると、ギルド職員は俺の方を見た。


「エクスさんも状況説明をお願いできますか? 内容が重複しても構いません」

「……そうだな」


 俺は少し考えて、隠すことでもないと判断し、一から話すことにした。

 ヘイルウッド家を追い出されてからの一連の流れだ。


 ただし破壊能力に関しては伏せておいた。

 なんと説明していいのか、わからなかったからだ。


「……ドラゴンゾンビを操っていた魔導士たちは、ヘイルウッドの手の者かもしれない」

「…………冒険者ギルドの手に余りますね。宗秩寮そうちつりょうの管轄になるでしょう」

「宗秩寮?」


 冒険者の一人が首を傾げた。だから俺は簡単に説明する。


「宗秩寮ってのは貴族を取り締まる機関だと考えたらいい」

「ほう、そういうのがあるのか」

「一般的な知名度はないが、国王陛下直轄の強力な機関だよ」


 司法省経由で、宗秩寮に一連の流れは報告されるはずだ。

 実家がどうなるかは、それ次第だろう。


 そんなことを話していると、冒険者ギルドの職員が尋ねてきた。


「あの……。一つ聞いてもよろしいですか?」

「どうした?」

「ドラゴンゾンビをあっという間に倒せる力量があるのに、なぜ追い出されたのですか?」

「剣の才能がないという理由で、だが……」

「いやいや、ご冗談でしょう?」

「まあ、そう思うよな」


 ドラゴンゾンビを倒せるなら、剣の実力は充分だ。

 通常ならば、王家の剣術指南になれる実力と言っていい。


「実際、昨日まで剣術の腕は大したことがなかったのは確かなんだ」

「昨日まで?」

「家を出たら急に体が思う通りに動くようになった。なぜかはわからないがな」

「……おかしなこともあるものですね」

「本当にな」


 冒険者たちは「呪いなんじゃ」とか、「毒を盛られていたのでは?」とか言っている。

 その両方とも可能性はあると思う。だが、確証はない。


「そうだ。ドラゴンゾンビについてヘイルウッドを調べるならついでに……」

「心得ています。廃嫡の件も宗秩寮が調べるでしょう」


 すべて宗秩寮に任せればいい。

 国王直轄の宗秩寮が調べられないなら、俺ごときができることは何も無い。

 宗秩寮が、ヘイルウッド側に与している場合も同様に、俺には何もできないだろう。



 事情説明が終わると、お待ちかねの報奨金の支払いだ。


「まずはドラゴンゾンビ二頭の報奨金です。それに術者の捕縛の報奨金に……」


 ギルド職員はどんどん机の上に金貨を積み上げていく。

 報奨金は、思っていたより高額だった。


「賞金首の盗賊たちの賞金も支払わせていただきますね」

「奴らは灰になってしまったが……、いいのか?」

「Bランク冒険者の方々の証言もありますから」


 冒険者のランクはそれすなわち信用度。

 Bランクともなれば、ギルドからの信用もあついのだろう。


「……支払ってもらえるのはありがたいが、虚偽ではないかと疑わないのか?」

「虚偽だった場合は、魔導士を尋問したらすぐにばれますから」


 法務省の尋問は厳しいと聞く。

 いろいろな魔法を駆使して、嘘を暴いていく。隠し通すことは難しいだろう。

 それを知っているBランク冒険者が嘘をつくまいと判断したようだ。


 おかげで、俺の受け取る報奨金はかなりの高額になったのだった。

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