第9話 冒険者ギルド

 アーシアは真面目な顔で考え込む。


「奴隷になったときに、すべてをあきらめて……」

「それは仕方ないことだ」

「だからどうしたらいいか、わからないんです」


 そしてルーシアがぽつりと言った。

「おとうちゃんとおかあちゃんところ、いきたい」


 アーシアは、両親との再会が、どれだけ難しいのかわかっている。

 だが、ルーシアはそれが理解できていない。だから素直に口にできるのだ。

 アーシアも本当は両親と再会して一緒に暮らしたいと思っているに違いない。


 一度助けたのなら、最後まで面倒を見るべきだ。

 俺はそう思う。


「まあ、ゆっくり考えたらいい。当面の金ぐらいなら、貸してやる」


 本当は生活資金をあげたいぐらいだ。

 だが、あげると言っても遠慮されるだろう。だから貸すと言ったのだ。


 それでも、アーシアは遠慮する。


「……えっと街についたら何か仕事を探します。それで二人で……」


 それが非常に困難な道だと俺でもわかる。

 姉のアーシアはまだ十二、三歳の子供。妹のルーシアは四、五歳の幼女だ。


 アーシアが雇ってもらえる可能性は高くはなさそうだ。

 仮に雇ってもらえたとしても、アーシアが働いている間ルーシアはどうすればいいのだ。


 俺は少し考えた。


「実は俺も人手が足りてないんだ。よかったら助手をしてくれないか?」

「……助手ですか?」

「これから俺は冒険者として生計を立てるつもりなのだが――」


 身の回りのことをしてくれる人を探している、みたいなことを言う。

 一人で全部やるつもりだったが、手伝ってくれる人がいれば楽なのは確かだ。


 なんといっても俺は昨日まで侯爵家の嫡子だったのだ。

 一般的な貴族の子女と同じく家事などやったことは無い。


「……ほんとうによろしいのですか?」

「ああ、その代わり給金は安いぞ」

「ありがとうございます、ありがとうございます」

「おにいちゃん、ありがと!」


 アーシアは涙を流して喜んでくれた。ルーシアも嬉しそうにしている。

 安心してくれたようで、とても良かった。



 その後の道中は順調に進んだ。

 途中、宿場町で一泊し、無事王都に到着する。


 王都に到着したら、商隊は解散だ。

 俺は商隊の商人たちに挨拶を済ませて、冒険者ギルドへと向かう。

 冒険者たちと、アーシア、ルーシアと一緒である。

 アーシアたちに食堂でご飯を食べてもらっておいて、俺は登録を済ませにいく。


「冒険者登録はこっちだ。字は書けるよな?」

「ああ、ありがとう。字は書ける。任せてくれ」


 冒険者に教えてもらいながら、手続きを済ませる。

 冒険者たちが事前に言っていたように、登録自体は非常にあっさりとしたものだった。

 登録が終わると、一枚のカードが支給された。


「ありがとう。これが冒険者カードってやつなのか」

「ああ。偽造は不可能だし、本人しか使えない魔法がかかっている」

「それはすごいな」

「身分証明にも使えるし、このカードでギルドにお金を預けることもできる」


 預けたお金は、基本的にどこの冒険者ギルドでも引き出すことができるらしい。


「とはいえ、田舎のギルドには現金自体がないこともあるからな。そういう時は無理だ」

「それでも、かなり便利だ」


 俺が冒険者カードをしみじみと眺めて感心していると、

「で、ここからが大事なところだ」

 冒険者がにやりと笑う。


 そして受付の前にドラゴンゾンビの魔石を二つ置いた。


「賞金首の盗賊を倒したんだが、こいつが全部燃やしてしまった」

「む? そうなのですか? …………ま、まさか!」


 その若い受付担当者は怪訝な表情をしたあと、魔石を見て目を見開いた。

 そして、真剣に魔石を調べはじめる。

 調べるにつれて受付の顔色が変わっていき、驚いて大声を出す。


「ふわあああっ!」

「どうしました?」


 受付の大きな声に反応して、後方から中年の職員が顔を出す。


「ド、ドラゴンの魔石です! しかも二頭!」

「落ち着きなさい。ドラゴンなんて……。ほ、本当だ、こ、ここ、これはどこで?」

「えっと、街道の――」


 冒険者たちが場所の説明をしている間にもギルド職員が続々と集まってくる。

 そして、ベテランらしき職員が

「……これは、ゾンビの魔石ですね。ドラゴンゾンビです」

「え? ドラゴンゾンビですか?」

「ほら、この部分を見てください」


 ベテラン職員が、職員たちに簡単に解説をはじめた。

 珍しいドラゴンの魔石の中でも、ドラゴンゾンビの魔石は特に珍しいようだ。


 解説を済ませると、ベテラン職員が言う。


「あなた方はBランクのパーティでしたね。ランク昇格の推薦を――」

「いやいや、ちょっと待ってくれ。これは俺たちが倒したんじゃないんだよ」

「どういうことです?」

「倒したのはこのエクスくんだよ」

「…………つまり、エクスくんと協力して倒したということですか?」

「ちがうちがう。ドラゴンゾンビ二頭とも、エクスくん一人で倒したんだ」

「……………………」


 しばらくベテラン職員は絶句していた。

 俺が若いから驚いたのだろう。


 それにしても冒険者パーティはBランクだったらしい。

 Bランクとは一流のランクだ。

 ちなみに、俺は新人なのでFランクである。


「詳しい説明を聞かせていただけませんか?」

「それはいいんだが、その前に……」


 俺は、驚いている職員に向けて

「このドラゴンゾンビ二頭を使役していた魔導士を引き取って欲しい」

 そういって、厳重に拘束した魔導士を引き渡した。

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