第8話 冒険者という仕事
俺はあまりに高額な値段に驚いて商人に尋ねる。
「……大人の奴隷二人の値段は、そんなにするものなのか?」
「二人? 馬鹿言っちゃだめだ。一人分の値段だよ」
「…………そんなにするのか?」
「ああ。ちなみに子供は二人合わせて一人分の半額だ」
つまりアーシアたち一人は、親の四分の一の値段ということだ。
「なるほどな。考えなければなるまい」
「兄ちゃんぐらい、腕が立つなら冒険者でもやれば稼げるんじゃないか?」
「ふむ。冒険者か。考えてもいなかった」
「確か兄ちゃんは、商会の事務志望だったな」
馬車に乗せてもらう交渉をしているときに話したことだ。
「商会の事務なら、いくら出世が早くてもそれだけ稼ぐのに十年以上かかるぞ?」
「……ふむ。少し聞いてみることにするよ」
「それがいい」
そんなことを話している間もみなは作業を進めている。
冒険者たちはドラゴンゾンビの死骸の処理や盗賊の死体の処理。
それに魔導士の拘束などをやってくれていた。
商人たちは馬と馬車の点検である。
幸いなことに馬も馬車も無事だったようだ。
全ての後始末が終わると、商隊は次の街に向けて動き出した。
盗賊に襲われるという危険な目に遭ったばかり。
全力で急いで王都に向かうことになった。
俺は冒険者たちに聞きたいことがあって、話しに向かう。
冒険者たちは先頭の馬車の荷台に乗っていた。
「少し聞きたいことがあるんだが……」
「エクスだっけか? 聞きたいことってなんだ? 答えられることならなんでも答えるぞ」
先ほどの後始末の際に軽く自己紹介は済ませてあったのだ。
「どうやったら冒険者ってのになれるんだ?」
「そんなの簡単だ。ギルドに行って届け出ればその日から冒険者だよ」
意外と簡単になれるらしい。
「それはよかった。金を稼ぎたいんだが……どうするのが早いんだ?」
「……何か事情、たとえば借金でもあるのか?」
「いや、ここだけの話。魔族の少女たちの両親も解放してやりたい」
「……エクス。お前、随分と立派だな」
俺は全く立派ではない。どちらかというと偽善の類だろう。
すべての奴隷を解放できるほどの力もない。
だが、知り合いぐらいは助けたいとは思う。
「……下手に希望を持たせたくないから、アーシアたちには言わないでくれ」
俺がそう頼むと冒険者たちはうんうんと頷く。
「わかっているさ。奴隷は高いからな。稼ぐのは難しいだろうな」
「いや、エクスの剣の腕があれば、そう難しくないんじゃないか?」
そういって冒険者たちは色々と教えてくれる。
強力な魔物を倒せば、高額の報奨金をもらうことができるらしい。
「今回、ドラゴンゾンビ二頭を倒して、盗賊一人を捕縛しただろう?」
「ああそうだな。全部エクスの取り分だ。かなりの金額になるぞ?」
「賞金首の盗賊二十人は灰になってしまったからな……。貰えるかはわからんが……」
「あれがあれば、もっと報奨金は増えただろうにな」
冒険者たちは俺が全部報奨金を受け取ることが前提であるかのように話している。
「いや、皆で戦ったんだ。俺が一人で貰うわけにはいかない。みんなで分けるべきだろう」
俺はそう言ったが、冒険者たちは首を振る。
「命を助けてもらった上に、金まで受け取るなんて、そこまで恥知らずじゃないぞ?」
「俺たちは盗賊に捕まったところを助けてもらったんだ。エクスは命の恩人だよ」
「ああ。それに俺たちは何もできなかったからな」
「エクスがいなければ、全員死んでいるか、良くて奴隷だよ。ほんと助かった」
だが、後始末を中心に色々手伝ってもらったのは確かだ。
受け取ってもらうように交渉して、九対一で分けることになった。
俺が九の方である。
「こんなにもらっていいのか?」
「ああ。当たり前だ。正確にはわからんが、かなり高額なのは間違いない」
「エクスほどの剣才があれば、意外とあの子らの両親を解放することも難しくないかもな」
「そうか。剣の才能に助けられるとはな。……皮肉なものだな」
俺は剣の才能がないと実家を追放されたのだ。
その途端、なぜか身体が生まれ変わったように動くようになった。
昨日以前にこのぐらい動けたら、追放されることは無かっただろう。
「皮肉って何がだ?」
「ああ、実は、俺の実家は剣を重んじる家系でな。幼少時から訓練し続けていたんだ」
「……エクスの力量は、努力の賜物ってことか」
「だといいんだがな。それはともかく俺は剣才が無いという理由で家を追い出されたんだよ」
「……嘘だろ?」
「こんな嘘ついてどうする。本当だよ」
「なんだ、その実家ってのは。剣聖クラスがうじゃうじゃいるのか? すげーな」
その後、俺は冒険者たちに冒険者ギルドへの登録法などを教えてもらった。
冒険者たちは、報奨金をもらう手続きも一緒にやってくれるらしい。
とてもありがたい話である。
その話が終わると、俺は最初に乗っていた荷馬車に戻る。
商隊の移動速度は、さほど速くないので簡単に移ることは出来るのだ。
最初の荷馬車へ戻ると、アーシアとルーシアが乗っていた。
もう商品ではないのだから運賃を払えと言われることもなかった。
アーシアたちのこともサービスで街まで運んでくれることになったのだ。
俺はアーシアにこれからの予定を尋ねることにした。
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