第16話 愛し下手は嘘で死ぬ

——いつかのクラウディアと私の会話だ。


「ねえ、クラウディア。私は貴女になにをあげればいい?」


 私がそう尋ねると、クラウディアは首を傾げた。一つの隙もなく結われた、青鹿毛の馬のように品のある黒髪ブルネットは、結い目に沿って、ひらりと光を反射する。


「プリマヴィーラ、なんの話?」

「ほら、冬休み中、貴女が刺繍を入れてくれた、あのハンカチよ。なにかお返ししなきゃって、冬休みのあいだにずっと考えていたのだけれど……ふさわしいものが見つからなくて」


 クラウディアの贈ってくれたハンカチは、海の向こうから取り寄せたらしい立派な絹に、名馬と若葉の刺繍を流麗に刻んでいた。優雅だけど、過度な華やかさはなく、実に洗練された意匠デザインだった。

 彼女から贈られたそれをいたく気に入った私は、その日もポケットに潜ませていたほどだった。常に持ち歩いていたいけれど、汚れさせるのも嫌で、そんな真反対の考えで思い悩むほど、素敵な贈り物だったのだ。

 だから、彼女が望むものならできるかぎり用意してやろうと決めていた。


「手慰みで作ったものだって言ったじゃないの。別に気にしなくていいのよ?」


 しかし、クラウディアはなにも望まなかった。

 私は少しだけ困って、「遠慮しなくてもいいのに」と返した。


「遠慮じゃないわ。お返しをもらうほどのものでもないし。そうやって大事にしてくれるだけで嬉しいもの」

「大事に」

「だって、贈ったものを愛しんでくれるのって、贈り手からすれば嬉しいものじゃない?」


 よくわからない。私は、誰かになにかを贈らねばならないとき、いつも損をしたような、なにかを剥ぎ取られてしまったような、そんな苦々しい気持ちになる。相手がそれを使っているのを見ると、よくも、とさえ思う。もしかしたら、恵んでやった、と見下すことはあるかもしれないけれど。

 私がそう言うと、クラウディアは「貴女……」と呆れたように目を眇めた。


「それでよくお返ししようだなんて言えたわよね……まさか、私の誕生日にプレゼントをくれたときも、そんなことを考えていたの?」


 私は、その年のクラウディアの誕生日に、彼女の黒髪に映えるような、碧玉の髪飾りを贈っていた。特段に高価というわけではないけれど、決して安い買い物ではなかった。クラウディアもそれを理解しているはずだ。先の私の言葉を考えるならば、私自身は相当なをしているということになる。

 けれど。


「いいえ、貴女は別。特別」


 大切な友人に、そんなことを思うはずがない。

 中間試問では厚意で試験範囲を教えてあげようと思ったし、なんならその後、ファザーン卿が貶めたクラウディアの名誉を守るため、私は狩猟祭に参加する羽目になるのだから。

 しかし、そこに純然たる真心以外の感情が全くないのかと訊かれたら、そんなことはなかった。


「私のことを、もっと好きになってほしくて」


——結局、クラウディアは私を好きになるどころか憎むようになり、あの春の顛末を迎えてしまうのだけれど、フィデリオの言うところでは、私は誰かを真摯に愛することなんてできないのだから、愛されなくて当然だったと言える。

 愛しているからといって、もっと好きになってほしいからといって、なにかを与えてやれるわけじゃない。

 奪って、謀って、陥れて、傷つけて、そういうことのほうが得意だった。ずっとしてきたことだから。

 貧しく卑しい己から、なにも奪われたくないのだ。私にとってなにかを与えることとは、元より少ない己の取り分を差しだすことに等しかった。己を切り売りしているみたいで、まさしく身を切り裂かれるような心地がした。

 時を遡ってからも、猫を被っていたからこそ、そのように振る舞うからには相応の見返りを求めた。心を砕いて差しだせば、それは自ずと返ってきた。

 上手に生きてゆくすべを覚えたと言える。誰からも愛される、フェアリッテをお手本にして。

 誰にでもなんにでも与えてしまえるのがフェアリッテだとしたら、誰からもなんでも奪えてしまえるのが私だ。

 そういう本性だ。

 彼女のあずかり知らぬところであらゆるものを貶めてやった。なにも知らずに無邪気に咲く花に、水を遣るかのように。その根元に死骸を埋めて隠すかのように。

 けれどこれは、そうやって、下手くそに愛するよりは、上手に傷つけてしまおうと思ったことへの——畢竟ひっきょう、道理だったのだろうか。

 上手くやれない私の、当然の顛末だったのだろうか。






 前夜祭、狩猟祭ときて、疲れが溜まっていたのかもしれない。後夜祭の朝、目を覚ますと、それはもう朝と呼ぶには遅い時間帯になっていた。

 時計を見てびっくりしたときには部屋には誰もいない様子で、静かな空間でチクタクと針だけが音を刻んでいた。

 窓から差しこむ光の高さに、そんなに眠ってしまっていたのかと、少し焦った。ただ、眠りに就くのが遅かったから、寝すぎたというよりは、じゅうぶんな睡眠を摂るために起床が遅れたというほうが適切だった。

 息をついてベッド際のテーブルを見遣ると、小さな紙の書き置きを見つける。


「……“昨日の狩猟祭で疲れているみたいだったから、起こさないでおいたわ。私たちは先に後夜祭の準備をしているから、準備が整ったらいつもの部屋に来てね。パトリツィア”……」


 なるほど、パトリツィアが気を遣ったようだ。でなければ、こんな真昼も近い時間帯に目覚めることなんてありえないもの。

 ベッドを出て洗う、鏡に映った私の顔は、酷い色をしていた。

 昨日の狩猟祭では、ディアナの命を奪うどころか、邪魔をすることさえできなかった。

 その結果、ミットライトが狩猟祭における名誉を賜ることとなった。

 挙げ句、フィデリオにこれまでの作戦をばらしてしまうなんて。彼自身、誰かに言いふらす気はなさそうだけれど、とんだ失態だ。

 フレーゲル・ベアは一向に返ってこない。

 沈んだ足取りで洗面所を出て、身支度を整えていると、コンコン、とノックの音が鳴った。

 パトリツィアが迎えに来たのだろうか。

 私が「はい」と答えると、おもむろに扉が開いた。

 部屋に入ってきたのは、カトリナだった。


「……起きたのね、プリマヴィーラ」


 カトリナは私の姿を見つけて、ぎこちなく、けれどたしかに微笑んだ。その両手には銀のトレイを携えていて、湯気の立つ珈琲コーヒーとベーグルが乗っていた。


「朝食がまだだと思って」


 そう言って、カトリナは私のベッド際まで運んでくれた。私は目を瞬かせる。


「私のために、わざわざこれを?」

「ええ」

「そうなの……優しいのね」


 お礼を言うべきかと思って、しかし、やめた。

 彼女もそれを求めはしなかった。ただ、控えめな態度でテーブルへと乗せる。

 私はそれを見て、贖罪のつもりかと薄く目を眇めた。

 カトリナが私のフレーゲル・ベアを盗んだのだということは、ディアナからとうに聞いている。友人の優しさと受け取るには、彼女の様子はあまりに後ろめたそうだった。

 カトリナのチョコレートのような瞳が細められ、睫毛に埋もれた。そんな目の下には、小さな隈があるように見えて、その不甲斐なさに苛々した。

 貴女も眠れない夜をすごしているのね。罪悪感を抱くくらいなら、初めからやらなければいいのよ。中途半端に同情して、それが不快だと思わないの?

 思わないのだろう。私がフレーゲル・ベアを盗んだ犯人を知っていることを、彼女は知らない。私が己を信じこんでいると思い、いまでもルームメイトの友人のふりをしている。

 それが気に食わなくて、なのに、言葉が出てこなかった。

 トレイの上の珈琲コーヒーも、甘さの控えたベーグルも、私の舌に合わせたものを持ってきているのがわかって、どうしようもない気分になる。

 カトリナは俯きながら、汗ばんだ声で言う。


「……あ、あのね、プリマヴィーラ。ごめんなさい、私、貴女に謝らなくちゃいけないことがあって、」


 私はなにも言わなかった。

 ただ、彼女の強張った顔を見つめる。

 カトリナは一寸、物も言わぬ私に怯んだようだけれど、たちまち口を開き、強く言った。


「あ、貴女の、フレーゲル・ベアを、大事なものを盗んだのは、私なの」

「…………」

「ごめんなさい。あれが貴女の大事なものって知っていたのに、ううん、知っていたから、盗んだの。そうすれば……その、ブルーメンブラット派閥が不利になるのではと思って」


 謝りながらも、彼女はディアナ・フォン・ミットライトの存在を口にはしなかった。わざわざ主犯の罪まで被らなくともよいのに、ディアナに唆されたのだと言えばよいのに、口にしないことで庇っているのだろう。

 カトリナはディアナを裏切れないのだ。

 裏切るとしたら私だった。

 こうして謝罪していることすらも一つの計算のように思われた。隠し立てをされることで、カトリナの言葉に意味がなくなってゆく。

 もう一度「ごめんなさい」と言って俯くカトリナに、告げる言葉が見つからない。

 いっそなじってやってもよかったのに、貴女のせいで夜も眠れないのよと罵声を浴びせてもよかったのに、それらが思うように出てこない。

 時を遡る前、彼女は私を嫌っていた。時を遡ったあとも、初めは私を軽蔑していた。

 たまたま、偶然にも、どういうわけか、上手くいっただけ。

 初めからわかっていたはずだった。彼女のことなんて、ただのルームメイトだと、思っていたのに。


「……私、貴女やパトリツィアに、名前で呼びたいと言われて、嬉しかったみたい」


 ぽろりとこぼれた言葉は、所詮、そんなものだった。

 私を友人と親しんでくれるひとなんて、これまで一人しかいなかったから、だから、思っていたよりもずっと、私は二人に気を許してしまったのかもしれない。


「許すんじゃなかったわ」


 私がそう言うと、カトリナの顔が歪んだ。肩や喉を震わせて、「ごめんなさい」と漏らす。

 そんな彼女へと、私は淡々と返す。


「いいのよ。それで? 私のフレーゲル・ベアは返ってくるの?」

「それは、」いくつかの間を置いて。「……わからないけれど」

「わからない? どうして?」

「……ごめんなさい」


 いっそ言ってくれ。ディアナのせいだと言ってくれ。

 貴女が謝れば謝るほど、私の心は空虚になっていくのだ。貴女の心は私にないのだと感じて、どんどんなにも望めなくなるのだ。

 私は「そうなの」と囁き、首を傾げた。


「だったら……代わりに教えてくれるかしら。まだ私のことを友人だと思ってくださるなら、どうか教えてくださらないかしら。裏切るのってどういう気持ちなの? 私、まだわからないのよ。生憎あいにくと、裏切られた覚えしかないものだから」


 ただ本当に教えてほしかっただけなのに、責められたと思ったのか、カトリナは何度もごめんなさいと呟くしかしなかった。

 答えを聞くことこそなかったけれど、彼女の蒼褪めた顔色に、いまにも泣き崩れそうな眼差しに、最悪に最低を煮詰めたような表情に、そういう気持ちなのだろうと知れた。

 前もって知れてよかったと思えた。

 覚悟を持てた。


「……朝食、用意してくれて申し訳ないのだけれど、いま、お腹がすいていないのよ。持って行かせてもらうわね。それじゃあ、貴女も、後夜祭がんばってね」


 銀のトレイを持って、私は部屋を出る。

 カトリナからの返事はなかった。






 フェアリッテたちが作業をしている部屋につくと、忙しなく手を動かしている彼女たちが顔を上げて迎えてくれた。


「おはよう。よく眠れた?」


 パトリツィアが私を気遣うように声をかける。

 ヴォルケンシュタインやグラーツたちも「昨日は疲れたでしょう」と労ってくれた。

 タピスリの修復をさぼった相手に、なんという歓待だろう。

 フェアリッテは私が朝食を持っているのを認めると、そっと微笑む。


「食事も摂らずに来てくれたのね。作業への合流はそれを食べてからにしましょう」


 カトリナに言ったことは本当で、目覚めたばかりでお腹もすいていないので、間を開けてから食べようと思っていたのだけれど、フェアリッテに誘導され、パトリツィアたちに温かく見守られては、首を振ることもできなかった。

 私は遠く離れた作業台にトレイを置く。

 タピスリの修復は滞っている様子だった。さすがに一日で修復することは難しかったらしい。後夜祭の始まるぎりぎりまで作業をするつもりらしいが、きっと、間に合いはしないだろう。

 それを彼女たちも悟っているのか、本来の意匠デザインとは違うものに仕上げていた。引き裂かれる前のを捨て、へと目標を定めたのだろう。

 パトリツィアは手を動かしながら、私のほうを見て言う。


「昨日はお疲れさま、プリマヴィーラ。貴女たちの狩った獲物、素晴らしかったわ。大変だったでしょう」

「そうです、見事でしたわ!」とリューガー。「きっと私たちの代わりにがんばってくださったのでしょうね。ありがとうございます」


 そのような言葉で迎えられて、やはり驚いてしまう。

 私は「私を責めないのですか?」と聞いてしまった。


「責めるって、タピスリの修復から抜けたことを?」首を傾げたのはグラーツだ。「この状況では、プリマヴィーラ嬢の判断が最適でしたもの」

「タピスリがこうなってしまった以上、挽回するには狩猟祭で功績を上げるしかないわけだし……狩猟の得意なプリマヴィーラ嬢の適所はそちらだったと思います」ヴォルケンシュタインも晴れ晴れとして告げた。「だからこそ、昨日の結果は残念でしたわね……あっ、もちろん、プリマヴィーラ嬢のほうが気に病まれているとは思うのですが! ミットライト嬢の獲物は、本当に、素晴らしかった……勝てなくて悔しいです」


 昨日の朝、フェアリッテと話したときは困惑されたから、きっとみんなもそうなのだろうと思っていたのだが、意外にも容易に受け入れられ、肩透かしを食らった。

 むしろ、柔軟に対処しても勝利を得られなかったことに、もどかしさを覚えている様子だった。

 たしかに、タピスリの修復も難しく、狩猟祭でもミットライトが勝利を収めた以上、ブルーメンブラットは王太子妃争いで後れを取ったと言える。

 私はフェアリッテを見遣る。

 フェアリッテは花咲く瞳を曇らせていた。


「……そういえば、意匠デザインを変えたのね」

「え、と、そう、そうなの!」フェアリッテは言葉を絡ませたけれど、ぱっと顔を明るくした。「前のとおりにするには難しいかな、と思って。でも、これはこれでいいでしょう?」

「一度施した処理をもう一度やるのって心が折れるものね……」ヴォルケンシュタインは遠い目をして言った。「それよりは、新しい図面で取り組むほうが前向きになれるわ。この意匠デザインも、フェアリッテらしくてかわいいし」

「見て、プリマヴィーラ。一昨日の夜に手分けして作った花飾りと一緒に、生花もあしらうことになったのよ。素敵だと思わない?」

「これはエミーリアのアイディアよね」

「ええ。せっかくだから、もっとアレンジを加えてもいいと思ったの。今夜の後夜祭までになんとか完成させましょう!」


 彼女たちがきらきらと話しているのを、私は珈琲コーヒーを飲みながら聞いていた。

 作業台に折り重なった、金盞花キンセンカ雛菊デイジー、アネモネの花が、タピスリの折り目に結ばれていく。

 窓辺から差しこむ陽光に温まり、花々を指で取りながら、くすくすと笑う彼女たち。まるで春を告げる妖精のようだった。

 そんなのどかな光景に、ぼんやりと見入っていた。


「あら、もうお花がないわ」


 そのうち誰かが呟いた。

 朝食を終えたところだったので、「私が摘みに行ってきましょう」と提案すると、フェアリッテも立ち上がり、「私も」と言った。

 私とフェアリッテは部屋を出て、校舎の廊下を渡り、植物園のあるほうへと足を向ける。

 学校の敷地内にある植物園は、生徒に向けて常時開放しているのだ。園芸部の者たちで管理しており、あらかじめ許可を取っていれば、その花を摘むこともできる。

 白亜と硝子でできた、大きな鳥籠のようないでたちをしたのが、植物園だった。

 私とフェアリッテはその戸をくぐり、目に見えたアネモネの咲く花壇を目指した。


「綺麗ね」


 言うでもなく呟いた私の言葉に、フェアリッテは「そうね」と答えた。


「ヴィーラは、植物園にくるのははじめて?」

「ええ。リッテも?」

「私も、今朝、エミーリアと一緒に、はじめて。一年半もこの学校に通っていたのにね」

「敷地は広いもの。それに、園芸部以外はほとんどここに来る用なんてないでしょう」

「植物園の中央にはテーブルや椅子があるのですって。そこでお茶会できたら素敵よね」フェアリッテがこちらへと向く。「後夜祭が終わったら、お祝いに、みんなでお茶をしない? この植物園で」


 フェアリッテの言うは、決して勝利を意味するものではないのだろう。ただ、三日間よくがんばったと、互いの功を労うためのものだ。

 だから、私も「そうね」と言った。

 それにフェアリッテはにっこりと笑み返した。

 広がるのは、赤や白や紫のアネモネだ。花壇の前に膝をつき、私たちは一輪ずつ手折っていく。どれも美しく、私たちのタピスリにも映えると思われた。

 茎から漏れる毒で皮膚が焼けないよう、そばにあった水瓶で丁寧にゆすいだ。一輪、また一輪と抱えていくと、フェアリッテが口を開いた。


「ヴィーラ……昨日はごめんなさいね」


 貴女まで私に謝るのかと心中で驚いた。

 その気持ちは声に乗った。

 私は「どうして謝るの?」と首を傾げる。


「狩猟祭へ行く貴女を引き止めちゃった」

「それはそうでしょう。リッテが驚くのも当然だわ」

「でも、貴女だって狩猟祭を楽しみたかったでしょうに」

「……前夜祭のタピスリを編むのだって、楽しかったわ」


 私がそう言うと、フェアリッテは目を丸くして、たちまち「私も、楽しい、楽しかったわ」と囀るように言う。けれど、その緩んだ顔をみるみる暗くして、「でも、」と物憂げに俯いた。


「みんなは、どうか、わからない。前夜祭ではあんなこともあったし。みんな、楽しいのではなくて……私を応援したいから付き合っているだけなんじゃないかって、考えてしまうのよ」


 金色の揺蕩たゆたうヴェールに憂いの目を潜ませる横顔を、私は見た。

 きっと、前夜祭の準備中、彼女は事あるごとにそんなことを考えていた。いや、おそらくそれよりも前から、たとえば学期末試験の試験勉強中や、どころか夏休み、アウフムッシェル邸に集められたときから。

 己を次期王妃へと推す者の志の熱に、冷めた私と同じくらい、あるいは私以上に、火傷を負っていた。

 フェアリッテ・フォン・ブルーメンブラットこそ王妃になるべく器だと讃えられているというのに、本人にはその自信がない。夏休みに開かれた夜会でも言っていた、私なんかがなっていいのかと。


「ミットライト嬢はね、あのように聡明でいらっしゃるから、まつりごとについて殿下と話すこともあるのですって。去年の狩猟祭ではね、殿下は、彼女に狩りのを教わっていたのよ。私はボースハイト嬢とは話が合わないことが多いのだけれど、殿下とはよく王都での流行についてお話しているみたい。タピスリも洗練されていて、見事だったものね。私はこれまでずっと辺境の地にいたから、王都の流行なんて知らない。華やかなボースハイト嬢からしてみれば、私はきっと田舎者なんだわ」フェアリッテは苦笑する。「お二人のするようなお話を、私は殿下とはできないのよ」


 金銀宝石や異国情緒とは離れた辺境、一年を通して薔薇の香る邸で、フェアリッテは育てられた。

 私からしてみれば、それだけで誇らしい。なにを臆することもない。決して低度でない教育を施され、可憐が人の形を取ったような美貌を持ち、誰からも親しまれる心映えへと育まれた、花のひと。


「殿下が、私を選ぶかは、わからない」


 そんな彼女は、嫋やかな恋を前にして、すっかり萎れているのだ。

 本当にしょうもない。まだ言うのかと、私の呆れは顔に出そうになっていた。

 恋をした人間とはこれほど厄介なのか。思い当たる節がもう一人いて、恋なんて最悪だな、と思うなどもする。

 どうしてそこまで思い悩めるのかが不思議で、その疑問はついに口からこぼれ出た。

 

「リッテはそんなに自信がないの?」

「あるほうがどうかしてるでしょう」

「なるほど。ボースハイト嬢やミットライト嬢はどうかしていると」

「もう、そんなことは言ってないわ!」

「話さないだけで、まつりごとの話もお洋服の話も、しようと思えば貴女だってできるでしょう。むしろ、リッテと殿下はいつもどんな話をしていたの?」

「どんなって……他愛もない話よ? 好きなものの話とか、心に残ったこととか」


 赤いアネモネの花を摘みながら、「たとえば?」と私は促した。


「たとえば……殿下は、ラズベリーソースのかかったローストビーフが好きなのですって。豚肉も好きだったけれど、昔、兄妹揃ってあたってしまったらしく、それからは三方とも、怖くて食べられなくなったそうよ」

「待って、リッテ、そんなことを殿下から聞いているの?」私はフェアリッテを見遣る。「王室の食の嗜好なんて、極秘事項と言っても過言ではないわよ?」

「でも、殿下はなんでもないように言ってくださったわ。それから、私が、サワー煮が好きだと言ったら、自分もそうだと言ってね。そのまま二人で一緒に食堂のシェフへかけあったのよ。メニューにサワー煮も加えてくださいって」

「殿下は食いしん坊なの?」

「ふふふ、おやつはなるべく控えていると言ってらしたけれどね。あとは、アインハルト殿下やヴィルヘルミナ殿下のお話もよくされるわ。意外だけれど、アインハルト殿下とはたまに兄弟喧嘩をされるそうよ。でも、二方とも、ヴィルヘルミナ殿下には頭が上がらないのですって。一度怒ると癇癪玉のように手がつけられなくなるとか」フェアリッテは楽しそうに口元へ手を遣る。「あんなに気品のある方をそのように言うのよ。おかしいでしょう? とても仲のいいご兄妹なのね。私も、居ても立ってもいられなくなって、ヴィーラとフィデリオの話をしたのよ」


 そこで、腹違いどころか赤の他人である私と、従兄弟のフィデリオを引き合いに出したのは、よくわからない発想だけれど、フェアリッテは実に楽しそうだった。

 恋しい相手と話すことは、そのように楽しかったのだろう。


「私が話しはじめると、なんだいって笑ってくださる殿下が、かわいいの」


 照れくさそうにはにかんで、フェアリッテはその頬を薔薇色に染めた。いまにも蕩けそうな睫毛は、恥ずかしさからか、わずかに潤んでいるように見えた。

 たしかに殿下は優美な見目をしていらっしゃるけれど、笑っただけでかわいいなんて、そんな話があるだろうか。あるのだろう。それほど相手に恋焦がれているから。

 そして、また、その相手も、己に恋焦がれてくれているから。


「リッテのことが特別にかわいいから、そんな貴女を見る殿下も、特別にかわいく見えるのでしょうね」


 少し考えればわかりそうなものなのに、確信できることなのに、それでもフェアリッテは首を振った。そんなはずはないと否定した。


「いいえ……私が浮かれているだけよ」

「そんなことないと思うけれど」

「ううん、わかってるの……貴女も言っていたでしょう? 今は繊細な時期だもの、殿下は王太子妃候補とは分け隔てなく接する義務があるのよ。タピスリのときだってそう。ミットライト嬢やボースハイト嬢のところにも出向いたから、私のところにも来てくださっただけ……私だけ特別というわけではないんだわ」


 特別でないのはミットライトやガランサシャのほうなのに。貴女がなんと言おうと、殿下にとって貴女は特別なのに。

 言いたいことはたくさんあったし、いい加減にしろとも吐き捨ててやりたくなったけれど、それよりも私は、かつて私の放った言葉をフェアリッテがそのように誤解していたことに、衝撃を受けていた。

 私はアネモネを持つ手とは逆の手で額を押さえる。だから、あのときフェアリッテの反応が芳しくなかったのかと理解したのだ。そのせいで、こんなしょうもない堂々巡りに付き合わされているらしい。遠くへ気を遣りそうになって、寸でのところで持ちこたえる。


「……ごめんなさい。言いかたが下手くそだったみたいね」

「ヴィーラ?」

「私が言いたかったのはまったくの逆よ。分け隔てなく接する義務があるから、ミットライト嬢やボースハイト嬢のところに出向いたのよ」

「えっ?」


 私は額に遣った手を下ろし、驚いているフェアリッテを見据えた。


「だって、考えても見て。二人のところへわざわざ出向いて殿下がしたことといえば、タピスリを褒めるだけなのよ? 社交辞令となんら変わりないじゃない! 貴女といたときなんてもっと別の話までしていたのに」

「でも、それは、お二人のタピスリよりも私のものが目劣りするからじゃ、」

「いいえ。タピスリよりももっと貴女と話したいことが殿下にはあったのよ。だって、貴女と話をする殿下は楽しそうだった」


 だから、私はあのとき二人を送りだしたのだ。らしくもない気まで使って、二人の話す時間が少しでも長くなればと考えたのだ。


「気が合って、話していたら楽しくて、そんな姿が特別にかわいくて、それでじゅうぶんだと思うの。他愛もないって貴女は言うけれど、私は、あの二人と殿下が話した内容よりも、貴女と話した内容のほうが、愛のあるものだと思うわよ」


 愛しあうに決まっている。結ばれるに違いない、お似合いの二人なのだから。

 それはこの世で誰よりも、かつて憎悪から二人の関係を壊そうとまでした私が、一番よく知っている。


「誰よりも賢くても、狩りや刺繍が上手でも、華があっても、名声があっても、妃を選ぶのは殿下よ、関係ないわ。貴女が殿下を好きなように、殿下にも貴女を好きになってもらえばいいのよ。もしかしたらその方法が、試験や狩りやタピスリかもしれないっていうだけで、その方法で上手くいかなかったなら、別の方法で好きになってもらえばいいんだし」そうしているうちに、口が滑る。「私は……」


 滑ったものが舌に乗った途端、その重さに私は顔を俯かせた。下ろした目線の先で、膝の上で折り重なったアネモネの花束の中、茎の短いものを見つける。赤いアネモネ。

 おもむろにそれをすくいあげて、そばで目を見開かせるフェアリッテの耳元へと差してやれば、私の唇から宙へ、ようやっと言葉が放たれる。


「私は、貴女が賢いから、刺繍が上手だから、華があって評判がよいから、貴女を愛しているわけじゃないわよ。フェアリッテ」


 如雨露で水を遣られたように——その花咲く瞳が、瑞々しくきらめく。

 ややあって、それに表情が追いついた。唇を震わせながら、彼女が短く息を切る。首にすら朱を散らして、フェアリッテははらはらと涙を流したのだ。

 その姿に私が目を丸めたころ、フェアリッテは言葉を紡いだ。


「……ありがとう、ヴィーラ」


 ありがとう、と譫言うわごとのようにか細く重ねるフェアリッテの声は、いまにも滲んで融けてしまいそうだった。

 いまだかつてこのように泣かせたことがなくて、私は狼狽えて硬直する。

 そんな私にもお構いなしに、けれど、きっと私へと、フェアリッテは思いの丈を告げるのだった。


「私……私ね。王妃の地位も、大勢のひとからの名声も、いらないの」


 彼女を支持する者たちが必死にしのぎを削りあっているというのに——夜な夜なパーティーに参加して人脈を広げようと、支持を固めようと、学年主席の才女を下そうと、狩猟祭で誉れを得ようと、持ちうるだけの知と財と力を費やしているというのに——それを無下にするような血も涙もないことを言ってのけるフェアリッテの、それでも涙に震える言葉は、痛いほどにきらきらとしていた。


「あのひとからの愛が欲しいの」


 彼女の望みの言葉は、苦しいほどに私の胸に刻まれる。

 

「……ええ、知ってるわ」


 貴女が言うように、私と貴女は、同じものに胸をときめかせるようだから。

 他のものはいらないから、ただそれだけが欲しいから。

 それだけを願うだけには途方途轍もないひとに恋をしてしまったけれど、でも、そんなのは関係ないくらい、愛おしいのだからしょうがない。


「だから貴女を応援しようと思ったんだもの」


 しょうもないけど、しょうがない。

 私はそれを、叶えてあげたくなったのだ。

 いつまで経っても泣きやまないフェアリッテに「ほら、もう」とハンカチを差しだした。

 目尻から滲む彼女の涙は、冬の光の月の日差しに彩られて、無色透明の宝石のように輝いている。

 ただ純粋に、それが綺麗に思われて、私は力なく目を細めた。






 黄昏を終えた刻に、後夜祭は始まった。

 タピスリの修繕をなんとか終えた令嬢たちは、疲労と達成感からか目を潤ませていた。

 本来ならば、いまよりもっと晴れ晴れしい気持ちになれただろうに、笑顔の純度が乏しいのは、前夜祭のことがあるからだろう。

 後夜祭で聖堂に展示されたタピスリのほとんどは、の仕上がりで、前夜祭で披露するはずだったものを完成品とするならば、満足のいかないものばかりだったはずだ。

 ただ一つ、ガランサシャのタピスリを除いて。

 輝いていた。どれだけ労を惜しまなかったのか、無惨な裂け目を見事に繋ぎ合わせ、前夜祭での姿よりもより一層豪奢に宝石たちが煌めいて、まるで輝きの大合唱だ。

 マイヤー侯爵家での夜会で披露された、ガランサシャの歌声がまぼろしく聞こえる。福音。己のものが一番だと、その喜びを讃えるかのような、実に素晴らしい出来栄えだった。


「完敗ね……」パトリツィアが力なく首を振った。「あんなの、勝てっこないもの。前夜祭で台なしになったとは思えないくらい素晴らしいわ……職人でも雇ったんじゃないの?」

「ありえるわ」頷いたのはヴォルケンシュタインだ。「のやりそうなことでしょうよ。職人を雇ってでもしないと、こんな仕上がりにはならないもの」

「こら。聞こえるわよ」窘めたのはグラーツだ。「誰がなんと言おうと、ボースハイト嬢のタピスリが、この場で一番見事だわ。捕らえた獲物を捧げる運命ファタリテートへ捧げる後夜祭に、あのタピスリはふさわしい……」


 聖堂の最奥、運命ファタリテート偶像イコンの置かれた祭壇上には、ディアナの捧げた供物が置かれ、ガランサシャのタピスリが天幕として張られている。

 誰の目にも明らかな、ミットライトとボースハイトの功績であり、ブルーメンブラットの敗北だった。

 供物を捧げる儀式のあいだ、フィデリオやギュンター、タピスリを織ったヴォルケンシュタインは、苦渋の表情でそれを見ていた。クシェルまでなんとも言えない様子でいる。

 一方のガランサシャは、真っ白い顔を金粉でも振ったかのように輝かせており、少し離れたところでは、ディアナが涼しい顔で、ささやかな笑みを湛えていた。

 ベルトラント殿下は「よい狩猟祭になった」と手を叩く。

 フェアリッテも、堂々と胸を張りながら、喝采の拍手に交ざって手を叩いていた。

 教師たちの挨拶も終え、後夜祭は幕を閉じる。

 私たちは、聖堂の壁に掛けられた、自分たちのタピスリの前に集まり、「がんばったわよ」と慰めあっていた。


「ぎりぎりまで作業した甲斐があったわ」フェアリッテは胸に抱える裁縫道具を縦に揺さぶる。「前のもよかったけれど、これも素敵なタピスリになったもの。やっぱり、みんなとタピスリを織れて楽しかったわ」

「もう、本当に暢気なんだから」グラーツは苦笑する。「私たち、負けたのよ? しかも、ミットライト嬢とボースハイト嬢はそれぞれ栄誉を賜って……こんなのじゃない」

「悔しい!」ヴォルケンシュタインは腕を組む。「前のタピスリなら、絶対に勝てたはずなのに!」

「それはわからないけれどね」

「なによ、エミーリア。私たちの努力が踏みにじられたのよ」

「ここにいる令嬢たちはみんな一緒でしょう。私は……フェアリッテの言うとおり、このタピスリを作っているときも、楽しかったって思うわ」


 リューガーが視線を上げる。私も、壁に掛けられたタピスリを見た。

 色とりどりの花々が咲き乱れる、春の訪れのような出来栄えだ。

 糸に施した香水がまだかすかに薫っており、まるで花びらで織られたよう。

 火灯りを反射して閃く螺鈿も、直前まで縫い合わせていたタッセルも、味わい深く、またとない一品となった。

 そうしていると、フィデリオとギュンターもその輪の中に加わった。ヴォルケンシュタインはフィデリオの蜂蜜色の瞳に色めき立ち、そんな彼女をグラーツが窘めていた。フィデリオは「いいタピスリだね」とフェリアリッテに声をかける。フェアリッテも誇らしげに微笑んだ。


「あら、ブルーメンブラット嬢、なんだかとても楽しそうね。ご自身のタピスリが選ばれなかったというのに」


 そこに水を差したのは、ガランサシャの声だった。

 振り返ると、雪のように冷酷に微笑む彼女の姿があった。黒々とした髪を流麗な動作で払って、フェアリッテへと向き直る。

 グラーツは「なんですって」と低くこぼしたが、それを凌駕する尊大な態度でガランサシャは「なんでしょう」と視線を遣った。臆したグラーツを鼻で笑ったあと、ガランサシャは再び口を開く。


「ねえ、ブルーメンブラット嬢、ご覧になったかしら? 私のタピスリは」

「……ええ、もちろんです。ボースハイト嬢。実に見事なタピスリでした。供物を彩るにふさわしい品でしたわね」


 フェアリッテは落ち着いた様子で受け答えをする。そんなフェアリッテの称賛にも、ガランサシャは「当然でしょう」と突っ返した。


「この日のために、ずっと準備していたんですもの。狩猟祭を飾る栄誉を賜れて、本当に光栄だわ。ねえ、貴女もそう思うでしょう? ミットライト嬢」


 ガランサシャは、少し離れたところにいたディアナにも目を遣った。

 ディアナは信者たちの輪の中心にいながらも、こちらの会話を聞き取っていったようだった。

 突然話を振られたというのに、ディアナは控えめに微笑んで、「ええ、そうですね」と言葉を返す。


「それに引き換え……残念よね、ブルーメンブラット嬢。タピスリの出来も、獲物の質も、どちらとも奮わず、さぞかし悔いの残る結果となったことでしょう。純粋な力不足ということだし、しょうがないけれど」ガランサシャは意地悪く微笑み、口元に手を遣る。「私が貴女なら、きっと恥ずかしくて、この場から逃げだしてしまいたいくらいなのに! ブルーメンブラット嬢は勇気がおありなのね!」


 じっとりとした空気の中、小さく笑ったのは、おそらくボースハイト派閥の令嬢や令息たちだろう。毒素に侵されたような苦々しさに、フィデリオやギュンターは顔を顰める。ミットライト派閥は笑みこそ含まなかったけれど、ただこの場を傍観していた。彼らを統べるディアナも同様だった。

 周囲に見守られながら、しかしフェアリッテは、毅然とした様子で笑んでみせた。


「そうですね。私はボースハイト嬢のような秀でた技術もなければ、ミットライト嬢のような狩りの腕前もありません。しかし、思いがけないことの多かった今年の狩猟祭も、やはり楽しいものでしたもの。この場から去りたいとは思いませんわ」フェアリッテは笑んだまま、首を傾げる。「大好きな友人たちと素敵なタピスリを織れたことが、よい思い出でなくて、なんだと言うのでしょう?」


 パトリツィアやリューガーの痛烈な瞳が、いままさに拍手でも贈りたいとでも言うように、フェアリッテへと注がれていた。彼女として、完璧な返しだ。しかし、それを、悪意の塊であるガランサシャは歯牙にもかけない。


「恥よ。そんな田舎臭いタピスリを見せびらかすなんて、それ以外にないでしょう」


 なんですって、と声を荒げたのはヴォルケンシュタインだ。それを宥めたグラーツも、怒りによって唇を噛みしめていた。いまにもガランサシャに飛びつきそうな様子だ。分が悪いと前に出たのはフィデリオだった。


「ボースハイト嬢。ご自身の趣味と異なるものを貶める行為は、品性に欠けますよ」

「あら、アウフムッシェル卿。昨日の狩猟祭ではお疲れさまでした。よい獲物は捕まえられましたか?」失礼、と肩を竦める。「祭壇の上にある供物を見ればわかりましたわね。わざわざ尋ねてしまってごめんなさい。お気を悪くなさらないで?」


 ガランサシャは真正面から話を取り合う気はないのだ。

 勝者として、敗者を嘲笑いに来ただけ。

 ただ、ブルーメンブラットの者を嬲ることができれば、それでよいのだから。

 横暴なガランサシャの態度には、さすがのミットライト派閥の者も顔を顰める。侮蔑の目で彼女を見つめ、「なんと卑劣な」「まるでミットライト嬢を利用するように」とこぼしていた。己を引き合いに出されたとあっては、ディアナも黙ってはいられなかったのだろう。静かな声で「ボースハイト嬢、」と口を開く。


「そういえば、貴女の弟君も、狩猟祭に参加されたそうですけれど」

「ええ、そうなんですの」ガランサシャは、そのときばかりは純粋に、少しだけ嬉しそうにして言った。「生意気だけれどね、私のためなんだと張り切っていたのよ。家族思いな弟で、私も幸せです……本当に、応援してくださる方々に恵まれました」


 おそらくディアナは、狩猟祭で結果を出せなかったのはお前も同じだろう、と指摘したのだろうけれど、ガランサシャはそれに気づかなかった。まさかあの聖女が自分を皮肉るなど考えもしなかったのだろう。結果、ガランサシャは聖女まで味方につけたかのような傲慢さで、再びフェアリッテを罵倒したのだった。


「ブルーメンブラット嬢を応援する方々は、みんな斯様かように頼りないのかしら。お可哀想に。貴女と仲がいいというその姉妹だって、なんの役にも立たないのでしょう? 類は友を呼ぶとも言いますし、周囲の者は己の鏡ですもの。周りの不出来はご自身の不出来と省みられては? そのタピスリとご一緒に」

「——ガランサシャ嬢」


 と、彼女を鎮めるよう声をかけたのは、ベルトラント殿下だった。

 私たちは目を丸める。ガランサシャも少し驚いていたが、すぐに「あら、殿下」とお辞儀をして、殿下へと向き直った。そんな彼女に、殿下は笑みを浮かべず、しかし、強く突き放すこともなく、ただ宥めるように告げた。


「そのような物言いをするでないよ。この狩猟祭において、その力をふるわなかった者はただの一人もいないと、僕は思っているよ」


 殿下の声音は実に落ち着いたもので、まるで波風一つない湖面のように凪いでいる。けれど、決して弱々しいわけではない。人々の不安を均す風格、さすがは王族というべき威厳があった。普段は同級生として同じ学び舎ですごしている彼も、このときばかりは己がベルトラント・エーヴィヒ・アン・リーべであることを主張していた。ガランサシャを丸めることで、この場を収めようとしたのだと感じた。


「すみません、殿下。たしかに、言葉が悪かったかもしれませんね」さすがのガランサシャも分を弁えてはいたが、決して只では引き下がらない。「けれど、栄誉を賜った者として、私はこの場にいる誰よりも、己の技量を発揮したと自負しておりますわ。だからこそ、私のタピスリが選ばれた。私と、私を支持してくれた者たちとで、この日のために織ったタピスリが。そんな私たちと他の者たちとを比べれば、いささか批評が厳しくなってしまうのは、仕方のないことではありませんか?」

「たしかに、君のタピスリは見事だよ。何度も言うように、王宮にあってもおかしくないほど素晴らしい出来栄えだった。けれど、だからこそ、君のように技術のある者には、他の者たちの作ったものにも美点を見出してほしいと思う」殿下はフェアリッテのタピスリを見上げた。「見てご覧よ。このタピスリも童話をめくるように胸が躍るよ。野原や森を描いているんだろうね、よく見るとリスが、」


 そこで、殿下の言葉が止まった。

 殿下は類稀たぐいまれな碧眼を見開かせて、フェアリッテのタピスリを見つめている。

 ギュンターは「殿下?」とその顔を覗きこんだ。ディアナも静かになりゆきを見守っている。ガランサシャは少しだけ首を傾げ、「リスがどうされましたか」と尋ねた。


「……芥子の実をいっぱい頬張ったリスだ」

「はい?」 

「芥子の実を、いっぱい頬張った、リスがいる」


 驚いたように紡ぐ殿下は、フェアリッテを振り返った。フェアリッテは花咲く瞳を細めて、くすくすと笑う口元を両手で押さえ、「見つかっちゃった」とこぼした。そんなフェアリッテに、殿下は肩を落として笑う。


「これ、どうしたんだい? フェアリッテ」

「タピスリの修繕がちっとも進まなかったので」

「それで、リスを?」

「かわいいでしょう? あのとき、殿下と話したのを、そのまま施してみたの」

「よく見たら、その後ろにあるのはモーンクーヘンじゃないか! すごいな、気づかなかった。よくこんなふうに拵えたね。すっかり意匠デザインの一部になってる」

「美味しそう?」

「とても。僕もこのタピスリの中に入りたい」

「そう思って入れたのよ」

「え! どこに?」

「ほら、ここに、盾が」

「まさか輝ける盾ベルトラントだから? だから、この周りだけ、こんなにも螺鈿が散りばめられているの?」殿下は肩を震わせて笑った。「ふふ、嘘でしょう……そんな、剛剣アインハルト志のある兜ヴィルヘルミナまでいるじゃないか! 遊び心たっぷりだね!」


 和やかに笑うフェアリッテと殿下の姿に、張り詰められた空気が弛緩する。弛緩というより、停滞だ。時が止まった。他愛もない話に花を咲かせ、楽しそうに笑う二人に、二人以外の者たちはただの風景となってしまった。今この瞬間は、この二人のためだけにあるようだった。

 ガランサシャは愕然として、なにも言えずに立ちつくしている。ついさきほどまで、この場を収めようと王太子として振る舞っていた殿下が、フェアリッテの前では、ただの人になる。選ばれなかったタピスリ一枚で、少年のように笑っている。

 そのは圧倒的だった。

 王太子妃候補として、功績を上げるのは大事だ。地位を固めるのも大事だ。優秀であればあるほど素晴らしいのは言うまでもなく、隙がなければそれだけ望ましい。国の未来をかけた婚姻となるのだから、選ばれる令嬢にも格別の素養を求められる。

 だからこそ、フェアリッテが選ばれる。

 候補者は軒並み優秀で、皆一様になにかしらで功績を上げており、周囲からの期待も強く寄せられ、社交界でも評判の娘たちだ。多少の差異はあれど、三人とも等しく優れている。

 決定的に——圧倒的に違うのは、そこに心が芽生えているかどうか。

 愛の有無に他ならない。

 だから言ったのよ。しょうもないって。結果はわかりきっているって。ただ、ガランサシャもディアナも、に気づくのが遅かったみたいだけれど、

 二人の悔しがる顔を眺めてやりたくて、私は視線を逸らし——おぞましい瞳でフェアリッテを見据える、ディアナの姿を見つけたのだった。

 左右で色の違う両の眼が研ぎ澄まされる。灼熱を反照するような琥珀色アンバーに、息もできぬほど冷たい青灰色ブルーグレー。聖女と呼ぶには生々しく、人と呼ぶには神々しい、言葉にできぬような無表情。

 王太子妃になるのは私だと言った、あの夜の異形が、聖女の皮を突き破ろうとしている気がした。ディアナがその小さな唇を薄く開くのが、まるで呪詛を奏でるためのようにも見えた。そんな、嫌な予感がした。


「……こうして見てみますと、ブルーメンブラット嬢のタピスリも、実に素晴らしい出来栄えですね」

「やはり、ディアナ嬢もそう思うかい?」

「はい、殿下。だからこそ……不憫であり、痛ましくもあります。運命ファタリテートも嘆いておられますもの。ブルーメンブラット嬢の健気な努力を裏切るような、不届き者がいますことを」


 ディアナの突飛な発言に、この場にいる誰もが怪訝な表情をする。動揺が波として広がっていった。ガランサシャが「不届き者?」とディアナへと眇めると、ディアナは心を痛めたように「はい」と俯く。


「私も、一度は口を噤もうとしました。その者のおこないもまた運命であり、このように導かれたことも、同様に運命なのだと。私はただ私の成すべきことをするまでですから」

「おっしゃることがよくわからないわ。貴女はなにか知ってるのかしら?」

「ボースハイト嬢もおっしゃったられたでありませんか。栄誉を賜った者として、この場にいる誰よりも、己の技量を発揮した、と。私たちは栄誉にかけて、清く正しいおこないをすべきでした。純然たる己の力を磨きあうべきでした。しかし……悲しくも、そうでない者がこの中にいます」


 そう言って、ディアナが私を一瞥する。

 ばらす気だ——そう、私は確信した。

 あの二人の光景を見ただけで。見たからこそ。認めたのだ。フェアリッテこそが王太子妃に最も近しいと。そして、ついに手札カードを切ることにした。

 戦慄。あの夜の月光が、瞼の裏で閃く。心臓の打つ早鐘が、指先すら震わせる。恐れていたことがすぐ目前にまで迫っている。

 その清廉な微笑みがいやらしく研ぎ澄まされるのが見え、焦燥。

 ディアナは本気だ。本気でフェアリッテを潰そうとしている。先の学期末試験においての私の不正行為を糾弾し、それに伴ってブルーメンブラットを、フェアリッテを、王太子妃候補から引きずり降ろそうとしている。

 聖女の口を先に開かせてしまえば、言い逃れはできないだろう。

 たとえ、私が聖女の罪を糾弾し返したところで、誰も信じない。

 手札カードは切れない。

 私には、それを証明してくれるひとが、もういないのだから。


「——ねえ? アウフムッシェル嬢」


 だから。

 手札カードを切るのは、今しかないと思った。

 覚悟はできていた。

 ディアナに名指しされ、周囲の視線を一身に受けた私は、それを逆手に取るように笑みを浮かべてやった。


「……あらあら、さすがお優しいのね、聖女さま。最後まで口を噤んでいれば、貴女にとっても邪魔なフェアリッテを潰せたっていうのに」


 え、と声を漏らしたのは、いったい誰だったか。

 すぐそばにいたパトリツィアか、フィデリオか、ギュンターやグラーツたちかもしれないし、殿下かもしれない。唖然としているガランサシャや、予想外の出来事に狼狽したディアナ、あるいは、ジギタリウスのようなボースハイト派閥の者や、ミットライト派閥の信者たちかもしれない。

 いいや、本当はわかっている。ふわふわと覚束ない、なにが起きたかよくわかっていない様子で、「ヴィーラ?」と私を呼ぶ、彼女に違いないのだ。

 しかし、私はそれを無視して、滑り落ちた己の髪を、熱くなった耳にかける。


「悪くない状況だったのだけれどね。前夜祭でも狩猟祭でも、フェアリッテは無様な醜態を晒したわけだし。この後夜祭ではボースハイト嬢が甚振ってくださったから。まあ、あくびが出るほどぬるい手口だったけれど」

「……プリマヴィーラ嬢?」ガランサシャは警戒している。「突然どうしたのかしら。貴女がなんの話をなさっているのか、わからないわ」

なんて名ばかりね、という話よ。がっかりだわ。そんな大層な渾名あだなをいただいておいて、冷酷にもなれないなんて」嘲るように顎を突きだし、私は身を翻す。「教えてさしあげましょう。人を傷つけるときは、」


 フェアリッテの抱きかかえる裁縫道具から鋏を取りだす。突然のことに、フェアリッテの反応が遅れた。何事かと私の動作を追う瞳が、髪を掴まれた衝撃で揺れる。


「これぐらいやってもらわなくっちゃ」


 悲鳴を上げるのにもかまうことなく、私は、強引に引っ張った彼女の髪の房に、鋏を入れたのだった。


「っ、ヴィーラ!?」


 フィデリオが私を呼ぶのを、どこか遠くに感じる。ずっと羨んでいた眩い金髪がざくざくと切られていく感触は、見ている以上に衝撃だった。けれど、もう止めることなんてできない。呆然とするフェアリッテに見せつけるように、彼女のものだった長い髪を床に落としてやる。愉悦の表情をかたどった私に、息の飲む音が浴びせられた。


「信じられない……! 嘘でしょう……なにをするの!」


 ヴォルケンシュタインが、私から庇うように、フェアリッテの体を抱きしめた。そのまま私を強く睨みつける。殿下がそんな二人の前へと出た。無惨に切り落とされたフェアリッテの髪に、リューガーが泣くような悲鳴を上げた。グラーツとギュンターは信じられないものを見るような目で私を見ている。いや、誰も彼もが、私をそのように見ている。

 それらを一身に浴びながら、私は鋏を持つ手で口元を隠す。耳を澄ませば、かたかたと甲高く震えていた。その手に力をこめながら、「ずっと気に食わなかったのよ」と吐き捨てる。


かたや正妻の娘として本邸で育てられた彼女。かたや血の繋がらない人間の家で育てられた私。恨みも憎しみもなく仲良しこよしだなんて、そんなにきれいな話、あるわけないでしょう?」

「……プリマヴィーラ嬢、いったいどうしてしまったの……?」


 リューガーが涙ながらに訴える。そばかすの散った鼻筋が、ぐしゃぐしゃに顰められていた。リューガーに「そうよ!」と続いたのはパトリツィアだった。切に祈るような目で私を見る。


「貴女とフェアリッテ嬢は仲のいい姉妹だった! 貴女は、こんなことをする方ではなかった! それなのに……何故? 貴女は、本気で言ってるの……?」


 パトリツィアの瞳が揺れている。こんなことは信じられないと、私の暴挙を否定しようとしている。

 しかし、私は本気だ。

 それを知らしめるために、私はにっこりと笑みを返して、床に落ちたフェアリッテの髪を踏みつける。


「お父様に撫でられて育ったまばゆい髪が嫌い」


 踏みにじる。

 最後には、汚いものを放るように足蹴で追いやって、鬱憤を吐き捨てる。


「私を気安く呼ぶあどけない声が嫌い。自分だけ幸せなくせして私の気持ちを考えもしない馬鹿なところが嫌い。それをそのまま映したような花咲く瞳が嫌い。全部嫌いで憎らしい。ずっと思ってたわ。だから、仲良しなふりをして、裏切ってやることにしたの」群衆の中、唖然としているジギタリウスを一瞥して。「ボースハイトにつかないかと誘われて、絶好の機会だと思ったわ。ボースハイトが勝とうがミットライトが勝とうがどうでもよかったけれど。私はフェアリッテが落ちぶれてくれればそれでいいの。その暢気な幸せ面を二度と見れないようにしてやれれば、」

「ヴィーラ」


 そこで、フェアリッテが私を呼んだ――彼女は、殿下とヴォルケンシュタインの腕から身を乗りだして、縋るように私を見ていた。

 固唾を呑んで眺めていた者たちの目が、彼女へと向かう。彼女の震える姿を見守りながら、その言葉を待った。


「……嘘でしょう? 信じないわよ。貴女がそんなことするはずないもの」

「…………」

「だって、貴女は、私が賢くなくとも、刺繍が上手でなくとも、愛してくれるって言ったじゃない。私が貴女を愛しているように、貴女も、私を、」


 私は、持っていた鋏を、フェアリッテに向かって投げつける。

 短い悲鳴がいくつか響いて、けれど、フェアリッテが咄嗟に身を庇うよりも、鋏の刃が彼女へと触れるよりも先に、彼女の受けた《除災の祝福》がそれを撥ね退けた。

 飛ばされた鋏は宙を舞い、金属音を立てて床へと落ちた。

 あたりはすぐに動揺の吐息だけになった。

 私はその様を「馬鹿みたい」と鼻で笑って、青褪めたフェアリッテを見据える。


「いつまでもみじめね、フェアリッテ! 可哀想に、信じきった相手に裏切られる気分はどう? ずっと、ずっとずっと我慢していてよかった! 貴女のそんな顔が見れたんだもの! こんなに楽しいことったらないわ!」


 聖堂に、私の哄笑が響き渡る。矢継ぎ早に言葉を走らせて、ぶちまけて、一頻り笑い終えてしまって、目や耳や喉から煮えるような熱が噴きだしているようだった。脳が眩みそうだった。上擦る声のまま、私は最後に笑って告げる。


「じゃあね、フェアリッテ」


 フェアリッテの顔があまりにも悲痛で、見ていられなくなった私は、踵を返した。

 見るも無残になった泥沼のような聖堂から足早に去る。いまだに熱を帯びる全身で、夜さりの風を切っていった。枝しか残っていない木々がざわざわと震えている。瞬く星々は滲むように空に広がっていた。そうして一人、足を止めずに行く私を、駆け足で追いかけてくる気配がした。


「プリマヴィーラ!」


 息を荒くしたフィデリオが後を追ってくる。

 私はそれに答えずに歩きつづけた。

 フィデリオは私の手首を強く取り、振り向かせようとする。


「あんなことをして、どういうつもりだ! みんな混乱して……フェアリッテも泣いていたぞ! よくもやってくれたな、おかしいと思ったんだ、やっぱり君は、彼女を愛しては、」


 そこまで言って——フィデリオが、息を止める。

 もう、彼に言い返す力も残っていない。ずっとこらえていた。瞳の奥も、吐く息も、顔の至るところの全てから熱が湧くのに、体はこんなにも震えている。忍ぶために歯を食いしばったらそのまま噛み砕いてしまいそうで、滂沱たる感情は、口から嗚咽となってこぼれた。

 そんな、涙でずぶ濡れになった私の顔を、彼は見つけた。

 愕然としたのは一瞬で、その瞳が歪んだのも一瞬だった。こんなみじめな私のありさまに、彼は喉を引き攣らせ、力なく呟く。


「……愛して、るのに」 


 フィデリオの手を振り払おうとして、私は息を荒くして腕を振りかぶる。けれど、彼の手は私の手首をしかと掴み、離そうとしなかった。それどころか、彼は自棄になって暴れる私に歩み寄り、強引に抱きしめた。服に涙を擦りつけながら藻掻きつづける私を、けれど彼は決して離しはしなかった。唇を噛みしめて吐きだす嗚咽が彼の胸へと押しこめられる。もう一生、この涙は止まらないように思えた。耳元で「ごめん、」という囁きが走る。


「ごめんよ、プリマヴィーラ。君が上手に愛せないことなんて、わかりきっていたのに。そんなやり方しかできない君を、知っていたはずなのに……」


 こんなやり方しか、できなかった。

 愛しているからといって、もっと好きになってほしいからといって、なにかを与えてやれるわけじゃない。たとえば、私がフェアリッテのためにしてあげられることは、そう多くはなかった。その無邪気な花に水を遣り、気づかれないように死骸を埋め、そして——自ら踏み潰した。己の手で、毒水をぶちまけた。きちんと愛することもできなければ、上手に傷つけることもできなかった。

 覚悟を決めたところで無駄だった。やはり、裏切りは、最悪に最低を煮詰めたような気分がする。されるほうも、するほうも。

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