第10話 陽炎刀術の歴史


 自由時間。

 修行に身を置いているものとしてこれ程辛いものはない。

 なぜなら、師からの教えを受けることができないからだ。

 

 嫌々習っているものならいざ知らず好きで習っているものだとかなり辛い。

 でも、必然的に自身で学ぶわけで。

 特に変わりはないわけで。


 それにしても、師匠も言っていたが一時間で終わるとは思っていなかった。

 いくら俺が予想を超えることを目標にしているとはいえこれほどになるとやはりやばいと思ってしまうのも事実。

 それ故師匠も予定を組んでなく自由時間。

 自業自得であろう。

 

 やることもないし図書室にでも行くとするか。

 まあ、図書室といっても本が数百冊くらいなのだが。

 この冊数が少なく見えてしまうのは前世のせいだろう。

 決して欲張りではないはずだ。

 

 この師匠の家にある図書室、此処には主に流派の伝承や秘伝書、そして何代か前のつなぎ手の残した兵法書から物語まで。

 俺が本棚を見ているとふと目に入ものがあった。

 それは、流派の始まりの書だった。

 それを手にしようとする。

 すると師匠がやってきた。


 「おお、こんなところに居ったか。それは‥‥起源の書か。丁度よい。わしの口から直接言うとするか。ちょいとここに座りなさい。」


 師匠は図書室の片隅にある机と椅子を指さした。

 そこに座る。

 師匠は取りに行くものがあるようで図書室の奥のほうに向かった。

 それにしてもこの図書室綺麗は綺麗だ。

 恐らく師匠はしょっちゅう使っているんだろうな。

 そんなことを思っていると師匠が何か書物のようなものを持って帰ってきた。

 

 「ふぅ、さて話始めるとするかの。まずこれを見るのじゃ。」


 師匠は持ってきた書物とも古文書ともいえるものを開いた。

 そこには7本の刀や他様々な物が描かれていた。

 その横には文字と古文書のようなレイアウトでもあった。


 「これは初代が作らせたこの流派のすべてじゃ。まあ、使われておる言葉は古代語故、読みにくい。まあ、要訳してやると書いておることは『この流派は7つの刀により始まった』ということがここには書かれておる。詳しく言うとな、初代はすさまじい剣豪じゃった。いや、剣豪という言葉にも当てはまるほどそれはもう猛烈な刀使いじゃった。そして時に彼は自身の刀術を残したくなった。そこで彼がこれまで倒してきた6体の最強の鬼を素材として刀を打たせたのじゃ。それが『荒鬼』以外の6ッ本のルーツじゃ。『荒鬼』は初代のもともと使っておった刀じゃったから関係はないが。因みに『荒鬼』も鬼が素材じゃ。」


 あの7本にはそんなルーツが‥‥

 言われてみれば確かにすべての刀の名前に鬼が入っていたのはそれが理由か。

 

 「この陽炎刀術はのぉ、初代の圧倒的な刀術を引き継いだ圧倒的な6人によって広められた。陽炎刀術は最大7人の継ぎ手を出せる。刀一本につき一人じゃ。此度まで7人選ばれたことはないがのぉ。そしてお主に伝えなければならないことが一つある。」


 「伝えなければいけない事?ですか」


 「そうじゃ。この陽炎刀術では7本の刀を手に入れたものが最強とされる。

言いたいことがわかるか?」


 それは、この世界の中でおそらく4人いる継ぎ手が刀を争っているわけで、それに俺も一本持ってるわけで‥‥


 「俺も、狙われるってことですか?」


 そう聞くと師匠は苦しそうに答える。


 「その通りじゃ。お主はこの刀に気に入られた時点でもう世界に散らばっているであろう陽炎刀術の伝説の刀を持つ者に狙われる存在になってしもうた。すまんかった。」


 師匠はそう言い頭を下げる。

 

「そんな、謝らなくて結構ですよ。むしろ感謝したいくらいです。俺が、それくらいすごい刀術の使い手になれると思ったらお釣りが出るくらいですよ。だから、頭を下げないでください。俺は、今幸せですから。」


 そう言うと師匠が頭を上げてくれた。


 「そう言ってくれるとありがたい。それなら、明日からは張り切るとするかの!」


 「ええ。」


 張り切る師匠の顔は何かつきものが取れたようなすっきりした顔をしていた。

 こんな幸せが続けばな。

 そう願うばかりだった。




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