第9話 それぞれ前へ

 俺は剣を振る。

 無心に振る。 

 心を諫め頭を整理する。

 

 ここ最近は大変だった。

 絶望したり、助けられたり、希望を見つけたり。

 感情が巡ってめぐって大変だ。

 昨日に目録帖のページを大幅に増やせたこともあって非常に喜ばしく、ウハウハしている。

 あぁー早く使いたいなー

 と、暢気に思っていると‥‥


 「アキレス、剣筋が乱れよる。しっかり集中するのじゃ。そんなのでは刀を極めることなどできんぞ。」


 叱責された。

 そう、今は刀を振っている。

 といっても、正直指導方法はすごく大雑把に感じてしまう。

 それはこんなものだ。



 今日の朝、師匠に呼び出され庭に出た。(庭といっても森の一部の木を刈っただけだが)

 そこで師匠が、

 

 「お前に刀を教える。」


 といったので目を光らしたわけだ俺は。

 やっと刀術が学べると。

 そう師匠が言って、刀を全力で一度だけ振る。

 そうすると師匠はこちらを向いていった。


 「よし、見ておったな?見てなくとも知らんが。この今わしが振り下ろした刀の型を最大限に真似てみよ。わしが認めるまでこの刀を振るのは続く。たとえ1年でも10年でも。それが嫌なら一生懸命頑張ることじゃな。」


 と言って師匠の登場は終わりである。

 はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?

 という一言に尽きるわけで今の状況に至る。

 

 それにしても非常に難しい。

 というか、この刀の振り方は非常に奥が深い。

 前世で一応心構えくらいは知っていたもののここまでのことはしたことがない。

 この刀振りいつまで続くのやら。

 

 因みに最短は一振りだそうだ。

 天才はいるものだと実感する。

 

 さて、難しい。

 どうやって成功させようか?

 そう考える頃にはもう既に始めてから1時間経過していた。

 予想以上に難しいのだ。

 最初こそ難しいといっても1日で終わるだろう。

 そんな傲慢ともいえる考えをしてた。

 自分は2週目だからなんて。

 

 そんなの関係はない。

 俺は俺だ。

 前世なんぞ正直記憶のみ。

 刀を振ったなんて言ったのも正直記憶。

 この体では俺はまだまだ無知な子供だ。

 一度、真摯に向き合おう俺と。

 そう思い、刀を振るう。

 その時、先ほどより刀は軽かった。

 いや、感じた。

 

 「ほっほっほ、まさか1日とは。よく己の欠点に気が付いたものよ。普通は受け入れられぬのが人。よくこの一時間という短時間でクリアした。これからも、いま刀を振ったときの気持ちを忘れるでないぞ。その真摯な気持ちがいつか己を助けるはずじゃ。」


 あぁ、成功したのか。

 そうか、俺の欠点は傲慢ということだったのか。

 いつの間にか俺はそんなにも傲慢な奴に成り下がっていたのか。

 自己嫌悪する。

 だが、俺は前を向こう。

 

 この日でさえもうれしく思える日が来るはずだから。

 俺はこの日を教訓にする。

 転ばないための準備ってのは案外こんなところにあるのかもしれない。

 


 ◇


 

 私、レティア・フォン・エレネラはあの日呆然とした。

 アキレスがハズレギフトを手に入れたことに。

 こんな考えなんて頭の片隅にもなかった。

 

 みんなみんな、アキレスを攻め立てた。

 私は、怖くて止められなかった。

 さっきまでアキレスをあんなにほめてた人たちが急にアキレスをけなしだしたことに私は深い恐怖を抱いていたんだと思う。

 私もああなってしまうと思ってしまったから。


 でも、次の日すぐに謝りに行こうとしたらお父様に止められた。

 

 「もう、あの無能には会いに行くな。無能がうつる。」


 とひどい言葉と共に。

 反論しようとした。

 でもお父様が怖くてできなかった。

 でもすぐにそんなの思わなくなる。またすぐに会えると思っていた。


 そう考えていて次の日私はとんでもないことを朝の食卓でお父様から聞いてしまった。

 アキレスが勘当されたらしいのだ。

 しかも、手切れ金を一切渡されずに。

 お父様は笑いながら言っていた。


 「無能なのがいけないのだ。それに無能。どれだけ死んでも損はない。むしろ死んだほうが国益であろう。ジャーミール家も思い切ったものよのう。あぁ、気分がいい。」


 そう言っていた。

 私には理解できなかった。

 でもわかったことがある。

 ガッカリされたら私は死んでしまうのだ。

 私は今やアキレスの代わりではないが天才なんて呼ばれてる。

 その期待を裏切られた時が怖い。

 アキレスはこの重荷をずっと背負ってたんだ。

 でも、私アキレスみたいに強くないから潰れそうだよ。

 

 そんなときふと幼いころの記憶がフラッシュバックした。

 

 「ねえねえ、アキレスってなんですごいの?」


 幼いころ何故かそんなことを聞いてたっけ。

 そう私が聞いたらアキレスは照れたようにこう答えた。


 「俺は強くなんてないよ。ただ周りがでっちあげるだけ。でも、俺はそんな奴らの期待に押しつぶされないよ。俺は俺だからさ。負けないよ。」


 そう、拳を握り締めていたっけ。

 その時私はよくわからなくて「カッコいー、カッコいー」なんて言ってたけど今ならわかる。


 アキレスはあの時で今の私かそれ以上の期待を背負ってたんだ。

 でも、アキレスはくじけなかった。

 アキレス、貴方はもう死んでるかもしれない。

 でも私は、貴方の分まで頑張る。

 私は私であると決めたから。





 


 

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