第6話 師弟の誕生
俺は老人に抱かれながらひとしきり泣いた後、向き合う。
なぜかいざ向き合うと少し照れ臭いな。
いや、恥ずかしいな。
「あの、さっきはすみません。俺の名はアキレスと言います。」
そう言って無難な自己紹介をする。
これどういうテンションで言っていいかわからないのだが・・・・
「ほっほっほ、別にそんなに固くならんでよいよ。わしはガリウスという。ところでさっそくじゃが、お主はわしに鍛えられるつもりはないかの?」
本当に急だな!
だが、行き場のない俺にとっては願ったりである。
しかしこんな風になぜ初対面の子供にそんなことを聞くのだろうか?
「おお、わしがお主を鍛えてみたいと思った理由は二つある。一つは訳がありわしは自身の持つ剣術を誰かに継承させたいと思っとるからじゃ。」
はっ?
俺のギフトは剣術なんて知らないしそもそも戦闘系じゃないのだが・・・・
「あっ、ギフトは関係はない。これは生身の体で一から覚えるもの故、ギフトなんぞ持っておったら逆にわしの剣術を継げはせんよ。」
ふぅ、そう言ってもらえるとありがたい。
「もう一つは、わしもお主と似たような境遇じゃったからじゃ。」
「似たような境遇ですか?」
あまり考えられない。
似たような境遇ということなら非戦闘ギフトということか?
いや、そもそも私はこのギフトは非戦闘ギフトとは考えてはいない。
その上、この老人ガリウス殿からは何とも言い知れぬ覇気というか戦士そのものの気配がする。
そんな人間が今の私と似たような境遇?
考えられないのだが・・・・
「ほっほっほ、意味が分からんといった顔をしておるのぉ。まあそうかのぉ。まだギフトも言っておらんかったからじゃな。わしのギフトは『剣鬼』ユニークギフトじゃ。お主も、そうなのじゃろ?」
「なんでわかったのです?!」
動揺する。
なぜ俺のギフトがばれる?
俺はまだ何も言ってはいないのだが・・・・
「お主のギフトについては勘じゃ。何分、『剣鬼』というギフトは勘も鋭くなるものでのぉ。で、お主のギフトを言ってみい。」
「俺のギフトは—」
そう言おうとしたとき、不快な映像が脳内を流れる。
ギフトが分かった瞬間に蔑む顔を向ける貴族やその子息ども。
汚いものを見るかのような目で俺を見るレティアの両親。
呆然とするレティア。
そして、辛そうに名残惜しそうに俺を家から追い出した家族。
皆の顔がフラッシュバックする。
まるで嫌な部分だけを切り取った動画のように。
でもこの爺さんは違う。
あんな奴らじゃない…はずだ。
「俺のギフトは『武器商人』ですよ。」
そう聞くとガリウス殿はニヤリとした。
「やはあり、こちら側じゃったなぁ。その名前から想像させていただくが召喚系かのぉ?」
「大方そんな感じです。まあ、武器商人という割にはこんな物しか出せませんが。」
そう言って目録帖を出し、定番のぼろ剣を出す。
「こんな風に。」
実演するとガリウス殿は真剣な目で剣を見せる。
それをガリウス殿はまじまじと見て、考えている。
「そのギフト、剣を出すのに何を使っておる?」
「魔力ですよ。原理はわかりませんけど魔力によって具現化されていることは確かです。」
「ほぉ、そうなるとこの力はかなりの量魔力を消費するじゃろう?そんな魔力どうやって補っておる?基礎魔力量がずば抜けて高いのかのぉ?それとも、ギフトなしの魔法使いかのぉ?」
お、おぉ、すごい気迫。
かなりの勢いで質問されている。
「え、ええ。魔力の消費はかなり大きいです。しかし私の基礎魔力量は高くはありませんよ。魔法が使えますよ。」
そう言うとガリウス殿は驚いた顔をした。
「まさか本当にそうだとは・・・・。して、魔法の級はどれくらいじゃ?まさかじゃが中級魔法までかのぉ?」
「ええ。俺は中級魔法までは使えますよ。」
そう言うとまたもガリウス殿は驚く。
「何!それなら不思議じゃ。なぜお主は見限られたのじゃ?武器を出す力があり、大器晩成型が多いユーニークギフト持ち。それだけの力がありなぜ見限られたのじゃ?」
本当にそう疑問に思ったようにガリウス殿は言う。
確かに自分でもそれは思う。
そもそも、過去の事例からユニークスキルというのは大器晩成型がほとんど。
そうでなくても、何かしらの条件突破によって力を得れる。
そうでないのは、『勇者』や『賢者』、『剣聖』くらいだ。
それを俺も不思議に思っている。
だが、一つの仮説が俺の中にはあった。
「恐らくですが、俺のつけられていた称号、いや、呼び名が原因ですよ。」
そう言うとガリウス殿は納得するようにつぶやく。
「なるほど。過度な期待か・・・。恐らくお主は神童などと言われていたのでは?」
「そうですよ。まさにそれですよ。過度な期待は—」
「過度な侮蔑・・・・じゃな。」
「ええ。それからの流れは最悪でしたよ。」
「まあ、大方想像はできる。それでじゃ、最初の話に戻ろうではないか。」
「最初の話?」
「そおじゃよ。お主は、わしの弟子になるかの?」
そう、尋ねられる。
そんなの決まってる。
「よろしくお願いします。師匠。」
そう言って頭を下げる。
すると師匠は笑顔でうなずいてくれた。
「では、改めてよろしくじゃな。アキレス。」
そんな、新たな師弟の誕生を祝うかのように一週間前までは嫌いだった春の風は俺を祝福するかのように吹いた。
幸せはいつかは壊れる。
だがこの幸せを享受したい。
だが、繋がりはできたときには終わりもできるというのが皮肉な世の常だろう。
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