第5話 卒業
俺は・・・・
「ここは・・・どこだ?」
知らない天井。
知らない枕。
俺は、確か食べられたはずじゃなかったのか?
ここはあの世ではなさそうだがな。
「おお、目覚めたか。」
声のしたほうを向く。
そこには老人が立っていた。
あぁ、最後の記憶はこの老人の姿だ。
俺は死んでない。
間一髪の状態でこの老人に助けられたのだ。
なんでだ?
俺は死にたかったのに。
やっと死ねると思ったのに。
誰かに殺されて死ねると思ったのに。
「なんで・・・・」
「どうしたのじゃ?」
「なんで、俺を助けたんだ?!死のうとした俺を。なんもなくてこんな世界から消えてなくなろうと思った俺を。なんで助けたんだ!俺は、俺は死にたかったんだ。なのになんで!」
そう叫ぶ。
これまでため込んで、押さえつけてきたものを全部。
「なんで勝手に期待されたのに勝手に見放して勝手に俺を殺すんだよ?!何で俺の本質をだれも見ないんだよ?!みんなみんな、俺のできることしか褒めねぇ。その癖、あんまできなくて苦労して覚えた様々な言語はできて当然なんだよ?俺は、そんな薄くねぇし、俺がいくら精神年齢が高いだろうが辛いときはつらいし、苦労したらそれ相応に賞賛されてぇよ。でも、これまでは神童神童って表面の部分だけだけど褒められて耐えれたよ。なのに何なんだよ?突然見放すじゃねえか。俺は、努力したんだ。なんで俺を見ないんだ?なんで、あんたらの中の俺はそんなに完璧なんだよ?俺だって人だ。俺だってやれるようになるだけ努力してる。多少賢くたって人だよ。なのに、ギフト一つで俺を見限んんじゃねえよ。俺を、見放すんじゃねえよ。散々こき使っといてこれで終わりかよ。なんなんだよ。」
それは、これまで思ったことを時系列すら合わさずに不満とこれまでの孤独を、これまでの苦しみを出てくる順に言ったただの叫びだ。
俺は一度人生を生きた。
だから、達観して、客観的に人生を見れた。
自分で自分を抑制でき、理不尽にも納得できた。
そういうものだとわかっていたから。
でも、俺は人だ。
分かっていても気持ちが、感情が、許容しない。
それが初対面の爺さんに出たってわけだ。
情けないとわかっても、出てくる感情の数々。
それを老人は真剣に聞く。
そして、叫び終わった後に静かに俺を抱き、言う。
「ここに、お主を色眼鏡で見る者はおらん。お主はここでは人じゃ。ただの人じゃ。ギフトなんぞ関係ない。人じゃ。お主は生きてよいのじゃ。それに、お主はあの時死にたかったというが、死にたいものが長い間生きて森を生きてさまようわけがなかろう?生きたかったのじゃろ?生きればよい。ここにおぬしを否定するものはないのじゃから。」
そう諭され、涙が出る。
そうだ、俺は死にたくなんてなかったんだ。
こんなとこで終わりたくなかったんだ。
俺は・・・・
「俺は、生きていいのか。」
そう言葉にしてまた泣いた。
実感が湧いたんだろう。
ここに来るまで、たくさんの人間に否定され、たくさんの思いを背負ってて、たくさんの期待を裏切って、ここまで来た。
自分で自分を責めて、こんな運命を与えた神を呪って。
でも、誰も悪くない。
どんな世界でも、不幸が続けば幸が来るというのはやっぱ常なんだ。
そう思った。
だから、この幸せもいつか転ぶ前触れなのだろう。
でも受け入れよう。
それが、その転びが新しい幸せの道なら。
先生、俺はこれでまた成長できましたよね?
泣きっ面のまま空を見上げ先生が浮かんでいるとは思ってもない空にその時はその瞬間はこの異境の空に先生を見た気がした。
俺はこの日、先生の生徒を卒業し、師匠の弟子となった。
この幸せが壊れるまではまだ俺は幸せの終わりを推測したくないと思った。
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