短編集

IrisLovinson

短編集

・始めの短編

短編集とは短い作品の集まりではない。

大きな生命体を分割した細胞の集まりである。


・生命体

多くの生命体は分割すると生きられない。

細胞は有機的に繋がることでのみ生きられる。


・有機体

有機体は分割した要素の単純な足し合わせではない。

分割する時に輝きが失われる。


・輝き

細胞を再び有機体に戻すには輝きが必要である。

失われた輝きとは、つまり、繋がりである。


・分割

分割とは彼方と此方の間に、違いによって境界線を引くことである。

同じであること(引力)ではなく、違うこと(斥力)によって、境界線は引かれる。


・言葉

言葉それ自体は表層である。

ただ、あちらとこちらを繋いでくれる。


・世界の表層

私達は世界の表層を生きている。

その奥に何が有るのかは誰も知らない。


・人間

人間は空に浮かぶ一つの丸い球状の生命体である。

世界の表層のみを知ることができ、闇を畏怖する。


・五感

私達は目や口、鼻、その他五感から情報を仕入れる。

しかしその五感から仕入れる情報は世界の表層である。


・闇とは光とは

闇とは、球状の生命体である人間が空に浮かび、

何らの制約も無く動けることであり、

周りに触れるものが何も無いことである。

光とは、人間の周りにある、命有る表層である。


・表層

表層とは、秋に差し掛かる夜の街を歩く時、

沈まないよう支える道路であり、

人工の光を放つビル群であり、

澄み切った月が浮かぶ夜空であり、

心が感じる物悲しさでもある。


・表層の奥

表層の奥に何が有るのかは誰も知らない。

夜の街を歩く若い男が図書館を見たとしても、

その中はうかがい知れない。


・見えていないもの

人間に見えないものはないだろうか。

見えるもの以外は見えていないのだ。


・カエル

カエルは動いているものしか見えないという。

動いていないものは見えているモノのその先にある。


・手

手は違う世界とこの世界を繋ぐ。

ただ、手を伸ばしただけでは表層の奥、その先には行けない。


・その先

その先に行くには生命現象のエネルギーの爆発が必要である。

生命現象のエネルギーは集まり、淀みきったところで輝き、爆発する。


・分断

世界は分断される。

分断された要素間の関係が役割である。


・名前

名前は役割に対して与えられる。

椅子を物に叩きつけるなら、それは椅子ではなく、

椅子の形をした鈍器である。


・図書館

図書館が図書館の形をしているとは限らない。

図書館は図書館としての役割を果たすもの。


・旅立ち

人は旅立つ。

旅立ち、安住の地を見つけ、戻り、平穏を得る。


・羊

私は「それ」を羊と呼ぶ。

羊は歌をうたう。


・歯車

羊と出会うには歯車が噛み合う必要がある。

歯車は見えているもののその先にある。


・水色の服を着た女の子

図書館では水色の服を着た女の子が働いている。

女の子は見つからない本を探している。


・森の中のウサギ

ウサギは森の中にいる。

森の中で井戸を覗いている。


・井戸

井戸に落ちた人は私達から見えなくなって、

この世界との結び付きが失われる。

井戸の役割は違う世界と繋ぐこと。


・ウサギと太陽

ウサギを見つけるには月を見上げれば良い。

ウサギは月にいる。


・クロネコとシロネコ

クロネコとシロネコは、

雨が降ると沢山の水たまりができるくぼ地に住んでいる。

水たまりの先のネコ達と、こちら側のネコ達、

どちらが本物だろうか。


・本物

例えば私達がとてもたくさんの水たまりに囲まれているとしよう。

毎朝、日が出ると上と下から太陽が出てきた様に見える、

こんな中で暮らせば水たまりの中の太陽と空の太陽、

どっちが本物かなんて分からなくなるだろう。


・本物と偽物の見分け方

偽物をつかまなければ本物はつかめない。

本物はつかみ続けられないが。


・太陽と月

太陽と月のどちらが本物だろうか。

クロネコには太陽を、シロネコには三日月を。


・空に浮かぶものと地上

太陽と月は空に浮かぶもの。

沈み落ちないように支えるものが地上。


・回転

人は中心の周りを回転し、旅をする。

むしろ、中心に向かおうとするからこそ回転し、

また、それ故に中心にはたどり着けない。


・中心

中心とは奥にある「それ」のことである。

回転する限りたどり着けない。


・本を探す若い男

若い男が大事な本を探している。

しかしその男はなぜその本が大事なのか、

なぜその本が手元にないのか、

なぜその本を探しているのか、分からない。

分からないから、探し続けるしかない。


・幽閉されたペンギン

食べ物がなくて縮みきったペンギンが仄暗い地下に幽閉されている。

ペンギンは水色の服を着た女の子を待っていたのだ。


・失われてしまった

ペンギンは失われてしまった。

ペンギンは失われてしまった。


・本の内容

本の内容は映画の台本。

映画の台本としての役割を担うもの。


・本の表紙

本の表紙はクロネコ。

本の裏表紙はシロネコ。


・図書館の裏手

図書館の裏手は森になっている。

森の中には井戸がある。


・歌が聞こえる

歌が聞こえる。世界はまたまわり始めるのだ。


・夢と現実の違い

夢は表層より下の繋がりが見える。

現実では表層しか見えない。


・刺身入り牛乳プリン

夢で刺身入り牛乳プリンを出された時、

それがおいしいかどうかは食べる前に知っている。

現実でも食べる前に分かりそうなものだが。


・飛びはねる水滴

水の入ったペットボトルの横をトントン叩いていると、

ふとした瞬間に、水滴が有り得ない位飛びはねることが有る。

水の中を走る力が噛み合ったのだ。


・噛み合う歯車

人生に於いて、 自分の周りも含めた歯車全てが噛み合う瞬間が有る。

ごく稀に。


・見つからない、見つからない

若い男が本を探しに図書館に入ったとしても、

青い服を着た女の子は見つからない。

彼女は見つからない本を探しているのだ。


・本の行方

本は羊になってしまった。

本は羊になってしまった。


・図書館の飲食スペース

図書館には水が入ったペットボトルがある。

水はもう静止している。


・旅立つ男

若い男は旅立った。

中心に向かい、その周りをまわり続けるのだ。


・月と井戸

あの月は井戸である。

ウサギは飛びはねず、こちらを見ている。


・羊の居場所

羊は表層をはぎとった先にいる。

迷い込んだ人しかそれを見たことはない。


・歌が突きつけるもの

歌は死や愛や犠牲を、逃げ難い形で、突きつける。

時にそれは状況として立ち現れる。


・ペンギンが幽閉された理由

ペンギンが幽閉されたのは、若い男が本を探しに来たから。

ただ、誰もそのことを知らない。


・本が見つからない理由

本が見つからないのは、ペンギンが幽閉されたから。

ただ、誰もそのことを知らない。


・歌と歯車

歌は見えない歯車を介して届く。

だから、最終的に悲惨な状況を生み出すと分かっていても、

歌から逃れる事はできない。


・羊

羊は歌をうたう。人間はその影を聞く。


・言葉でつなぐ

この短編集は細胞の集まりである。

言葉を紡ぎ、つなぐことで、生命体となる。

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