第6話

午後の授業も終わり、放課後になったので、荷物を整える。


「はる君、一緒に帰らない?」


尾上さんが、気軽に声をかけてくれた。どこで別れるのかはいまだにわからない点はあったけど…


「いいよ」


そういうだけで、尾上さんは微笑ましく、寄り添うかのように、一緒に歩きだした。

普通に清楚な人のイメージが強かったのだけど、喋るとなにかとギャルっぽいから、ムードメーカー的なところがあった。

学校を抜け、河川敷まで帰っていると…


「はる君は、おうちどこなの?」

「この河川敷をまっすぐ行った途中にマンションがある。そこに住んでるんだ」

「へー…いいな、学校が近くて」

「そうでもないよ、買い物行くときは、片道15~20分くらいはかかるから、おあいこだよ」

「片道だけでそのくらいかかるの!?」

「でも、慣れてきた。この河川敷を使ってジョギングとかしてるし」

「あ、確かにここ、気持ちよさそうだよね~」


といって、夕日が沈む河川敷の皮を見ながら、そう言っていると、車の通る橋が見えた。

ここで、尾上と別れる。


「じゃあね、世界史の件は、本当にありがとう」

「ううん、学校のアップルパイおいしいこと、教えてくれてありがとう」

「律儀だな~w

あ、あたしが奢ったことは内緒にしてよね!じゃあね~」

「うん、お疲れさま」


といって、紗菜の姿がなくなるまで見送り、近くのマンションの自宅まで戻ることになった。

扉を開け、今日の晩御飯はどうしようかと悩んでいると…スマホが震えた。父からだ。


【すまない、晴臣。今日は夕飯要らないからな、一人で適当に食べておいてくれ。22時までには、帰るようにしておくからな。

それまでに、ちゃんと宿題や復習はやるんだぞ】


というメッセージが来た。

一人でいるのは寂しかったので…リビングで今日の学校の復習をやることにした。


――


その日の会社でのことだった。

課長である父が、いつものように仕事をこなしていた時の事…


「課長~、社長様から、今すぐに来てほしいと伝言が」

「……社長が?わかった、書類を頼む」

「はーい」


―社長室


「社長、私です。お待たせしました」

「入り給え」


といい、克宏は社長室に入る。

奥で、待っていたかのように、窓の外を見つめながら、課長の克宏のほうを見た。

父が働いている会社の社長、宮前友廣(みやまえ ともひろ)は、課長である克宏のことを評価してくれていて、とてもかわいがってくれている。

息子の晴臣も、実際に直接会ったことがある。顔はいかついが、話せば本当に柔らかい社長だった。

それにしても、かなり形相がいかつかった。なにか問題事があったのかもしれないと…固唾を呑んで座った。


「秘書から呼び出しを受けてまいりましたが…なにか、緊急事態でも…?」


と、恐る恐る訪ねてみた。


「いやぁ、そういうわけではないのだよ。顔硬かったかな?」


と、突拍子にこんな発言をされたので、克宏はびっくりしている。


「はぁ……では、どういったことで?」

「克宏君、君の秘書の調子はどうかね?

「え?桐野さんの事でしょうか…桐野さんは、とても頼れる人です。

少々ふわふわな態度があれですが、それ以外では、私が留守の間でも、書類の整理や他の雑用を完璧に済ませてくれているので、

欠かせない存在です」


と、正直に社長に伝えた。社長は彼の話を、うんうん、とうなずきながら話を聞いてくれていた。


「うむ、克宏君、君のいうことはよくわかったよ。確かに桐野君は本当に頼もしいよ。しかし…」

「どうしました、社長」

「実はな、彼女のことでちょっと問題が起きたんだ。最悪、秘書を変えてもらうことになるやもしれんのだ」

「え…!?それは、どういう…」


克宏自身にとっては、ちょっと残念な気持ちになった。

しかし、社長から告げられたのは、恐ろしい衝撃の事実だった。


――


「では、引き続き、彼女と仕事、頼んだぞ」

「はい、社長…これにて失礼いたします」


そういって、社長室に戻ると給湯室から、泣いている声がした。


「この声は……」


いち早く、給湯室へと駆け寄ると、そこで、書類の整理を任せているはずだった秘書の姿があった。


「き、桐野さん…?」

「わっ!か、課長~。脅かさないでくださいよ~」


といって、仄めかしていた。

克宏はこの時、ちょっと戸惑っていた。

秘書の悲しい表情だけは、絶対に見逃していなかったから。

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