第1話

春休みなんて、あっという間だった…今日から入学式、新学期だ。

僕が通う【県立磐瀬高等学校】は、この辺りの地元では有名な、偏差値60は軽く超える難関公立校として有名。

僕は、父が仕事で忙しい中で勉強を教えてくれたし、生前のお母さんが、僕の勉強を応援してくれたこともあって、

試験で無事に合格、今日からこの学校の新入生として新しい高校生活を迎えることになる。

この日は、午後から仕事に出勤ということになっていて、父さんは僕の入学式にはちゃんと付き添ってくれた。


「父さん……」

「どうした?緊張するか?」

「いや…少し、ね…」


この日僕は、言おうか悩んだ。

昨日であった、新米の先生のことを。


(入学式の時に、会いましょ)


「…………」


悩みに悩んでいたら、知らない間に生徒が群がっているところにまで来てしまっていた。あれは間違いなく、クラス分けだ。


「じゃあな晴臣、俺は一足先に体育館で待ってるから、シャキッとしとけよ」

「うん、わかったよ父さん……」


そういって、僕は生徒たちがたくさんいる群衆のところへ、父さんは体育館へと別れた。

クラス分けなんて、正直僕にとってはドキドキなんて感じない。友達は正直言うとゼロに近いくらいいないようなものだから。

クラスを見つけ次第、僕は教室に移動することになったのだが…

クラスをみつけたとき、思わぬ偶然が…。


(えっと…俺の名前は……あ、あった)


僕の名前、遅れながらもやっと見つけた。

僕は1年4組のクラスになるようだった。でも、驚いたのは、その担任である。


(……ん?この名前、どこかで見たことがあるような……)


担任の名前を見て、俺は思い出した。

そう、春休みの時に出会った、あの先生の名前と一緒だとすぐに分かった。

桐野遊子先生…まさか、出逢ったばかりの先生と、同じクラスになれるなんて、思いもしなかった。

びっくりしていたら…


「あ、おはよう」

「お、おはようございます桐野先生…」


後ろから声をかけられた。若干ビビったけど。

振り返ってみると、春休みの時に出会った、桐野先生が、にこにこしながら挨拶をしてくれた。


「先生、随分と楽しそう…ですよね?」

「ふふっ、そう見える?」


自分自身の目線からしたら、本当に楽しそうだった。


「恵比寿くんだから…すごく前だね。そっちまで移動して座っておいてくれるかしら?まだクラスの子がいないのかもしれないから」

「わかりました」


といって、最前列に座って待機していた。

ちなみに新入生の一学年は、クラスは8クラス、そのうちの1クラスはエリートが集まった、所謂【特待生クラス】と呼ばれているクラスで、優秀である。

入学式の式典も、吹奏楽部によるスペシャルメドレーで歓迎ムードになっており、入学式の参列していた保護者さんたちから、盛大な拍手が送られ、

入学式は幕を下ろし、ここから、新生活の始まりでもあった――。


―1年4組


「新入生のみんな、この度は入学おめでとうございます。今日からこの1年4組の担任になります、桐野遊子です。何卒、よろしくお願いいたします」


入学式を終えた後、僕ら4組のクラスで、先生からの簡単な自己紹介が行われた。

僕ら男子は、桐野先生の美人っぷりに顔には出ていないのだけど、メロメロな生徒もいるとは思う。

でも、クラスの担任は一人ではない。全クラスそうなのだが、副担任の先生がいる。副担任の先生もこれまた男勝りの美人な先生だった。


「そしてあたしが、お前たち4組の副担任に着任しました、桂城友貴子(かつらぎ ゆきこ)だ。改めて新入生諸君、入学おめでとう!」


と、とにかく明るかった。またしてもかつての母の記憶が、フラッシュバックでも起こすかのように思い出しそうになるが、

せっかくの学園生活初日に、苦しい表情は見せたくなかったので、そこは堪えた。


「ではみなさん、気を付けて帰るようにしてくださいね。明日から本格的な授業が始まりますが、悔いのない楽しい1学期を過ごしていきましょうね。ではみなさん、さようなら」


そういうと、クラス全員が「さようなら」と告げると、集団になって帰ったり、僕みたいに一人でそそくさと帰っていく生徒もいた。

僕はどちらかというと後者のほうだ。父は入学式を終えた後に、そのまま仕事へ向かっていくとのことだったから。

すると、桐野先生が、なにやら複雑そうにこっちを見ていた。


「晴臣君…どうしたの?」

「えっ…?な、なにがですか?」

「なにって、随分と暗かったものだからね。入学式でも、顔はしゃんとしてたけど、曇っていたからね…なにか悩んでる?」


相当心配してくれていた。ありがたいことだったけど、このもやもやは、先生だけでは解決できないことだったので、

真摯に断ることしか、今の僕にはできなかった。


「あ、いえ…大丈夫です。不快な思いをさせてしまい、申し訳ございません。この辺で失礼します」


といって、丁寧に返して、学校から下校した。先生の心配した表情を思い出すと、胸が痛くなってきたよ…。

今日は入学式だけだったから、本当に速いのだけど…この後どうしようかと考えた。

この後は、いつも残業してまで働く父の為に、無事に試験に合格できたお礼もしたいし…

今日はすき焼きでも用意してあげようかな、とまで考えていた。

母がガンで闘病生活をしてた時、父は俺に料理を厳しく指導させられたことがある。

でも、なにひとつ文句は言わなかった。母の苦労を知るためでもあったし、わずかな寿命で、多くお母さんから褒めてもらいたかったから。

だから、父の勉強と料理に感謝するために、今日の晩御飯は、すき焼きだな、と帰って買い物の準備などをした。

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