美人の担任教師が俺の家族になったので、「お姉ちゃん」と呼んでいいですか?

神都【カミト】

第1章 先生と男子生徒

プロローグ

僕の名前は、恵比寿晴臣(えびす はるおみ)。

家族は、父親の恵比寿克宏(えびす かつひろ)の二人暮らし、所謂父子家庭だ。

お母さんは、僕が中学を卒業した時に死んでしまった。

死因はがん、享年38歳……早すぎる死に、俺と父さんで、一緒に号泣したのを、今でも覚えている。

お母さん、恵比寿小町(えびす こまち)は、父にとっては最高のお嫁さんだった。

父との出会いは、なんと幼稚園の頃からの幼馴染という関係だったらしく、母はとても男勝りで元気っ子な性格で、

僕が小学生くらいの頃は、晴れた日は毎日お母さんと二人散歩したし、父さんとの3人では、遠くへ行って登山したり、

遊園地で子供みたいにはしゃぐほど、活発な母だった。

乳がんとわかって、治療をしたとしても、もう治らないと。今月いっぱいで寿命が尽きる可能性がある、と。

がんを医師から告げられた時、父はとても悔しかったそうだ。代わりに俺が死ねば、まだ小町だけでも晴臣を幸せにできるんじゃないかと考えたりしたそうだ。

でも、お母さんは病床に倒れていながらも、必死に父さんに言い聞かせていた。


「ダメよ、あなた……晴臣を守れるのは、あなただけよ……。大丈夫、若かったころに、教えてあげられることは、全部教えたわ……。

あとは…この悲しみを乗り越えることが、できたら……大丈夫よ、今以上の幸せは、きっと…やってくる。

克宏、さん……私の旦那になってくれて……晴臣…旦那と一緒に、ここまで、励ましてくれて……どうも、ありがとう……」


それが、母の振り絞った最後のセリフで、最後の会話だった。

そして、高校入学前の春休みの今、僕は、お母さんと毎日一緒に歩いた散歩道を一人で歩いていた。

父は、いつも仕事でなかなか俺と一緒にいる時間を空けてはくれなかった。

母の死から、父は僕を守れるのは自分しかいない…母の言葉を重く受け止め、より僕が幸せになってほしいと願うべく、全ての時間を仕事に費やしていた。

だから、春休みは、とても退屈だった。

ため息をつきながら、道端に転んでいる石ころをけりながら、歩いていると……向かいから歩いてきた、一人の女性の足元に、石ころをぶつけてしまった。


「あっ……!ご、ごめんなさい……!」


と、道端でやるものじゃないんだけど、僕はつい、土下座をしてしまった。

とっさの行動だったのだけど、女性はゆっくり僕に近づいてきていた。


「いいのよ、誠心誠意で優しいわね、君は」


といって、僕に手を差し伸べてくれた。すると…


「ねぇ君、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかな?

磐瀬高校ってところに向かいたいんだけど、道のり分かる?」


「磐瀬高校……」


磐瀬高校とは、父の厳しい教育によって通うことになる、この地域では偏差値の高い高校である。

入学試験の時に行ったきりだが、道のりは覚えていた。


「それでしたら……」


と、僕は丁寧に女性に磐瀬高校までの道のりを教えてあげた。


「という感じに行けば、磐瀬高校が見えるので、その信号を渡っていただければ」

「ありがとう、君、この辺りに住んでる人?助かるわ」

「あ、はい……もしかして、先生ですか?」

「うん、そうだよ。今日からあの磐瀬高校の先生として配属になったの。

君は、もしかして磐瀬高校の生徒さん?」

「あ、いいえ。新入生として春休みが明けたら、通うことになるんです」

「本当!?じゃあ、試験合格したんだね、今更かもだけど、おめでとう!」


先生とやらは、大げさのように僕のことを褒めてくれた。

その時に思い出す…大いに褒めてくれる、母親のことを。


「ありがとう…ございます」

「そうと決まれば…じゃあ、入学式の時に会いましょ。えっと……」


と、考えて混んでいた。どうやら、名前を呼ぼうとしているらしかった。

なんだろう、展開的にそんな感じがしたから…。


「あ、晴臣です。恵比寿晴臣」

「晴臣君ね、うんうん…私、桐野遊子(きりの ゆず)っていうの。じゃあ、入学式の時に会いましょうね」


そういうと、桐野さんは、僕に一礼をして、磐瀬高校へと向かっていった。

僕はただ、桐野さんの背中をじっと見つめていた。

正直に言うと、本当に美しかった。オレンジ色のロングヘアー、サファイアのような鮮明な青色の瞳。

あのインパクトは、一生忘れられない気がした。

この春休みは、不思議な出会いだな、と歩きながら実感し、母の死の悲しみが、少しだけ、和らいだような気がした。

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