雑草奮闘記

@ark_zero

第1話

__1933年、突如、身体能力、五感が生物の範疇を超えて発達した人間が、大日本帝国に現れた。彼らは《新人類》と呼ばれ、後の第二次世界大戦に多大な貢献をし、我が国を勝利へと導いた。だが、彼らは増長し、我らが主君である天皇家を抹消し、政府までも...


 「くっだらねェな、そんなに独裁が嫌なら、こんな本書かねえで、真っ向から反抗すりゃあ良いじゃねえかよ...ま、俺はしないけど。」


 曇天の空模様のある日、薄暗い、ジメジメとした路地裏で、無精髭を薄く蓄え、目にかかるまで黒い髪を伸ばした男が、捨てられた本を集め、読んでは文句を言い、破り捨てると言う奇行をしていた。


 (...つまんねェな、何か、SF物で起きる様な、とんでもねー事件とか身近に転がってねーかな?...いや、被害被るの嫌だしな...)


 それに飽きたのか、ボサボサの髪を掻きながら、煤けた室外機に乗っている、ぼろぼろのリュックサックを背負った男は、破れた本だらけのこの場を、ゆっくりと歩き出す。


 「幸せは〜歩いてこない、だ〜から歩いて行くんだね〜」


 髪に隠れた、ドス黒い目を見開きながら、男は楽しそうに歌いながら、ひょろ長い腕を大袈裟に振り、穴だらけのジーンズを通した長い脚を前へと運ぶ。


 「一日一歩、三日で三歩、三歩進んで二歩下がる...」


 配管を潜り、肩についた煤を払いながら、男は曲がり角を曲る。その時、


 「...は?」


 男は、無精髭を生やしっぱなしの口を半開きにし、眠そうにしていた目を見開く。


 そこには、


 「ふっ...ふっ...!誰!?」


 路地裏には似合わない、小綺麗な隊服のような服を着たポニーテールの少女が、何かに追われているのか、息を切らした状態で、汚れた壁に寄りかかっていた。


 「誰ってのは、俺のセリフ...ッ!?」


 まるで自身を犯罪者のような視線で見てくる少女に、口元をひくつかせながら男が呟いた


 瞬間、


 「うおわっ...!?」


 「きゃっ...!」


 配管だらけの路地裏の上空から、黒い影が、配管や飛び出した機器を巧みに躱し、男と少女の目の前に、土煙を舞い上がらせながら着地する。


 「おい、いい加減諦めてお縄につけよ...今日は七時からガキ共の強化改修をしにゃあならんから、あんま時間かけてらんねえからさ。」


 土煙の中から、ゴーグルで顔の上半分を保護し、口元はガスマスクで保護する、トレンチコートを着た大柄な男が、無造作に伸びた銀髪の髪を靡かせながら、咳き込んで目を擦っている少女へと迫る。


 「ケホッ...フフ、ならさっさと帰ってくれない?私も今日の七時からやる特番が見たくてウズウズしてんのよ!」


 ガスマスク男の拳を、首を横に傾ける事で躱した少女は、不敵に笑いながら、お返しと言わんばかりにガスマスク男の胸を蹴り飛ばす。


 「それこそ牢獄で幾らでも見せてやるっての...仕方ねぇ、あまり傷物にはしたく無かったが...」


 しかし、少し後ろへ後退しただけで、大きなダメージを受けなかったガスマスク男は、胸を手で払いながら、眉間に皺を寄せて、少女を睨みながら言い放つ。


 (...なんなんだ?コレはよ...なんで《特捜》が、こんなとこまで来てんだ?あのチビガキが、そんなに重要な奴なのか?...見てたいけど、流石に火の粉被るのは嫌だし、さっさと退散するか...)


 その一部始終を目撃していた男は、一進一退の攻防を開始したガスマスク男と少女の戦いが、気になりつつも、この場から離れようとする。


 しかし、


 「あぐっ...!?」


 「ったく、やっと捕まえたぜ、カトンボみてぇに抗いやがってよ...」


 ガスマスク男に上体を脚で押さえつけられ、腕を捻り上げられた少女の呻き声を聴いて、足が重くなってゆく。


 (...待て待て!流石に特捜に喧嘩売るのは...でも...ぬああ!...)


 そして、完全に止まってしまった男は、頭をバリバリと搔きながら溜息を吐き、リュックサックを地面へと下ろす。


 (生まれ持ったさがってのは、抑えることが出来ないって言った奴がいたが、正にその通り、だな。)


 そして、男はボロボロのフードを深く被り、薄く微笑んだ。

 

 「おい!回収班急げ!何起こるかわかんねえからな!」


 ガスマスク男は、両耳に着けたヘッドホンのようなデバイスを介して、怒鳴るように指示を飛ばす。


 (息...が、や、やばい...!)


 それを苦しげに目を細めながら見ていた少女は、飛びそうな意識を必死に保ちながら、脱出策を必死に講じていた


 「よし...いや〜、棚からぼたもちってのは正にこの事だな。感謝するぜ?最近金欠だったからよぉ...」


 しかし、無情にもガスマスク男は、通信を終えた後、嗜虐的な笑みを浮かべながら少女に言い、さらに拘束する力を強めた。


 (うぅ...駄目...だ、抜け..出せない...!私の”視覚”も、この状況じゃ...)


 不自然な程強まってゆく力に、いよいよ酸素が身体中に回らなくなり、少女の意識が飛びかけた、


 その時、


 「...あの、」


 「あ?」


 ガスマスク男は、自分の肩を掴む、フードを深く被った男に気づく。


 瞬間、


 (______な..に!?!?)


 大きく右手を振りかぶったフード男の、次の行動を察し、急いで回避しようとするが、


 時すでに、遅し。


 「んぐふッ...!?」


 凄まじい衝撃に体が浮き、脳がぐらぐらと揺れるガスマスク男は、辛うじて、自身が吹き飛ばされている事、ゴーグルがひしゃげた事を認識し、チラシの貼ってある壁面へ轟音と共に突き刺さり、そのまま意識を失った。

 

 「ふぃ〜、スッキリした...さて、おい!さっさと逃げろよ、これ以上は助けらんねーぞ。」


 手を叩き、スッキリした様子の男は、リュックサックを背負い、さっさとこの場から去ろうとする。


 「うっ...く、ま、待って!」


 それを見た少女は、咳き込みながら、去りゆく男を止めようとするが、男は聞く耳を持たずにどんどん遠ざかってゆく。


 (...何故、私私を助けたの...?取り敢えず、戻ってから考えましょうか、回収班読んでたみたいだし。)


 少女は、既にこの場から去ってしまった男の事を考えるが、ガスマスク男が呼んだ回収班の事を思い出し、一先ずは胸に仕舞い込み、目的の場所へ駆け出した。


 そして、この場には、壁に突き刺さったガスマスク男だけが残され、何処か、寂しい風が、弱々しく吹いた。


 

 

 


 

 

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